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計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

温室効果の仕組みをどのように理解するか

2021年11月14日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897845869.html


 今回は、前回の記事「気候変動の背景をどのように理解するか」の続編になります。

 前回は、平均気温の上昇傾向を取り巻く背景について、メモを記載しました。そこでは「人間活動に伴う温室効果ガスの増加がトリガーとなり、水蒸気フィードバックを通じて気温上昇に寄与している」との考え方を示しました。しかしながら、肝心の「温室効果」そのものには触れておりませんでした。

 そこで今回は「温室効果」にスポットを当てて、メモの続きを書き記したいと思います。今回の前半は「マクロの視点」で放射平衡と大気層の影響に着目し、後半では「ミクロの視点」で赤外吸収と分子の動きに着目します。


【マクロの視点(温室効果とは何か)】

 物体が発する熱が電磁波の形となって伝わる現象を「放射」と言います。太陽から発せられる放射(太陽放射)は地球にも降り注ぎ、地球上の大気大循環を駆動する源となっています。


 太陽放射の強さはS≒1370[W/m2]であり、これを太陽定数と言います。地球を球体と仮定した場合の半径をRとすると、πR2の面積に相当する放射エネルギー(SπR2)が地球に降り注ぐことになります。この放射は、地球の表面積の半分の領域(太陽に向いている側)で受け取ります。

 一方、地球の表面(大気の上端)で太陽放射の一部を反射します。その割合(アルベド)は、A≒0.3とされています。従って、地球大気に降り注ぐ太陽放射はS(1-A)πR2となります。


 一方、太陽が放射を発するように、地球もまた放射を発します(地球放射)。この放射は常に全ての表面積(4πR2)から発せされます。いま、地球表面の平均温度をTeとすると、放射エネルギーIはステファン・ボルツマンの法則から「I=σTe4」で表されます。ここで、σは比例定数(ステファン・ボルツマン定数)です。

 すなわち、地球は太陽からエネルギー(熱)を吸収する一方で、自らもエネルギー(熱)を宇宙に放出しているのです。この両者のバランスによって地球表面(地表面)の平均温度Teが決まります。


 それでは、上の図のように太陽放射I0と地球放射σTe4のバランスによって、地球表面における平均的な温度Teが決まると考えてみましょう。つまり、次の方程式を解いてTeを求めます。

0=S(1-A)πR2

0=4πR2σTe4 (※11/16修正)

 ところが実際に解いてみると・・・Teの値は「254K」つまり「-19℃」となります。この温度を放射平衡温度と言いますが、それにしても現実とはかけ離れた値です(こんなに寒いわけないでしょ・・・)。

 要するに、単純に太陽放射と地球放射のバランスを考えるだけでは不十分と言うことです。そこで新たに「大気の影響」を加えて考えることにしましょう。ここでは簡単のため、大気を均一な一層構造とします。

 太陽放射I0は、その一部αI0を大気層に吸収され、残り(1-α)I0が地表面に到達します。また、地球放射Ieはその一部βIeを大気層に吸収され、残り(1-β)Ieが宇宙空間に放出されます。(ここで、0<α<1,0<β<1です)

 大気層は、吸収したαI0とβIeにより温度をTaに保ちます。さらに、地表面と宇宙空間に向かって各々σTa4を放出します(熱の再分配)。つまり、次の連立方程式が成り立ちます。

0=S(1-A)/4=σT04 (※11/16修正)

e=σTe4

αI0+βIe=2σTa4

(1-α)I0+σTa4=Ie

 これを解いてみると・・・Teの値は「288K」つまり「+15℃」となります。今度は現実的な値になりました。この結果から、太陽放射と地球放射に加えて大気層の存在を考慮することが大切、ということが判りました。

 もし、大気層が存在せず、地球の表面温度が太陽放射と地球放射のバランスのみで決まるのであれば、その温度は非常に低くなります。しかし実際には大気層が存在し、地球放射が宇宙空間にそのまま全てが逃げるのを防ぐことで、地球の表面温度は温暖な水準に保たれています。

 このプロセスはまるで「大気の層が布団のような役割を担っている」ようにも見えます。これが「温室効果」のイメージです。そして、この「温室効果」の本質を担うのが、大気中に含まれる「温室効果ガス」と呼ばれる成分です。


【ミクロの視点(温室効果ガスとは何か)】

 ここからはさらにミクロな視点で考えます。まずは、下図に空気を構成する主な成分(分子)の種類を挙げてみます。


 見ての通り、乾燥空気の約99%は酸素(O2)と窒素(N2)です。残り1%の中に水素(H2)や二酸化炭素(CO2)などが含まれます。また、実際の空気における水蒸気(H2O)の比率は定まっていません。そして、二酸化炭素(CO2)や水蒸気(H2O)は温室効果ガスである一方、酸素(O2)、窒素(N2)および水素(H2)は温室効果ガスではありません。

 さて、あらためて注目したいのは、二酸化炭素(CO2)の比率は僅か0.03%であるということです。換言すれば、これほど微量の存在が地球温暖化のような大きな影響を引き起こし得るのか、と疑問にさえ感じます。

 しかしながら、「存在自体は微々たるものであっても、大きな影響を及ぼし得る」事例は身近にもあるものです。例えばウイルスなどは非常に小さい存在ではありますが、人間の体に大きな影響を及ぼすことがあります。つまり、存在自体は微々たるものでも、何らかの特徴や能力を持っていれば、自分よりも巨大な存在に影響を及ぼす可能性はあり得ます(少なくとも否定はできません)。

 ここでは、その「特徴や能力」の一つとして「温室効果」について深堀して行きます。まずは、黒体放射の性質について概観しましょう。熱の伝わり方には大きく分けて、熱伝導熱伝達熱放射の3つの形があります。その中の「熱放射」(以下、「放射」)とは、熱を「電磁波」の形でやり取りする形態です(他の2つは割愛します)。


 あらゆる物体(物質)は、外部からの熱を放射電磁波)という形で吸収し、また外部に熱を放射電磁波)の形で放出する性質を持っています。しかし、現実には外部からの放射を全て吸収しているのではなく、一部を反射しています。また、電磁波にはさまざまな波長が含まれているので、物体(物質)によって吸収しやすい波長帯とそうでない波長帯もあります。

 そこで、外部から受けた放射を波長に関わらず全て吸収し、再び外部に放出する理想的な物体を仮定します。これを「黒体」と言います。黒体は受けた放射を全て吸収すると同時に、その分だけ自らも放射(黒体放射)します(よく吸収する黒体は、よく放射します)。その際に含まれる波長帯(正確にはピークの波長)は、黒体の表面温度に反比例します(ウィーンの変位則)。

 要するに「高温の黒体から発せされる放射の波長は短いものが多く、低温の黒体から発せられる放射の波長は長いものが多い」と言うことです。波長の短い電磁波(短波)には紫外線可視光線が含まれ、波長の長い電磁波(長波)には赤外線などがあります。

 ちなみに、太陽放射は短波放射、地球放射は長波放射または赤外放射とも呼ばれます。太陽は高温なのでピーク波長は短くなる一方、地球はより低温なのでピーク波長が長くなるためです。しかし実際は、太陽放射には様々な波長の電磁波が含まれています。紫外線や可視光線などの短波をピークとしつつも、赤外線などの長波もしっかり含んでいます。このため、太陽の光は眩しいほどに明るく、しかも熱を持っていて温かいのです。


 さて、短波と長波では、物質を構成する原子や分子に与える影響が異なります。短波は原子の中にある電子の状態に変化を与えます。一方、長波は分子の動きに変化を与えます。


 原子の構造については「ボーアの原子模型」が有名です。これは「電子が原子核の周囲を円運動する」と言うものです。上の図のように電子がぐるぐると回る軌道は、原子核を中心とする同心円状に複数存在します。

 各軌道には内側(原子核の近く)から順に、K殻L殻M殻・・・と名前がついています。また、外側の軌道ほどエネルギーレベル(エネルギー準位)の高い状態となります。


 原子内部に短波が吸収されると、電子はより外側の軌道に飛び移ります(電子遷移)。吸収された短波によってエネルギーがもたらされるため、電子のエネルギーレベルが上がるのです。

 この状態から電子が再びもとに軌道に戻る(電子遷移)ためには、外部に余分なエネルギーを放出する必要があります。この場合、エネルギーを短波として放出します。これに伴い、内部の電子のエネルギーレベルは下がり、電子は再び元の軌道(状態)に戻ります。

 ちなみに高度100km以上の大気では、太陽からの紫外線による光電離作用で生じた電子が多数存在し、電離層を形成しています。


 続いては、長波の影響です。長波は「分子の動き」に影響を及ぼします。

 空気中の分子が長波を吸収(赤外吸収)すると、その動き(熱運動)が活発になります。これに伴い、熱が発生します(電子遷移は起こりません)。また、原子間の結合部が伸縮して振動を生じます。この振動に伴い、分子は電磁波(長波)を発します。

 このように、長波は分子の動きを通して「熱的な影響」を及ぼすと言えるでしょう。つまり、地表面や周囲の分子から放出される長波を吸収し、自らの熱運動を活発化すると共に、分子振動のエネルギーを再び長波として周囲に放射再分配)します。この過程が大気中のあちこちで繰り返されることで、まるで布団のような「温室効果」を生み出しているのだと理解できます。

 また、分子を構成する原子間の結合部における伸縮は、大きく分けて「対称伸縮振動」と「逆対称伸縮振動」の2種類があります。分子構造と伸縮振動の組合せに応じて、赤外吸収(放射も含む)が起こる場合と起こらない場合があります。簡単にまとめると、次の表の通りです。



【参考文献】 日本分光(株),「FTIRの基礎(1) 赤外分光法の原理」 を基に作成
 https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/ftir/ftir1.html

 上の表から、窒素分子(N2)や酸素分子(O2)、水素分子(H2)は同一元素の原子2個が直線状に結合し、逆対象伸縮振動を行わないため、赤外吸収は生じません。つまり、温室効果ガスにはなれません。

 二酸化炭素分子(CO2)は異なる元素の原子が直線状に結合するため、赤外吸収が生じる場合と生じない場合があります。また、水蒸気分子(H2O)は異なる元素の原子が非直線状に結合するため、赤外吸収を生じます。これらの「赤外吸収を生じる」分子だけが、温室効果に寄与する(温室効果ガスになる)のです。

 さて、二酸化炭素(CO2)の存在比率それ自体は非常に微小なものです。しかし、その増加に伴って海面からの蒸発が徐々に促され、大気中の水蒸気(H2O)量が次第に増すことで、トータルとしての温室効果が増大します。このような「水蒸気フィードバック」については、前回の記事で述べた通りです。

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気候変動の背景をどのように理解するか

2021年11月06日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897845852.html


 私は本来「ローカル気象」を専門としています。気候変動のような「グローバル気象」の問題とは対極にあります。しかし、最近は何かと「独自の見解」を問われることが多くなりました。いわば「必要に迫られて」勉強しているようなものです。

 また、気候変動などのグローバル気象は、関係する専門分野が余りにも広大で、またバラエティに富む議論も盛んに行われております。そこで、それらの理解のための一つの「取っ掛かり」や「たたき台」として、ここにメモを書き記します。私もそうですが、読者各位の勉強の一助となれば幸いです。

 まずは、世界と日本の気温の変化を見てみましょう。気象庁HPに掲載されている観測データを基に、直近130年程度の年平均気温偏差の変化をグラフに表してみました。


 このグラフからは確かに気温上昇の傾向(上昇トレンド)が認められます。小刻みのアップ・ダウンはあるものの、長期的には緩やかな上昇傾向が現れています。この背景には「人為的要因」と「自然変動」が挙げられます。

 この2つの要因について深堀するべく、例えば次のような「特性要因図」の形で整理することができます。ここでは、自然変動について簡単のため「地球内変動」と「地球外変動」の2つに集約しています。前者は主に大気・海洋などに関する変動、後者は主に太陽活動などの影響を想定しています。


 また、世界規模(グローバル)の気温上昇と地域規模(ローカル)の気温上昇を混同してはいけません。ある地域の気温上昇には、グローバルとローカルの両方の影響が含まれます。グローバルの気温上昇は、いわば「ベースライン」の上昇です。さらにローカルの事情として土地利用の変化に伴うヒートアイランド現象など、その地域に特有の影響が加わるのです。つまり、次の式のように考えます。

(ある地域の気温上昇)=(グローバルの気温上昇)+(ローカルの気温上昇)

 続いて、気候変動のプロセスを「フローチャート」の形に整理してみました。ここで「フローチャート」が登場するというのは、情報処理の名残ですね。


 出発点は「人間活動の影響」と「自然変動」です。まずは「人間活動の影響」により、温室効果ガスが増加します。一部は海洋に吸収されますが、残りは大気中に放出されます。その各々が熱の蓄積や海面水温・平均気温の上昇に寄与します。その一方で「自然変動」が海面水温・平均気温の上昇に寄与する過程も考えられます。そして、これらの影響がやがて海面上昇や異常気象につながるのです。

 要は「人間活動の影響」と「自然変動」のどちらの影響もあり得る、と言うことです。一方を肯定することが、同時に他方を否定することにはなりません。ただ、どちらの影響がより支配的なのかは、私には判りません。確かなことは、観測データによると「現状は平均気温・海面水温の上昇傾向が現れている」ということです。

 そして、従来は余り見られなかった現象や傾向が現れることが多くなりました。これらは「異常気象」と呼ばれるようになりました。ただし、安易に「異常」を多様してしまうと、やがて「異常」と言う表現自体が「通常」のものとなります。それはすなわち、本来「異常」という表現を以て強調すべき「異常性」が認識され難くなるということです。どこまでが「通常」で、どこからが「異常」なのか、その線引きは非常に難しい問題です。

 さて、温室効果ガスの代表として槍玉に上がるのが二酸化炭素(CO2)です。このCO2の増加と人間活動に関係があるのか気になります。そこで、1600年~2000年におけるCO2の濃度と世界人口の推移をグラフに表してみました。


 この結果、1750年以前は両者とも概ね横ばい~漸増で推移する一方、1850年以降は明らかな増加傾向に転じています。この期間の中頃に起きた産業革命(黄色域)が一つのターニングポイントとなっているようです。人口増加とCO2の増加は互いに呼応するような動きを示しました。

 その一方で一つの疑問がありました。そもそも最大の温室効果ガスは「水蒸気(H2O)」のはずです。しかし、地球温暖化などに関する話題で「CO2だけ」が槍玉に上がるのは、いったい何故でしょうか。実は、この疑問を解く鍵は「水蒸気フィードバック」にあります。下図がそのプロセスのイメージです。


 人間活動に伴って大気中の温室効果ガスが増加すると、温室効果の働きが増すことで気温が上昇します(人為的な外部効果)。この結果、海水の蒸発がより盛んになるため、大気中への水蒸気の放出が増加します。水蒸気は温室効果ガスなので、さらに温室効果の働きが増すことになります(水蒸気フィードバック)。この辺の詳細な解説は【参考】の記事に述べられています。是非、御参考下さい。

 以上から、冒頭のグローバルな気温上昇の「人為的要因」については「人間活動に伴う温室効果ガスの増加がトリガーとなり、水蒸気フィードバックを通じて気温上昇に寄与している」ものと、私は理解しています(ある意味「トランジスタ」のようなイメージでしょうか)。

 現在、「脱炭素」「カーボン・ニュートラル」のように「CO2削減」が求められています。これは、炭素の排出を減らすことで水蒸気フィードバックの働きが弱まれば、ひいては気温の上昇を抑制し得ると言うことです。その意味では、炭素がまるで「諸悪の根源」であるかのような物の言い方には違和感を禁じ得ません。

 さて、日本国内の温室効果ガスの排出量に目を向けてみましょう。排出量の85%がエネルギー起源のCO2です。さらに、国内のエネルギー・発電の供給資源の約4分の3を化石燃料(火力発電)に依存しています。しかし、年別の排出量に注目すると、2013年以降は年々減少しています。すなわち、着実に「結果」が出ています。この点はもっと評価されても良いでしょう。


 そして、結果は「行動」から生まれます。換言すれば「日本国内の高い技術力に基づく高効率の資源活用により、温室効果ガスの排出を抑制している」ことの現れではないでしょうか。

 また、環境対策を推進していく上では「原資」が必要です。その原資は「経済活動」を通して調達されます。環境対策と経済活動のバランスを見据えながら、これからの未来を考えていく上で「技術的な選択肢」を増やすことも重要です。

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成層圏突然昇温

2021年02月03日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897845739.html


 大雪をもたらす強い寒波の背景として「ラ・ニーニャ現象」の影響という話を聞くと、私の視線は自ずと北極圏に向かうのです。

 成層圏における東西流の平均場を見ると、夏季は同心円状の東風循環を形成する一方、冬期は変形を伴う西風循環となります。これは下方・対流圏のプラネタリー波(偏西風波動)の上方伝播の影響です。成層圏が東風循環の場合は上方伝播できず、西風循環の場合は上方伝播できるという違いが現れています。



 対流圏のプラネタリー波が成層圏に上方伝播することに伴い、西風循環が変形します。この変形が過大になると、時として周囲の高気圧性循環が北極付近を乗っ取る?ような形になることがあります。冬季にも関わらず、まるで夏季のような状態となり、一時的に成層圏の気温が上昇します。この現象を「成層圏突然昇温」と言います。成層圏突然昇温が生じると、北極圏に蓄積された寒気が中緯度地方に放出されやすくなります。



 ここで、ふと思い浮かぶのが北極振動です。北極振動は、北極付近と中緯度の地上気圧が互いに変動する現象です。正の北極振動(下図・左)は、北極付近に寒気が蓄積されるため、寒気の南下が起こりにくくなります。一方、負の北極振動(下図・右)では、北極付近に蓄積された寒気が周囲に向かって放出されるため、日本付近でも強い寒気の南下が起こりやすくなります。つまり、成層圏突然昇温が生じると、負の北極振動のパターンが現れやすくなる傾向があります。


 さて、この冬の特徴として、昨年夏から続いたラ・ニーニャ現象の継続に加え、負の北極振動の影響が加わったため、非常に強い寒気が南下しました。その上空ではどうやら、成層圏突然昇温も発生していたようです(西風循環が変形の様子は上記の図とは異なるようですが)。

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平野部にはり付く雪雲の背景

2021年01月09日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897845730.html


 冬型の気圧配置の場合は、日本海上の等圧線に注目します。等圧線の走向が縦に並んでいるか、横に傾いているか、それとも「く」の字状に折れ曲っているかによって、雪の降りやすい場所も変わります。


 日本海の等圧線が縦縞になると山沿い中心となる一方、等圧線が「く」の字状になると日本海寒帯気団収束帯の影響で平野部でも大雪となることがあります。

 日本海の等圧線が「く」の字状になった場合の天気図の一例です。日本海の等圧線が見事なまでに折れ曲がっています。



 日本海寒帯気団収束帯は、朝鮮半島北部の山脈によって寒気流が二分され、日本海上で合流する際に形成される風の収束域のことです。要は、二つの流れが合流する帯状(線状)の領域とイメージすると良いでしょう。


 各々の季節風の流れに伴って生じた雪雲が、この収束帯上に集まり、その延長線上の下流側に向かって移動します。まさに、雪雲が大群を成して押し寄せるようなものです。

 天気図上では「く」の字等圧線の折れ曲る所を結んだ線が、概ね日本海寒帯気団収束帯に対応すると考えます。この周辺の衛星画像を見ると、シベリアからの吹き出しに沿う雲列(Lモード)と、これに直交する雲列(Tモード)が見られます。その様子を模式的に描いたのが次の図です。


 ここで、風の向きは高気圧側から低気圧側に向かって(北半球では)等圧線を斜め右に横切る方向として推定されます。これを利用して風の向きを矢印で描き込んでみました。

 日本海寒帯気団収束帯が、北寄りの風と西寄りの風の境界となっている様子が判ります。やがて、各々の流れに伴って生じた雪雲が、この収束帯上に集まってきます。


 この雪雲の大群が収束帯上を下流側に移動していくので、この収束帯の延長線がどこに向かっているのか・・・という点は、天気図を読み解く上でも大切なポイントです。

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海の波について(波浪・風浪・うねり・高波・高潮)

2020年09月03日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897845651.html


 台風や低気圧の接近時は、海の波についても注意が必要となります。今回は「波浪」「風浪」「うねり」「高波」「高潮」について、ざっくりと整理します。

 海上で(台風や低気圧などに伴う)強風に煽られて尖った波が生まれます。この波を「風浪」と言います。その波は遠方に伝播するにつれて(ザブン…ザブン…と言った感じの)次第に丸みを帯びた波になります。このような波を「うねり」と言います。この「風浪」と「うねり」をひっくるめて「波浪」と言います。



 続いて「高波」とは文字通り「高い波」を言います。例えば、強風によって海面が高く押し上げられて(葛飾北斎の絵のような?)高い波を生じる場合です。なお、気象庁では「波浪注意報・警報の対象になる程度の高い波」と定義しています。

 また、低気圧や台風に伴う気圧降下で海面が高く吸い上げられたり、強風によって海水が海岸に吹き寄せられることで、海面の上昇が引き起こされます。これを「高潮」と言います。高潮は「海面が上昇する」点では津波と似ています(※津波は地震によって発生するので別物)。



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台風・熱帯低気圧の発生・発達と北上のプロセス

2020年09月01日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897845649.html


 こちらのグラフは、台風の発生・接近・上陸数の月別の傾向を表しています。このグラフは、気象庁HPより「台風の平年値」を用いて作成しました。


「接近」は台風の中心が国内のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指します。
「上陸」は台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を指します。

 このグラフによると、概ね7月~11月は台風の影響に注意が必要となる時期と言えます。特に8月~9月は上陸数のピークとなっており、一層の注意・警戒が必要な時期と言えるでしょう。しかし、これはあくまで「平年値」なので、年によってピークの時期が前後することもあります。

 この記事では、特定の台風についてではなく「一般的な」傾向を述べています。


 さて、台風や熱帯低気圧は(ざっくり言うと)熱帯(熱帯収束帯:ITCZ)の海上で雲が渦を描くように集まって形成されます。その際のプロセスを段階を追って解説します。


 熱帯付近の海上で、下層の暖かく湿った空気が、低気圧の渦を描きながら集まってきます。この渦は気圧傾度力・コリオリ力・遠心力で釣り合い同心円を描く風となり、海面摩擦により中心部に向かう収束となります。



 集まってきた空気は次第に上昇流を生じます。次から次へと空気が集まってくるので、行き場を失った空気は上方へ逃れようとするのです。そして、空気が上昇すると、今度はその中に含まれている水蒸気が凝結します。この相変化(凝結:気体→液体)の際に「潜熱」を放出します。



 この潜熱によって周囲の空気は加熱されるので、暖められた空気には「浮力」が発生します。この浮力に伴ってさらに上昇流を生じ、この空気に中に含まれている水蒸気が凝結します(以後、凝結→加熱→浮力→上昇→凝結…の繰り返し)。この過程で中心に現れる暖気核は台風発達に寄与する一方、周囲を巡る強風は摩擦で(下層の)収束を減じる効果を持っています。



 このような上昇を続け、やがて対流圏界面に達すると、それ以降は上方ではなく「水平」に広がります。下層での収束の際は反時計回りの流れとなりますが、上層での発散では時計回りの流れとなります。


 続いて、熱帯低気圧や台風がどのようなプロセスを経て北上するのか、について話題を進めていきましょう。


 低緯度の熱帯の海上で熱帯低気圧が形成されると、まずは「地球の自転に伴う効果」でゆっくりと北上します。この効果については、過去の記事「ベータ効果のイメージ」を参考にして下さい。

 そのままゆっくりと北上しながら、暖かい海面から熱エネルギーや水蒸気を持続的に補給されて、発達を続けます。やがて、中心付近の最大風速が約17.2m/s(34ノット)以上に達するようになると、「熱帯低気圧」から「台風」と呼ばれるようになります。これが「台風○号が発生した」と報じられます。

 中緯度まで北上すると、太平洋高気圧の縁辺の流れの影響を受けるようになります。北上のスピードも自転車に乗るような速度となります。台風が太平洋高気圧の縁辺流に乗って北上する一方、西から偏西風の波動が(主に「気圧の谷」として)近づいてきます。

 台風が高緯度に近づくと、次第に偏西風の流れに乗り換えます。偏西風の流れに乗り換えると進路は東向きに変わり、北上するスピードも増して自動車に乗るような速度となります。偏西風の影響を受けながら、台風の形は次第に崩れて行き、やがて温帯低気圧の形に姿を変えていきます。しかし、見た目の形は変わっても、もともと持っているエネルギーはそのままです。

 台風が温帯低気圧の形に変わったとしても、その破壊力・影響力が消滅するわけではありません。引き続き、注意・警戒が必要です。




 続いては、海面との関わりに着目してみます。熱帯低気圧や台風は、海面水温が26~27℃以上の暖かい海域で発生します。そして、海面から水蒸気と熱エネルギーの持続的に補給されつつ、発達しながら北上を続けます。

 やがて、高緯度地方に達すると海面水温は下がり、また自らが伴う強風と海面との摩擦によるエネルギーの損失も加わり、次第に衰弱します。その後は偏西風の影響を受けて、次第に温帯低気圧へと姿を変えて行きます。

 しかし、台風が温帯低気圧の形に変わったとしても、引き続き注意・警戒が必要なのは上述の通りです。

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角運動量保存の法則

2020年08月26日 | お天気のあれこれ
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 いま、回転軸の周りを半径r[m]、角速度ω[rad/s]で円運動する質量m[kg]の質点を考えます。この時、質点mの速度v[m/s]はv=rωで表されます。


 ここで運動量は「(質量)×(速度)=mv=mrω」で定義されます。また、運動量が保存される「運動量保存の法則」も高校の物理でお馴染みと思います。主に直進運動を考える場合です。

 回転運動の場合は新たに、角運動量「(質量)×(半径)×(速度)=mrv=mrω2」という物理量を考えます。この角運動量が保存される「(角運動量)=(質量)×(半径)×(速度)=(一定)」というのが「角運動量保存の法則」です。

 この考え方を空気塊の回転に応用してみましょう。ここでは、円筒形の空気塊が回転している状況を考えます。

 まず、左側の状態では回転半径が大きく、ゆっくりと回転しています。この空気塊が、何らかの理由で生じた上昇流によって、鉛直方向に引き延ばられる状況を考えてみます。

 すると、右側のように細長くなってしまいます。つまり、容積は一定のまま、回転半径は小さくなります。先の「角運動量保存の法則」の考え方に基づけば、半径が小さくなる分、回転速度が増すことになります。

(※厳密には、空気塊の状態までを考慮した「渦位」という物理量があります。この「渦位」については、気が向いたらまたの機会に・・・)

 このメカニズムが働く現象にはどのようなものがあるのか、2つの例を紹介します。


 竜巻は「積乱雲に伴う活発な上昇流」によって発生するものです。この上昇流によって、空気塊は鉛直方向に引き延ばされることで、強い渦が形成されます。

 一方、つむじ風(塵旋風)は「地面が日射によって加熱されることで生じる上昇流」によって発生します。この上昇流によって、空気塊は鉛直方向に引き延ばされます。

 両者は一見すると形が似ていますが、上昇流の要因は異なります。

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気候変動と暖冬・寒冬

2020年02月10日 | お天気のあれこれ
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 この冬(2019年末~2020年初)は記録的暖冬とも言われるほどの暖冬となっています。そこで、今回は「暖冬・寒冬に影響を及ぼす主な要因」について、(自分の勉強も兼ねて)ざっくりと整理してみます。

(1)エル・ニーニョ現象の影響

 エル・ニーニョ現象とは、太平洋赤道域の東部から南米沿岸にかけて海面水温が高くなる現象です。これに伴い熱帯の対流が東側にシフトすると、その影響は中緯度地方の偏西風波動にも伝わります。この結果、上空の寒気の南下する場所(トラフ)も、通常の状態より東側にシフトするため、上空の寒気も日本付近には南下しにくい傾向となります。


(2)ラ・ニーニャ現象の影響

 ラ・ニーニャ現象とは、太平洋赤道域の東部から南米沿岸にかけて海面水温が低くなる現象です。これに伴い熱帯の対流が西側にシフトすると、その影響は中緯度地方の偏西風波動にも伝わります。この結果、上空の寒気の南下する場所(トラフ)も、通常の状態より西側にシフトするため、上空の寒気も日本付近には南下やすい傾向となります。


(3)負の北極振動の影響

 北極振動とは、北極付近と中緯度の地上気圧が互いにシーソーのように変動する現象です。北極振動には「正の北極振動(AO+)」と「負の北極振動(AO-)」の2種類のパターンがあります。この両者を交互に繰り返しているのです。

 負の北極振動とは、北極付近の地上気圧が平年よりも高く、中緯度の地上気圧は平年よりも低くなるパターンと言います。北極付近に蓄積された寒気が、中緯度地方に向かって放出されます。つまり、北からの寒気の南下が顕著になりやすいので、日本付近で偏西風が南に蛇行すると、日本海側で豪雪に見舞われやすくなります。



(4)正の北極振動の影響(今回の暖冬の要因・その1)

 正の北極振動とは、北極付近の地上気圧が平年よりも低く、中緯度の地上気圧は平年よりも高くなるパターンと言います。北極付近に寒気が蓄積されます。つまり、北からの寒気の南下が顕著になりにくいので、日本付近でも寒気の南下が起こりにくくなります。この冬もこの傾向が現れました。


(5)正のダイポールモード現象(今回の暖冬の要因・その2)

 さて、太平洋赤道域の東部から南米沿岸にかけて海面水温の変動として「エル・ニーニョ現象」や「ラ・ニーニャ現象」が知られているように、インド洋にも海面水温が変動する現象があります。これが「インド洋ダイポールモード」現象です。

 ここで紹介する「正のダイポールモード現象」は、インド洋西部で海面水温が高くなる一方、インド洋東部では海面水温が低くなる現象です。インド洋西部の熱帯域で対流が活発になると、北側の偏西風の流れ方(蛇行の仕方)が変わり、日本付近では北に盛り上がるような形(リッジ位相)になります。つまり、日本付近では偏西風が北側に偏るため、上空の寒気も南下しにくくなります。

 この冬の暖冬傾向は「正の北極振動」と「正のダイポールモード現象」が主な要因となっているようです。ただし、いくら「暖冬」とは言っても、一時的に強い寒気が入って雪が降ることはあります。

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梅雨前線からの距離と天気の傾向

2019年06月28日 | お天気のあれこれ
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 梅雨前線からの距離と天気の関係を表す法則として「七五三の法則」がよく知られています。これは、梅雨前線からの距離が300km以内であれば「雨」、500km以内であれば「曇」、700km以上離れていれば「晴」の目安というものです。この「七五三の法則」は、対象となる地点が梅雨前線よりも北側にある場合に適用されます。

 一方、梅雨前線よりも南側の場合は、前線から約100~200kmほど南に離れた所で活発な対流が起こりやすくなります。梅雨前線の構造についてはこちらの記事をご参考下さい。

 この両者を合わせたのが下の図です。また、距離感を掴むために「佐渡島で何個分」に相当するかを併記しました。ここでは、佐渡島の南北の距離を約60kmとして計算しています。



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層厚を用いた「高気圧の2段重ね」のイメージ

2018年07月21日 | お天気のあれこれ
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 夏季の厳しい猛暑の折、その要因として「太平洋高気圧の上にチベット高気圧が重なって『高気圧の2段重ね』となる」という解説を良く見聞きします。簡単な絵に表すとこんな感じです。



 それでは、どうして暑さが厳しくなるのか。「層厚」の考え方を基に考えてみたいと思います。今回は、層厚のイメージについては、記事「層厚と温度風のイメージ」を前提として考えます。主なポイントは次の5点です。 1.空気の層を柱に見立てます。これを気柱と言います。 2.気柱は、ブロック状の空気の塊(空気塊)を縦に積み上げたものと考えます。 3.空気塊はその上に載っている空気の重さを受けて、断熱圧縮されます。 4.このため、気柱の上の方では空気塊は膨張し、下の方の空気塊は圧縮されます。 5.つまり、気柱の上から下に向かって、空気塊の温度は次第に上昇します。  この考え方に基づいて、チベット高気圧と太平洋高気圧の層厚のイメージを模式的に描いてみます。  チベット高気圧は、大陸の標高の高い所で形成され、次第に東へ広がってきます。一方、太平洋高気圧は海面上から上空にかけて厚みをもっており、西へ広がります。これを踏まえて、二つの高気圧を高さの異なる気柱として描いています。  また、気柱の上端から下端に向かって空気塊の温度が上昇する様子を、色分けして表しています。



 二つの高気圧はやがて、部分的に重なります。太平洋高気圧の気柱の上にチベット高気圧の気柱の重さが圧し掛かります。このため、太平洋高気圧の気柱は圧縮され、さらに温度が上がります。



 この結果、この二つの気層は一つの重厚な気層になります。気柱の上から下に向かって、空気塊の温度は次第に上昇する構造が出来上がります。この時、気柱の底面の温度は、重なる前の太平洋高気圧の底面の温度よりも高くなっています。



 このようにして、太平洋高気圧だけに覆われる場合に比べて、太平洋高気圧とチベット高気圧の2段重ねの方が、より暑さが増すと考えることが出来ます。



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梅雨前線の構造

2018年06月16日 | お天気のあれこれ
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 中学生の頃、梅雨前線は「太平洋高気圧からの暖かく湿った空気オホーツク海高気圧からの相対的に冷たく乾いた空気がぶつかり合ってできる」と学びました。当時は何も考えずに「そんなものか」と受け止めていました(実は当時、天気には全く興味がなかった・・・と言うのも一つの要因です)。


 それから時が流れ、天気図を見るようになってからというもの「それにしては、随分と西側に延びているな・・・」と疑問に感じてました。

 その後、様々な学びの機会を経て、梅雨前線は「太平洋高気圧~モンスーン気団からの暖かく湿った空気オホーツク海高気圧や大陸気団からの相対的に冷たく乾いた空気がぶつかり合ってできる」と理解するに至りました。これなら、梅雨前線が西側に延びることも理解できます。


 さて、南から流れ込む「暖かく湿った空気」と北から流れ込む「(相対的に)冷たく乾いた空気」がぶつかる領域(収束域)では上昇気流となります。すると、その上空では雲が形成され、湿舌が現れます。また、梅雨前線の南側では大量の水蒸気が流れ込むため、発達した積乱雲が発生しやすい状況となります。

 つまり、集中豪雨は湿舌の南縁で起こりやすくなります。この構造を模式的に描いてみます。


 南から流れ込む「暖かく湿った空気」と北から流れ込む「(相対的に)冷たく乾いた空気」は100~200kmの幅を持つ領域でぶつかり合います。この領域を梅雨前線帯と呼び、上昇気流の場となっています。地上天気図における梅雨前線の記号は、梅雨前線帯の北端付近に沿って表記されます。

 一方、集中豪雨を引き起こす水蒸気の大半は、高度約1km以下の低い層の中に蓄えられています。南から流れ込む湿った空気が梅雨前線帯の上に乗り上げる際、梅雨前線帯の南端付近では積乱雲が発達します。これが集中豪雨につながりやすい要因です。

 また、梅雨前線帯の上空3km付近には湿った空気が広がります。この湿った領域は、梅雨前線帯に沿って舌状の形をしていることから「湿舌」と呼ばれています。これは、梅雨前線帯の対流活動の結果として、下層(1km以下)の水蒸気が上空(3km付近)まで運ばれたものです。

 湿舌については「湿舌と梅雨前線」で詳しく述べておりますが、水蒸気のイメージを描くと次の図のようになります。



 梅雨前線帯の南側から、南風に乗って水蒸気が運ばれてきます。この水蒸気はこのまま上昇流に乗って、さらに上空へと輸送されます。これに伴って、積乱雲が形成され、発達します。

 さらに下層から熱や水蒸気が持続的に供給されるため、積乱雲はどんどん発達します。また、上空に昇った水蒸気は、上空の西風に乗って東側に広がります。


 これまで、梅雨前線の南側では「暖かく湿った空気」が流れ込むと述べてきました。

 実は、この「暖かく湿った空気」も大きく分けて2種類あります。それは、中国大陸上に起源をもつ「大陸性湿潤気塊」、東シナ海上に存在する「海洋性湿潤気塊」です。

 梅雨前線帯の形成に伴って、大陸性湿潤気塊が東シナ海西部に流れ込むと、もともと東シナ海上に広がる海洋性湿潤気塊との間でぶつかり合いを生じます。この両者の境界として現れるのが「水蒸気前線」です。

 陸上と海上では供給される水蒸気量は異なります。このため、海岸線沿いに水蒸気量の境界が生じるようです。

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南岸低気圧に伴う関東地方の降雪を考えてみる

2018年01月21日 | お天気のあれこれ
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 普段は日本海側の地域の気象を見ていますが、今回は冬の気象に関連して「関東地方の南岸低気圧」について考えてみたいと思います。

 私が思うに、関東地方の降雪を考える上で大切なポイントは4つあります。それは、「上空の気温」「地上付近の気温」「降水現象の発生」そして「低気圧の進路」です。

 まずは「上空の気温」です。降水は上空の雲からもたらされますが、雲の中の水分は、多くの場合「氷の粒」の状態になっています。つまり「雪」の状態です。これが、その状態を維持しながら地上に到達する条件を考える必要があります。

 雲の中にある「雪」が落下すると、周囲の気温が上がるのに伴って、次第に融け始めます。やがて「みぞれ」になり、さらに融けると「雨」となって地上に到達します。この時、雪から雨に相変化(融解)する層を「融解層」と言います。



 さて、雲の中から舞い降りる氷の粒が「雪→みぞれ→雨」と融解していく時、その変化に必要なエネルギーを、周囲の空気から「潜熱」という形でもらっています。つまり、周囲の空気は「潜熱を奪われる」ため、自ずと冷えて(気温が下がって)行きます。


 上空の気温が十分に低いということは、融解層の(地上から見た)高度も低いという事です。もし、融解層の高度が高ければ、上空では「雪」であっても、地上に到達する頃には「雨」になってしまうからです。

 上空1500m付近でマイナス3~4℃以下の寒気が、一つの目安と言われています。

 続いて「地上付近の気温」です。もし融解層の高度が低くても、地上付近の空気が暖かいと「雪」から「雨」に融解して(または蒸発して)しまいます。なお、関東平野で降雪が起こる場合には、下層で寒気が滞留することが指摘されています。このプロセスについて考えてみましょう。

 まず、南岸低気圧が関東平野に近づく時、日本海側の地域から山を乗り越えて、寒気が関東平野に流入します。この寒気は「冷たく乾いた」状態になっています。


 これと前後して、南岸低気圧の接近に伴う南東の風や北東の風が、関東平野に向かって流れ込みます。これらの海からの空気は、上記の寒気よりも相対的に暖かいものです。


 日本海側から流れ込む寒気と、海から流れ込む空気がぶつかり合って、沿岸地域に収束帯を形成します。この2つの空気は互いに異なる性質を持っているので、この収束帯を「沿岸前線」と言います。


 日本海側から流れ込む寒気は、沿岸前線によって堰き止められる形となり、関東平野に寒気が滞留し始めます。この寒気滞留層の厚さは1km以下となることが多いと言われています。


 関東平野には持続的に寒気が流れ込み、より冷たい空気が下に蓄積されます。また、沿岸前線の近くでは降水を伴うこともあります。この降水が滞留する寒気の中に入ると、そのまま蒸発して、周囲の空気の潜熱を奪っていきます。この結果、対流寒気はさらに冷却されます。


 そして、「降水現象」をもたらす南岸低気圧が近づいてきます。低気圧の中心よりも東側では融解層の高度が高く、地上では「雨」となります。この雨によって、滞留寒気はさらに冷却されます。


 南岸低気圧はさらに東に進み、低気圧の中心より西側では融解層の高度がさらに低くなります。上空の雲からの落下の過程で融け残った「雪」や「みぞれ」がそのまま、地上付近の寒気滞留層を経て、地上に到達します。


 最後のポイントは南岸低気圧の「進路」です。低気圧の進路が北に寄り過ぎると、南からの暖気の影響が強まるので、気温が上がって「雨」になります。しかし、低気圧の進路が南に寄り過ぎると、降水域が関東平野から逸れてしまいます。低気圧の構造については「温帯低気圧と前線形成のイメージ」を御参考下さい。

 このように「北により過ぎず、南に離れ過ぎない」コースを進むことが、関東平野の降雪のための一つの条件として加わります。

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順圧大気の不安定化とロスビー波

2018年01月20日 | お天気のあれこれ
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 記事「傾圧不安定波のイメージ」では、傾圧不安定波の形成について取り上げました。これは温帯低気圧の発達メカニズムとして重要な理論として知られています。ここで「傾圧」とは、簡単に言えば「等圧面が傾く」性質です。

 一方、等圧面が傾かない場合を「順圧」と言います。傾圧大気と順圧大気の詳しい定義は専門書に譲るとして、両者の取り扱いの大きな違いは、現象の構造を「立体的(3次元)に考える」か「平面的(2次元)に考えるか」です。

 傾圧大気は、「水平方向」に広がる等圧面が「鉛直方向」に傾くので、立体的(3次元的)に考える必要があります。しかし、順圧大気の場合は、等圧面が「水平方向」に広がるだけで「鉛直流は発生しない」ので、水平方向の平面的(2次元的)に考えることが出来ます。

 今、一層の平面的な大気層を考えてみます。判りやすくするために、真っ直ぐに分割する線を引いてみます(但し、仕切りは設けません)。


 この分割された左右の両側で同じ流れとなっていれば、この大気層はそのままの状態(流れ)を維持し続けます。

 一方、左右の両側の流れが異なれば、両者の境界付近で流れの乱れを生じます。この乱れが小さいものであれば、復元力が働くため、流れの乱れは抑えられ、バランスが保たれます(安定)。


 しかし、この乱れが大きくなるにつれて、境界線上では渦度を生じます。この渦度が強められるにつれて、流れのバランスが崩れ、乱れが増幅していきます(不安定)。


 この乱れが増幅すると、やがて渦列や波動を生じます。例えば、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)上に生じるメソスケールの渦列やロスビー波などが挙げられます。



 ここからは東西に並ぶ渦列を例に、ロスビー波の西進を考えてみたいと思います。

 次の図の様に、正または負の相対渦度(ζ>0、ζ<0)を持つ渦が東西方向に交互に並ぶ渦列を考えてみます。ここで、緑の線は波動を表しています。正の渦(ζ>0)は波動の下(南)に凸となる位相(トラフ)に相当する一方、負の渦(ζ<0)は波動の上(北)に凸となる位相(リッジ)に相当しています。


 記事「ベータ効果のイメージ」では、「ベータ効果」と「絶対渦度の保存則」の考え方を紹介しました。この記事は、地球自転に伴う台風の北上効果を例に挙げましたが、同じ考え方で、上記の渦列を分解して考えてみます。

 上の図において、波動の「トラフ位相」は「ζが正に変化」する所へ進み、波動の「リッジ位相」は「ζが負に変化」する所へ進もうとします(渦度の移流)。つまり、次の図の様に位相がシフトするのです。


 この結果、波動(渦列)は全体的に西向き(図では左向き)に移動して行きます。

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ベータ効果のイメージ

2018年01月19日 | お天気のあれこれ
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 昨日の記事「絶対渦度と相対渦度のイメージ」では、「渦度」の話を書きました。ある流れ場の中に羽根車を置いたとき、その羽根車を回転させようとする働きのことを「渦度」と紹介しました。今回はさらに「正の渦度」と「負の渦度」について紹介します。

 正の渦度は「反時計回り」の渦度です。右手の4本の指が回転の向き、親指が渦度ベクトルの向きに対応します。


 一方、負の渦度は「時計回り」の渦度です。こちらも右手の4本の指が回転の向き、親指が渦度ベクトルの向きに対応します。


 また、昨日の記事では、「絶対渦度」と「相対渦度」についても紹介しました。以下、簡単に振り返ってみます。

 まずは、コリオリ・パラメーターfです。地球は自転しているので、地球上で運動する物体・流体は既に自転に伴う渦度ベクトルを持っています。

 この大きさ(f)は、地軸上にある極が最大となり、極から赤道に近づくにつれて小さくなります。地球上に存在する者同士では、互いにこの渦度を認識(観測)することはできません。



 続いて、相対渦度(ζ)です。自転する地球上で、fの他に生じる渦度のことです。地球上に存在する者同士が互いに認識(観測)できるのは、こちらの渦度です。


 以上の2種類の渦度(コリオリ・パラメーターfと相対渦度ζ)を合わせたものが「絶対渦度」(f+ζ)です。つまり、「宇宙空間のある地点に固定された場所」から「地球上で生じる渦度」を見た場合には、この「絶対渦度」が認識(観測)されます。

 さらに、「水平面上(2次元)での運動」で、さらに「収束・発散がない」場合は、絶対渦度(f+ζ)は時間に対して一定に保たれます。これを「絶対渦度の保存則」と言います。地球の自転に伴う台風の北上を例にとって考えてみましょう。

 今、北半球上のある緯度に、台風(強い正の渦度を持つ)があると想定します。


 台風を右半分と左半分に分けて考えてみます。

 右側では、南から北に向かう流れとなるため、コリオリパラメーターfも時間と共に「正の向き」に変化します。一方、相対渦度は絶対渦度の保存則に従うため、時間と共に「負の向き」に変化します。


 左側では、北から南に向かう流れとなるため、コリオリパラメーターfも時間と共に「負の向き」に変化します。一方、相対渦度は絶対渦度の保存則に従うため、時間と共に「正の向き」に変化します。



 このように、ζの時間的な変化は、fの変化とは逆向きで、南北方向の移動速度とfの勾配によって生じます。式で書くと「dζ/dt=-βv」と表されます。

 地球上で重要になるのは、相対渦度ζの変化です。右側・左側共に、ζは台風の中心を北向きに押し上げるように変化します。


 このため、地球の自転に伴う効果で、台風は北上する性質があります。

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絶対渦度と相対渦度のイメージ

2018年01月18日 | お天気のあれこれ
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 次の図のようなベクトル場を考えてみます。


 この流れ場(ベクトル場)の中に、羽根車を置いた場合にどうなるでしょうか・・・。



 流れ場(ベクトル場)の流れの中で、羽根車はクルクルと回りながら下流へと流されて行きます。



 この時、羽根車を回転させようとする効果を表すパラメータが「渦度」です。渦度は、回転軸上の向きを持つ「ベクトル量」として表されます。


 今度は、この羽根車を台の上に乗せ場合について考えてみます。



 この台に向かって横から流れを与えると(ベクトル場を与えると)、この台はゆっくりと回転を始めます。これに伴って、渦度ベクトルを生じます。


 台の上に羽根車を乗せた場合、台と羽根車は一体となって回転するため、両者の持つ渦度ベクトルは共通のものとなります。しかし、これは「台の外から見た場合」の話です。


 羽根車と一緒に「台の上に乗った状態」で、この羽根車を見ると・・・羽根車は止まっているように見えます。つまり、羽根車の持つ渦度(ベクトル)はゼロという事になります。





 回転している台の上で、羽根車にはさらに別の流れを横から加えてみます。これに伴い、羽根車には新たな渦度ベクトルが加わることになります。羽根車には、台の回転に伴う渦度ベクトル(青)と新たに加わった渦度ベクトル(赤)が合わさった渦度ベクトルが働きます。ただし、これは「台の外から見た場合」の話です。



 一方、羽根車と一緒に「台の上に乗った状態」から見てみると、羽根車に加わる渦度ベクトルは次の図のように認識されます。


 以上のように、回転台から一歩離れた所から見た場合と、羽根車と一緒に台に乗った場合とでは、「羽根車に働いている」と認識される渦度ベクトルの大きさは異なります。

 ここで、回転台から一歩離れた所から見た場合の渦度(青+赤)を「絶対渦度」、羽根車と一緒に台に乗った場合に認識できる渦度(赤)を「相対渦度」と言います。

 この「絶対渦度」と「相対渦度」の概念は、地球を取り巻く大気の流れに伴って生じる渦度を考える際に重要になります。「地球上にいる人」が「地球上で生じる渦度」を見た場合は「相対渦度」となる一方、「宇宙空間のある地点に固定された場所」から「地球上で生じる渦度」を見た場合は「絶対渦度」という事です。


 地球は自転しているので、地球上で運動する物体・流体は既に自転に伴う渦度ベクトルを持っています。この大きさは、地軸上にある極が最大となり、極から赤道に近づくにつれて小さくなります。

 これは、(各地点における)自転に伴う渦度ベクトルは、地表面に対して垂直に働くためです。北半球の場合、北極における渦度ベクトルを分解して、地面に垂直な成分が作用すると考えます。この大きさがコリオリ・パラメーター(f=2Ωsinφ、Ω:自転の角速度、φ:緯度)です。

 このように、自転に伴う渦度の大きさ(コリオリ・パラメーター)が、緯度によって変わる効果を「ベータ効果」と言います。

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