軌道エレベーター派

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OEV豆知識(27) よくある誤解

2012-03-08 00:31:17 | 軌道エレベーター豆知識
 久々の「豆知識」です。軌道エレベーターが多くの人に知られるようになってきたのは喜ばしい(だけど「宇宙」が主流なのは複雑)ですが、その分、誤解されたまま広まっている情報も多いようです。今回はそうした中から、基礎知識にかかわる誤解について説明します。
 以下の記事で、カギカッコの赤い文章は間違った知識ですのでご注意ください。


「長さは静止軌道まで/静止軌道が終点」
 静止軌道部は軌道エレベーターの最重要部ですので、地上から伸びているのがここまでだと思われることがあるようです。しかし、軌道エレベーターは静止軌道を挟んで重さのバランスをとっているので、さらに上(外側)に伸びています。十分な質量を持つカウンター質量(おもり)を静止軌道のすぐ外側に設ければ、静止軌道"あたり"までの長さにすることも可能ですが、そのようなモデルを構築する意味はあまりないでしょう。


「地球の自転の遠心力で飛び出さないよう頂点をおもりで押さえる」
 先日の大林組の構想がニュースになった時、この記述がネット上を飛び交っているので驚きました。これは正反対で、おもりがないと、そこから下の構造物がすべて地上に落下してしまいます。力学的なバランスから言えば、おもりはむしろピラーを引っ張り上げて全体の構造を維持する役割を果たしていると言えます。静止軌道を挟んで下の部分は地上に落ちようとし、上の部分は外側に飛び出そうとする力が働いています。ですから上の項目でも述べましたが、両者の重さを等価に保つのが静止軌道エレベーターの基本原理です(質量バランスをあえて偏らせた応用モデルはあるけれども、その差はわずかです)。つまりは静止軌道を支点にした、やじろべえのようなものだと思ってください。


「たくさんロケットを打ち上げ、膨大な資材を運んで造る」
 軌道エレベーターを造るのに、どれだけロケットを打ち上げなきゃいけないと思っているのか? というのはよく言われる批判なのですが、完成までエレベーターが使えないという先入観ゆえの誤解でしょう。結論から言えば、近年の理論ではロケットの打ち上げは4回か5回くらいで済みます。軌道エレベーターの建造は、極めて細い、自重プラスほんのわずかな荷重に耐えるギリギリの太さのケーブルから始まります。このケーブルと、それを展開する機器をロケットで運び、最初の1本を引き、ロケットの使用はこれで終わり。あとは、このプライマリーケーブルを伝って少しずつケーブルを太く補強しながら、付帯施設などの資材を運んで完成させるのです。仮に計算通りいかず、打ち上げ回数が倍になっても10回以下ですね。軌道エレベーターの実現には、大量のロケットを打ち上げる必要はないと考えられます。


「ラグランジュ点につながっている」
 この場合のラグランジュ点とは、地球─月系のラグランジュ1(L1)のことを指しているのでしょう。これは地球と月の共通重心から32万km以上離れており、静止軌道エレベーターを、おもりを設けずにピラーの延長だけで形成しても全長は約14万km超で、とても届かない上、公転速度が異なるため常に「つながる」のは無理です。ただしこのL1に、地球とはつながらない独立した軌道エレベーターを設けるアイデアはあります。なお余談ですが、この地球─月系のL1を「地球と月の引力がちょうど釣り合っている中和点」と思っている方も多いでしょう。実際問題としてその解釈で支障はないのですが、厳密に言うと完全な中和点から、ほんの少し地球寄りになります。


「日本に造れる」
 福島第一原発に軌道エレベーターの地上基部を造って核のゴミを宇宙に棄ててしまえという動画か何かを観たことがあるのですが、日本の領内か排他的経済水域、あるいは近海に造れると思っている方がおられるようです。ですが静止軌道エレベーターの地上基部は、原則として赤道近辺に設けます。エドワーズモデルは南北緯35度まで可能としていますが、安定性が悪いので私はあまり好みません。もちろん絶対に不可能とは言いません。赤道を挟んで、南半球における日本と同じくらいの緯度の場所(パプアニューギニアあたりか?)との間でピラーをシンメトリーの構造にすれば、東京に造ることだって不可能ではないでしょうし、個人的にはその方が安定するとさえ思います。とはいえ、それは軌道エレベーターが実現し、その技術がさらに発展した後に開ける可能性であり、少なくとも第1号が日本近辺にできることはないでしょう。


「1周90分で地球の周りを回っている」
 これは小説に書いてあったことで、小説はそれ自体がフィクションだから、ほかの誤解とはちょっと事情が異なりますが、読んだ方が誤った知識を持たないために一応。静止軌道エレベーターは地球の自転と同期していますので、このようなことはありえません。なお90分というのは、国際宇宙ステーションのおおよその周期です。


 以上、揚げ足取りのようですが、こんな間違いは瑣末なことで、むしろこれをきっかけに軌道エレベーターについて理解を深めてもらえたらと思い列挙しました。どんな分野でも、学べば多かれ少なかれ間違えます。私も軌道エレベーターの原理についてたくさん間違った解釈をしていて、追求していく中で色んなことを知りました。皆さんももっと知っていただければ嬉しいです。
 間違えることがあるのは、あなたが前進し、未知の領域に足を踏み込んでいるからです。だからそれはは恥でも何でもない。恥ずかしいのは間違えた自分と向き合う勇気のない人の方ですから、萎縮せずにどんどんトライ&エラーしましょう。
 知ることは生きること、知ることは楽しい。
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