計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

傾圧不安定と偏西風波動、温帯低気圧の構造とライフサイクル

2011年05月06日 | お天気のあれこれ
 さて、連休も終わり・・・いよいよ今日から仕事始めの方も多いのではないでしょうか。

 これまで、大気大循環と温度風について述べてきましたので、傾圧不安定と偏西風波動、さらには温帯低気圧の構造とライフサイクルについても解説していきましょう。


図1.偏西風波動(傾圧不安定波)の発生


 既に述べたように、ジェット気流南北の温度差によって生じる傾圧性強化の結果、形成されるものですが、この傾圧性が過度に強化されると力学的に不安定な状態(傾圧不安定)となります。これは、傾圧性が強まりすぎると、その分余計に位置エネルギーを抱える事になる事を意味します。この余剰エネルギーを消費するために、大気は余分な動きをする事によりこれを解消しようとします。これが偏西風波動(傾圧不安定波)の形で具現化します。エネルギー論の視点からは、帯状有効位置エネルギー渦有効運動エネルギーに変換されると考えられます。


図2.偏西風波動の位相と高気圧・低気圧の対応


 地上から高層までをトータルで見ると、この偏西風波動の南側は相対的に高温・高圧であり、北側は相対的に低温・低圧となるため、波動が上(北)に盛り上がる位相(リッジ)では高温・高圧下(南)に盛り下がる位相(トラフ)では低温・低圧の特性が卓越します。従って、リッジとトラフはそれぞれ上空における高気圧、低気圧に対応しています。


図3.高気圧・低気圧と鉛直流


 図3には地上と上空の高気圧と低気圧の簡単な構造を示しました。このような図は中学校の理科(第2分野)でも履修したと思いますが、ここでもう一度確認しておきましょう。

 地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。

 その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます


図4.温帯低気圧の三次元構造


 図4には実際の温帯低気圧の三次元構造を示しました。上空のジェット気流、転移層、地上前線の対応関係は既に述べた通りです。転移層の前方(南東側)では南方から暖かい流れが転移層に流れ込みながら上昇する一方、転移層の後方(西側)では北西方から冷たい流れが転移層に流れ込みながら下降しています。


図5.温帯低気圧のライフサイクル


 図5には温帯低気圧のライフサイクルを示しました。上空のトラフが深まるにつれて低気圧も発達し、やがて閉塞していきます。

 このように・・・地球放射と太陽放射の熱収支により、南北方向に熱的不均衡を生じます。この不均衡を解消するべく、大気の大循環による熱輸送を実現しようとしますがコリオリの力が働くため、大循環の構造は三細胞構造となります。このため、隣接する二つの循環が接する領域では転移層が形成され、その上空では温度風の関係を満たすべく偏西風ジェット気流が形成されます。このプロセスにおいて傾圧性が過度に強化されると、大気は力学的な不安定性(傾圧不安定性)が強められ、この不安定性を解消するべく偏西風波動が形成されます。この波動のトラフの位相が低気圧に相当し、転移層前線面に相当する。この一連の結果、前線を伴う低気圧(温帯低気圧)が形成されます。これらのメカニズムは、地球大気の絶妙なバランスの上に成り立っているのです。


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