恩田陸さん、『猫と針』

 私って案外、戯曲を読むのは嫌いじゃないようだ。想像を働かせる余地があるね。

 『猫と針』、恩田陸を読みました。
 

 “人はその場にいない人の話をする”――これ、実際にお芝居のキャッチコピーだったのですね。私はこの一言ですぐに、シニカルでちょっと意地悪な(ほめてるのな恩田さんらしさを感じてしまいました。もしも誰かに面と向かって言われたら、なんて身も蓋もないことを…と眉をひそめたくなるかも知れないけれど、現実はその通りだものね。人の習性と言っていいくらい。そういうところに作品の照準を合わせてくるのが、何て言うか恩田色だなぁ…と。
 誰かの噂をしていると、その当人が姿を現したりする場面も凄くリアルでした。そこでぴたっと話が止まって、微妙な空気が漂って…(あれ、苦手だ)。

 友人の葬式の帰り、久し振りに顔を合わせたらしい男女五人。だから皆黒尽くめなのだが、この“黒尽くめ”がもう一つの展開に繋がっていくところ、面白いと思いました。 
 友人の他殺死をめぐる謎を一つの軸とすると、もう一つの軸は、この五人が喪服姿で集まることになったそもそもの理由、かな。ただ葬式の帰りだからではなく、もう一つの目的があって彼らは黒尽くめなのである。そしてこの目的に関しては、彼ら自身にも真の狙いがわかっていない…。不穏が空気が強まる中、五人の思惑が錯綜する。   
 「『猫と針』日記」が面白かったです。裏話。 
 そうそう、猫は出てきたけれど…。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )