中島京子さん、『イトウの恋』

 こういう小説は大の大の大好物であります!
 中島さんの作品を読むのはまだ4作品目ですが、これはむぎゅっと抱きしめたいくらい好きでした。

 『イトウの恋』、中島京子を読みました。
 

 作中ではI・Bとされている日本の奥地を旅する英国女性は、明治時代に日本を訪れたイギリスの旅行家イザベラ・バードであることが分かります。そして通訳として彼女の旅を助ける青年イトウも、実在した伊藤亀吉という人物がモデルとなっています。
 そのイトウの手記を、実家の屋根裏から発掘(?)してしまったのが、冴えない風体の新米中学校教師・久保耕平です。途中で途切れてしまう手記を読み、これには続きがあるはず、なければならぬ!と強く思った耕平は、顧問を勤める郷土部の活動に言寄せて、イトウの孫の娘にあたる田中シゲルに一通の手紙を出すことにしました。 
 そうしてこの物語では、久保たちのいる現代の日本と、イトウの手記によって生き生きと立ち現われてくる明治時代と、二つの舞台でのストーリーが交互に描かれていきます。

 耕平の実家の屋根裏で、誰かに見付けられるのをひっそりと待っていたイトウの手記。まるで手記に呼び寄せられたようにすんなりと、手に取っていた耕平。
 現実的には行き来の不可能な時空の壁を飛び越えて、誰かと誰かの真心が、繋がり合ったり響き合ったりする。そんな、かけがえのない奇跡のように素敵なこと。それを垣間見せてくれるこの作品が、とても好きです。 
 時空を超えた響き合いは、先ず物語の登場人物たちの間で起こるのだけれど、それを読んでいる私と彼らとの間にも起こっているのだと思います。そんな風に響き合いの連鎖が生まれてくる様が、まるで目の前に見えるみたいで胸がわくわくしました。

 中島さんの滋味あふるる文章は、とても読みやすくてどことなくユーモラスです。特に耕平とシゲルのやりとりの惚けた味わいや、どんどん頼もしくなっていく赤堀真を交えた3人の会話などは、とても微笑ましくて楽しかったです。
 そしてまたイトウの手記がとてもいいです。18歳の日本人の青年が、倍以上も年上の異国の女性に恋をするという設定を、ちゃんと説得力を伴った筆致で描き切っているところに、むむむ…と舌を巻きました。ああ、面白かった…。

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