山尾悠子さん、『ラピスラズリ』

 三月の部屋で、ただただうっとり。現実の私はしばしの留守。
 『ラピスラズリ』、山尾悠子を読みました。

 この物語は長篇ですが、連作短篇の読み心地。幾つかの共通するキーワードを持つ別々の筋が、ただ美しい絵画が並べられ飾られているように…そこにある。そんな感じです。
 第一章「銅版」の中からたち現れてくるのは、深夜営業の画廊の様子です。主人公がいるのは、“横並びに展示された三枚組みの銅版画”の前。それらは“古めかしい意匠の小説の挿絵として製作されたものらしい”のですが…はて。そこへ店主が話しかけます、“画題(タイトル)をお知りになりたくはありませんか”――。それは左から順に、「人形狂いの奥方への使い」「冬寝室」「使用人の反乱」。もともとの物語はとうに失われた、三枚の挿絵。それらは本当は何を意味していたのか。 

 沈鬱で不穏な空気感をまとう、ひやりと硬質な文章。何処にもたどり着かない話の筋と、完結することのないイメージの広がり…ただ漠と広がり続ける。奥深くまでいざなわれる快感とともに、置いてけぼりにされそうな不安も拭えぬまま。この味を1度覚えてしまったら、抜け出せなくなる…。
 遠い子供の頃、突然目の前に現れたギュスターブ・モローの絵に魅入られて、そのまま戻ってこられなくなったことがあるのを思い出していました。なんて危険なこと…。
 (2007.3.22)
 

 『ラピスラズリ』 再読 2011.10.10

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )