エイミー・ベンダー、『燃えるスカートの少女』

 一日中続く雨降り。すっぽりと降りこめられる。
 こんなにも雨の気配に包まれた時間を過ごしていると、ふと子供の頃にした“漂流ごっこ”を思い出します。本当の漂流者の気持ちはわかりようもないけれど、雨の気配にぐるりと取り巻かれているときに、世界の片隅にある淵を漂流している空想に耽るのが子供の頃から好きでした。ああ、雨…。 

 これはとても好きな短篇集でした。子供の頃のこととか家族のこととか、とりとめもなく思い出されてしまいました。
 『燃えるスカートの少女』、エイミー・ベンダーを読みました。


 収められているのは、「思い出す人」「私の名前を呼んで」「溝への忘れもの」「ボウル」「マジパン」「どうかおしずかに」「皮なしフーガ」「酔っ払いのミミ」「この娘をやっちゃえ」「癒す人」「無くした人」「遺産」「ポーランド語で夢見る」「指輪」「燃えるスカートの少女」、です。
 特に短いものはほんの数ページの小品です。かく言う私は、短篇集であることすら知らずに手に取っていました。もともとタイトルに惹かれていたのですが、このたびの文庫の装丁が単行本のそれよりも私好みでしたので、それもちょっぴり嬉しかったりして。

 最初に収められている「思い出す人」は、恋人が人間から逆進化していく話。何とも言えないさみしさに満ちた小品で、私はとても好きでした。何となく、主人公のアニーのイメージが表紙の少女とかぶります。

 他に好きだった「マジパン」は、十歳の女の子の父親のお腹に、サッカーボール大の穴があいてしまった!という場面から始まる、相当に奇妙で不可解な話です。なんだろう…?なんて言うか…。そもそも私は、家族って本当は色んな矛盾や葛藤を抱えているのに、それでも繋がり続けていようとする意思が強力に働いていたりするところが、何とも不可解な絆だと感じているので、この作品の持つ不可思議さには惹かれずにいられなかったです。
 少女たちの両親である一組の夫婦に、さらにその父親や母親の存在が絡んでくるところが面白かったです。少女たちの祖父や祖母が話に入ってくると、その真ん中にいる夫婦は親でもあり子どもでもある訳で、親子関係ってそうやって繰り返されていくんだなぁ…と。自分の親から愛されたり傷付けられたりしたように、自分の子どもを愛したり傷付けたりして、そうやってあの不可解な絆を強めていくものなのかなぁ…と。 
 そしてときどき、その絆に綻びが生じると、強引に辻褄を合わせようとしていた皺寄せが噴き出すのかも? 誰かのお腹に穴があくとかして。

 どれを挙げても好きな作品ばかりですが、「癒す人」も凄くよかったです。まず設定が飛び切りの奇抜さで、それでいて描かれていることは不思議とわかりやすい。突然変異の女の子が町に二人いて、一人は火の手を持ち、もう一人は氷の手を持っていた…という話です。これはラストが素晴らしかったです。かなしいようで、やさしいラストです。特に最後の一文…(ううっ)。

コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )