中山可穂さん、『弱法師』

 ホワイトデーおめでとう。白と灰色のまだらな冬空。マロンタルトとアップルタルトをもらいました。
 『弱法師』、中山可穂を読みました。

 “わたしはあなたの手を見て泣いた。春の金色の光の中であなたの手は虚空にむかってひらかれていた。まるで何かを、ひらひらと跳ねまわる気まぐれな何かを無心に掴みとろうとするかのように。やがてその手はわたしの上に落ちてきた。” 85頁

 叶わぬ恋こそ美しい、か。収録されているのは「弱法師」「卒塔婆小町」「浮舟」の3篇です。
 能を下敷きにしたシリーズになっていますが、後の作品ほどよかったです。
 これでもかと畳み掛けるように言葉を駆使しては、目くるめくようなイメージを喚起させながら読ませる…そんな印象を受けました。その呼び起こされる情景がとても美しいので、うっとりしてしまいます。

 三つの物語の中で描かれた“かなわぬ恋”とは、どれも所謂片思いのことではありません。もっと激しくてもっと厳しい、狂恋です。
 二つの孤独な魂が、互いに強くひかれあっているのは痛いほど確かなのに、互いの道を重ね合わせて共に幸せな人生を送る方法が、どうしてもこの地上では永遠に見つけられない。だから、一緒にはいられない。そんな、狂恋。かなわぬ恋こそ美しい…それはそうかもしれないけれど。  
 この世で叶わせることを諦めた恋が、息もたえだえになって、あるかなきかに透き通ってとうとう何も求めない愛に生まれ変わるときこそ、真に美しいのかもしれません。ただ、そこにたどり着くまでがあまりにも凄絶です。ラストがとても素敵なので、最後に救われるようでした。
 (2007.3.14)

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