計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

AIやロボットが労働を担う時代

2018年10月07日 | オピニオン・コメント
NHKスペシャル(2018年10月07日)
マネー・ワールド ~資本主義の未来~ 第2集 仕事がなくなる!?
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20181007

 人間の仕事のほとんどがAIに奪われる・・・そのような危機を煽られながら、歴史上の出来事が幾つか脳裏に浮かんできました。

 中世の日本における武士の主従関係、すなわち「御恩と奉公」の体制が確立したのは、鎌倉幕府の頃と言われています。将軍(鎌倉殿)と御家人は、互いに「ギヴ・アンド・デイク」の関係が成立しています。しかし、元寇の後の御家人への恩賞給与は僅かに留まったことなどから、この「ギヴ・アンド・デイク」の関係に綻びが生じました。御家人は次第にの経済的に圧迫され、幕府に対して不満を持つようになりました。この結果、鎌倉幕府の滅亡にまで発展しました。

 また、19世紀初頭のイギリスでは、資本家は労働者に賃金を与え、労働者は資本家のために労働を担っていました。資本家と労働者は、互いに「ギヴ・アンド・デイク」の関係が成立しています。さて、産業革命によって生産の機械化が進み、生産労働が人間から機械にシフトすることで、こちらも「ギヴ・アンド・デイク」の関係に綻びが生じました。労働者の失業不安は次第に高まり、機械化の波に抵抗する機運も高まりました。この結果、ラッダイト運動の嵐が巻き起こりました。

 現在の資本主義社会でも、資本家は労働者に賃金を与え、労働者は資本家のために労働を担っています。資本家と労働者は互いに「ギヴ・アンド・デイク」の関係が成立しています。さて、AIによる業務の自動化・効率化が進み、多岐にわたる分野で、「ギヴ・アンド・デイク」の関係に綻びが生じ始めています。資本家は労働者に頼ることなく、AIやロボットを使って収益を上げることが出来ます。労働者は収入を得にくくなり、さらにレーゾンデートルも失われるような事態も予想されています。

 さらに、「レーゾンデートルの喪失」という点では、明治維新に伴う徴兵令の発布が思い浮かびます。この徴兵令の発布により、レーゾンデートルを失った士族(旧武士)達の不満が高まりました。そしてそれは、後の西南戦争にまで発展しました。

 人間による「財の消費」が無ければ、そもそも経済は回りません。収入を得られなければ、人間は消費行動を起こすことが難しくなります。また、レーゾンデートルが無ければ、人間は自らの社会的な居場所を見出すことが出来ません。

 経済活動の本質は「ギヴ・アンド・デイク」です。現在のビジネスにおける「ステークホルダー」としては大きく分けて「経営者・従業員・出資者・顧客」の四者が存在します。そして、この四者は互いに「ギヴ・アンド・デイク」の関係でつながっています。この中で、AIやロボットは「従業員」のポジションにはなれますが、その他のポジションにはなれません。

 人は誰でも「財の消費」を行う際は、「顧客」のポジションに立ちます。しかし、その前提として「財の消費」に対する「貨幣(対価)」を支払う必要があります。つまり、収入があることが前提となります。その収入を得るために、多くの人は「従業員」のポジションに立って、労働に従事しています。このポジションをAIやロボットに取って代わられることは、多くの人の「収入を得る手段」が断たれることにもなり得るのです。それはすなわち、経済活動の先細りにつながるリスクでもあるのです。すなわち、「賃金収入の減少→購買意欲の減少→経済活動(消費活動)の縮小→企業収益の減少→税収の減少」という負の連鎖になるでしょう。もちろん、少子化も加速するでしょう。

 将来を見据えて、「ベーシックインカム」など、何らかの対策を考えて行かないと、経済活動が立ち行かなくなる恐れもあるのではないか、と感じています。財源の確保については「法人税」がまず候補に挙がりますが、EUでは「ロボット税」を導入しているようです。また、AIやロボットによる業務効率化を活用して、国全体としてのGDPの向上を目指すという考え方もあるでしょう。単純に「AIに仕事を奪われる」等と目先の事をセンセーショナルに煽っている場合では無く、資本主義社会の体制や構造が大きく変わってしまうかも知れません。

 「AIが得意なことはAIに、人間が強い分野は人間に」「AIに奪われるのを恐れるのではなく、AIを使ってどんな事業を進めていくのか」と言った発想の転換が必要ではないでしょうか。

 例えば、事業の方向性を示し、計画に落とし込むまでは「人間」が行い、実際の現場の最前線の仕事を「AIやロボット」が担うのです。個々の細分化された業務は「AIやロボット」に任せ、それらを統括・監督する役割を「人間」が担えば良いのです。

 世間では「AI」は何やら「不気味な存在」のようなイメージで語られることが多いですが、結局の所「過去の蓄積」に依存します。蓄積された過去のデータを与えられ、その枠の中で学習・類推し、判断する存在です。この枠の中でパターン化された仕事に特化することで威力を発揮します。従って、ある程度パターン化、シーケンス化、あるいはルーティン化された「個々の細分化された業務」に強いのです。

 一方、人間は、枠にとらわれず自由に発想することができます。従って、パターンにとらわれず柔軟な発想で臨機応変に進められる分野については、AIに対して優位性をもつのです。パターンにとらわれず柔軟な発想で事業の方向性を示し、臨機応変に計画を修正し、不測の事態に対処するのは人間の範疇です。人間は機械とは異なり、自由な発想ができます。それは機械に比べて「アバウト」であり「いい加減」、さらに言えば「気まぐれ」な気質を持っているという事も出来ます。一見、ネガティブな言葉にも見えますが、見方を変えれば「AIに対する優位性」と捉えることもできるでしょう。

 進化論で有名なダーウィンの言葉とされているものに「強い者が残るのではなく、賢いものが生き残るのでもなく、変化に対応できるものが生き残る」があります。AIが台頭する時代は、社会が大きく変化する時代です。時々刻々と変化する社会の流れを見据えつつ、何が求められているのか、その要請に応えるためには何をどうすれば良いのか、それを常に考え、試行錯誤することが人間に役割なのかもしれません。その上で具体的な作業はAIにどんどん割り振って行くような分業体制になるのかな・・・と漠然と考えています。

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7 コメント

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御参考までに (qq_otenki_s)
2018-10-08 22:18:42
 これまでの人工知能に関して次のような記事を書いてきました。

 ニューラルネットワークに関するものだけですが、その「からくり」について理解を深める一助となれば幸甚です。

・現時点では、人工知能は「道具」(2018年09月15日)
 https://blog.goo.ne.jp/qq_otenki_s/e/fe2d24a093d8cf3d5769eea94779e2b6

・「ニューラルネットワーク」とは何か?(2015年09月13日)
 https://blog.goo.ne.jp/qq_otenki_s/e/611a083ab486435d834ce76032ed6472

・ニューラルネットワークを学ぶことは、人間の「学習」を学ぶことに通ず(2015年06月22日)
 https://blog.goo.ne.jp/qq_otenki_s/e/653c7a5fb23a02528ff321790b4cc4b4

・ニューラルネットワークと重回帰分析(2015年06月21日)
 https://blog.goo.ne.jp/qq_otenki_s/e/8fc3547c6f3d87e2a91f61b6aea4573b
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賛成 (tnlabo)
2018-10-10 16:50:20
 科学技術や労働の世界は人間が主人公です。人間がいなければ何も起こりません。
 AIもロボットも人間が作ったものですから、人間社会が豊かで快適になるよう利用するシステムを人間が考えればいいのでしょう。
 楽しむことのできるのは人間だけです。機械は楽しむ事は出来ません。
 機械が自分で楽しさを求めるようになったら、その時は大変ですが。
 
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ありがとうございます。 (qq_otenki_s)
2018-10-10 17:21:31
tnlaboさん、コメント頂きありがとうございます。

社会の変化をいたずらに不安視するのではなく、
おっしゃる通り「人間社会が豊かで快適になるよう利用するシステム」の在り方を考える方が建設的と思います。

新しい時代を「楽しむ」ためのアイデアを模索することが出来るのは、やはり「人間ならでは」ですね。
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すいませんm(__)m (うさぎ)
2018-10-16 22:50:28
とても面白く、自動的に更新がわかるように読者登録させてもらいましたm(__)m
楽しみにしております!
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ありがとうございますm(__)m (qq_otenki_s)
2018-10-16 23:03:30
うさぎさん、読者登録を頂きありがとうございます。
気まぐれで更新するブログではありますが、今後とも宜しくお願いします。
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機械は人間を超えられない・・・。 (mobile)
2019-01-11 10:42:21
数学者ゲーデルが唱えた『不完全性定理』によりますと『あらゆる公理体系はそれ自身では説明できない事象を1つ以上含んでいる』ことになり、プログラム化されたAIにはそれを解決できない、はずと考えます。
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参考になります。 (qq_otenki_s)
2019-01-11 11:37:26
 mobileさん、ゲーデルの『不完全性定理』を教えて頂き、ありがとうございます。
 最近は「シンギュラリティ」と言う言葉を見聞することが多くなりましたが、そのような中での『不完全性定理』の視点からの見解はとても参考になります。
 AIも結局は人間が開発したプログラムなので、「プログラム化されたAIにはそれを解決できない」という御意見は自然に受け止められます。
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