ジャネット・ウィンターソン、『灯台守の話』

 平積みの棚から呼びとめられて、きゅん…とときめいてしまった本。
 クラフト・エヴィング商會の素敵な装丁も決め手になりまして、連れて帰らずにはいられなかったわけです。
 本を読み続けている限り私は、毎日毎日誰かに出会い、毎日毎日新しい物語に出会っている。そして今日私が出会ったのは、シルバーにピューにバベル・ダーク…。

 『灯台守の話』、ジャネット・ウィンターソンを読みました。
 

〔 やがてだんだんと他の者たちもそれに加わって、そうしてすべての灯台には物語があることがわかったんだ。いや、すべての灯台が物語だった。そしてそこから海に向かって放たれる光もまた、導き、報せ、慰め、戒めてくれる、物語そのものだった。 〕 49頁 P.49

 始終、シルバーの息遣いさえ伝わり聞こえてきそうだったのは、この作品の語りの力強さゆえでしょうか?
 “崖の上に斜めに突き刺さって建っていた”家で、母親と二人で暮らすシルバーの語り口から、「おお、これは面白そう…」と引き込まれるや否や、あっと言う間にシルバーはみなし児となり、灯台守ピューの元で見習いとしての生活を始めることとなります。
 灯台守って、いったい何だったんだろう・・・?
 灯台守の大切な役目は、光の世話をすること。そしてもう一つ、光を絶やさないようにするために、物語を語り継いでいくこと。船乗りたちよりも物語を知っているのが、いい灯台守だ。絶やすことなく物語を集め、光を絶やさないように。

 灯台守のピューがシルバーに語り聴かせたのは、バベル・ダークの物語。愛を失った男の物語。ロバート・ルイス・スティーブンソンに、のちにジキルとハイドの物語を思いつかせたとも言われている、バベル・ダークの物語が、百年の時を隔ててシルバーの物語と絡みつつ、不思議な模様を描いていく。
 バベル・ダークに訪れる最後のときと、ラストの場面を照らす優しい一条の光が、まなうらでたゆたって忘れられない。

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