河野多惠子さん、山田詠美さん、『文学問答』

 河野多惠子さんと山田詠美さんの、対談集。綺麗な配色の装丁でしかも函入りと、飾っておきたくなるような一冊です。
 タイトルを思い出そうとするとどうしてか、“問答無用”の文字が先に浮かび上がってしまうのは、たぶん私の愛嬌です。

 本好き文学好きな方たちに大好評な対談集、ちと遅ればせながら私も「これは読まねば…!」と。
 『文学問答』、河野多惠子・山田詠美を読みました。
 

 「人と文学をなめる人はだめ」――。
 帯に抜き取られた河野さんの一言が、まことに渋いじゃあございませんか。 

 この対談集、発売当初から気になりつつ手に取るのが遅くなりましたけれど、傾倒する河野多惠子さんのお名前にはずっと反応していたのです。 ああ、私が“傾倒”なんて言うのは、あまりにもおこがましいのはわかっています。でも、まだまだ未読の作品があるとは言え、読ませていただいた作品にはいつも心酔しているのですもの…! きゃ…!
 (…失礼しました)
 で、河野さんの対談のお相手が山田詠美さんですが、山田さんと言えば私にとっては、何となく気になりつつも未だにあまり読めていない作家さんです。『姫君』はとても好きですが…(そうそう昔、『アニマル・ロジック』でつまづいたわ)。
 でもこの対談集を読んでいるとやはり、作品以前に山田さんの大らかな人柄に心底魅了されてしまいます。河野さんを大先輩として立てつつ細やかに気を配りつつ、でも肝心な文学の話になると対等な立場で言葉を交わせる才覚。本当に、デビュー当時から文壇で大切にされていたことが、「この人なら当然だろう」と思わせてしまう、愛らしい人柄の良さが随所から滲み出ています。いいなぁ、来年こそはエイミーを読もう…!

 以前読んだ『小説の秘密をめぐる十二章』で、河野さんが大谷崎を、ほとんど崇拝されていることは一応存じていたのですが、この対談集でもっと熱く谷崎を語られている言葉に触れることが出来たのも、大変に嬉しかったです。来年こそは、『卍』を再読しよう…!

 色んな話が読めてほくほくな一冊。特にやはり後半の文学賞や文壇についての章には、身を乗り出したくなるような面白さもあり興奮してしまいました。普段なかなか知ることの出来ない、文学賞を選ぶ立場にいらっしゃることの気苦労とか、でも結局自分が推した人が受賞しなくても、受賞者の喜びのコメントを見れば「良かったなあ」と思う話とか、ちょっとしびれてしまいましたよ。
 私は芥川賞・直木賞には左程関心がないけれど、大変な重みを持つ文学賞なのだなぁ…と、感じ入ってしまう箇所もありました。

 それにしても河野さんの断定的な言葉の数々は、何と気持ちの良いことか。川端康成を捉まえて、「『真珠夫人』の解説は雑文です」なんて、素敵過ぎます。
 あと個人的には、純文学とエンターテインメントはやっぱり違う、“差別はしないけど、区分けはあるということは意識しておかないと”という話も興味深く読みました。他にも山田さんの言葉で、とある座談会(林、浅田、出久根の三氏による)に腹を立てて、“『純文学の雑誌に書いてごらんなさいよ、酷評されてもいいんだったら』と思った”、“純文学の書き手は酷評に慣れまくってるんだから”という話が出てくる箇所も、「ほお~っ」と何度も頷き興がりながら読み入ってしまいました。 
 この二人の話を読んでいると、「やっぱ純文学って格好良い!」って思ってしまいますよ、ほんと。 

 前線で活躍されるお二人だからこその、文士としての姿勢。そして文学への尽きせぬ思い。平伏したくなる一冊でした。

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