ケリー・リンク、『マジック・フォー・ビギナーズ』

 今日は(も?)二人でお昼からビール。立ち呑みのお店も初体験して、梅田から帰ってくる頃にはほろ酔い気分でした。
 そして、電車の中で本を読んでいたのだけれど、あまりにもへんてこりんで奇妙なお話なので、二重三重に酔ってしまいそうになったのでありました。 

 10月に読んだ『スペシャリストの帽子』がとても好きだったので、さっそく図書館で予約した本です。 
 『マジック・フォー・ビギナーズ』、ケリー・リンクを読みました。

 収められているのは、「妖精のハンドバッグ」「ザ・ホルトラク」「大砲」「石の動物」「猫の皮」「いくつかのゾンビ不測事態対応策」「大いなる離婚」「マジック・フォー・ビギナーズ」「しばしの沈黙」の、9篇です。
 『スペシャリストの帽子』を読んでいたときもそうだったけれど、何度もぐらぐらしたり、戸惑ったりしてしまいました。丁寧に読んでいるはずなのに、自分がぽろぽろ言葉をこぼしてしまっているのではないかしら…?と不安になって、少し後戻りをして辺りを見回してみても、どこにも納得のゆく説明を見つけ出せないときの心もとなさは、馴染んでしまうとだんだん快感になってきて堪えられません。
 人間って、ホンの少しだけ視点がぶれたり視界がかしいだりするだけで、すぐに具合が悪くなってしまうものなのだなぁ…と感じ入りつつ、どうしてこんな物語ばかりを紡ぎだせるのかと、本当に不思議です。 

 どの作品で描かれているのも、普通のありふれた日常のヴェールをペロンとひん剥いたところに現れてくる、凄く不気味だったり不条理だったりする虚構の世界ですが、そんな作品の全てに共通して言えることは、やはり、忘れがたい印象がいつまでも後をひく…ことでした。本を読んでいないときでさえ、不可思議な残像が付き纏うようでしたよ。

  比較的読みやすいのは、「妖精のハンドバッグ」でしょうか。残酷童話のような味わいの「猫の皮」も、私は好きでした。 
 ゾンピやら死者が生者たちの中に立ち混じっているのが、なぜかその世界ではありふれたこととして受け入れられている話の「ザ・ホルトラク」や、「多いなる離婚」も面白かったです。ゾンビと死者の違いは、生者にその姿が見えるか見えないか(実態があるか霊的な存在か?)なのですけれど、ゾンビも死者も元は生者だったとすると、ゾンビになるか死者になるかはいったいどこで違ってくるのかなぁ…? いやそれとも、ゾンビはもともと異境の存在だから話が違うのかしら?
 例えば「大いなる離婚」に出てくる夫婦は、妻の方がもともと死者なので、夫にはそもそもその姿が見えなくて、霊媒の女性を仲介にして離婚の話を進める…という、あえてさらっと読んでしまわないと頭の中がこんがらかりそうになる話ですが、ケリー・リンクの作風には、そういうシュールさに麻痺させてしまう効用があるのかもしれませんね。

 再読がしたくなる作品ばかりなので、いつか文庫化してくれると嬉しいです。どんなに繰り返し読んでみたところで、また同じ箇所で途方に暮れてしまうかもしれない。でも、そこがまたこの作家さんを読む醍醐味なのでしょうね。

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