軌道エレベーター派

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OEV豆知識(24) 課題・問題その4 倒壊(上)

2010-09-09 20:25:30 | 軌道エレベーター豆知識
 ちょっとわけあって更新が滞っており、申し訳ありませんでした。伸び伸びになっていた強化月間の一応の締めくくりとして、久々の「軌道エレベーター豆知識」。誰もが気になる軌道エレベーターの倒壊について、上下2回でお送りします。

 軌道エレベーターが何らかの原因で倒壊した場合、規模によっては大惨事に至る可能性は決して低くないでしょう。初心者(?)がよく指摘する疑問でもあります。あらゆるケースをすべて想定するのは無理ですが、今回はいくつかのケースに分け、倒壊の原因や対処などについて自分の考えを述べててみたいと思います。まずは倒壊の原因について。
 はじめにお断りしておくと、経年劣化などによる一時的な損耗は、通常、あるいは応急的なメンテナンスによって修復可能と判断できますので除きます。今回の考察の対象は、「OEVの構造体が急速に、あるいは一気にぶった切れて、放っておいたら構造体が落下や漂流してしまう事態」を対象とします。
 軌道エレベーター(以下OEV)の構造体が寸断されてしまう主な原因としては、大きく分けて

 (1) 天災
 (2) 事故
 (3) 人為的破壊行為
 ──といったところでしょうか。まあどんな乗り物にも当てはまることなんですが、OEVの場合ではどうでしょう。

(1) 天災(デブリや隕石など)
 自然現象による被害については、デブリの集中や隕石の衝突などが考えられますね。デブリの起源は人工物ですが、廃棄物による宇宙の環境問題として、こちらに区分します。過去の豆知識で述べたように、OEVそのものがデブリ問題解決の切り札となりうるものですから、OEVによって減らしていくことで根本的解決を目指すべきでしょう。流星雨のようなケースは、これも過去に述べたように予測可能ですから、エレベーター自体を屈曲させるなどして回避できるかも知れません。最近は大出力レーザーでのデブリの除去という研究も進んでいるそうですから、この技術にも期待したいところです。
 次に隕石。多くの小惑星をスペースガード協会などが監視していますから、予測・回避は可能。そうでなくても、OEVをぶった切るようなほど大きな隕石なら、そのまま地上に落下して、大災害をもたらしかねません。それくらい大きな隕石は安全基準を超えていて免責事項ではないかと。普通の橋やビルだって、隕石はもちろん、航空機が落ちてきてぶつかったらひとたまりもないですが、そんな事態までは想定して造ってませんよね。

(2) 事故
 まずは人工衛星の衝突。これもOEVの登場によってロケットの打ち上げや人工衛星の運用が減少し、それでも運用が必要なものは、またまた過去で説明したように対地同期軌道を周回させるなどして刷り合わせをすることで回避は可能であろう。。。ていうかそうしてもらわないとOEVが造れませんので。
 このほかには、乗り物同士でぶつかるとか落下するとか、あるいはステーションに衝突したり、運用のヒューマンエラーとか火災などが考えられますが、まあこれは、運用管理やメンテナンスをしっかりせえよ、としか言いようがないですよね。運用マニュアルを厳守させ、部品等はこまめに点検や補修をし、危険物は持ち込ませず。。。でしょうか。
 事故に関しては原則「気をつける」しかないので、あとは本当に起こって構造体が破断した場合、どう対処するかということについて述べることを持って考察に替えたいと思います。これは次回に。

(3) 人為的破壊行為
 これは、(3)-1.攻撃は外部からか、内部からか (3)-2.誰による破壊行為か ──に分けて考えたいと思います。
 まず(3)-1ですが、外部からの攻撃に関しては、残念ながら完璧に防衛することは不可能でしょう。OEVは構造上極めて脆弱で、どこか1か所でもちょん切れれば即致命傷になりかねませんし、ミサイルでも命中すればひとたまりもありません。地上でカバーできる範囲に関しては、迎撃ミサイルや護衛艦隊の配備、スクランブル体制の整備などは当然ですが、少なくとも地上や海上から発射・発進する兵器による攻撃に関しては、最低限同じ手段があれば迎撃できますので、あとは数と迅速さ・正確さの勝負です。要塞化して最新装備の軍隊に守ってもらう必要がありますね。
 一方、成層圏の上の方になると滞空が困難になってきますから防衛も困難になるでしょう。そして、時間の制約さえなければ、衛星軌道上に爆弾でも撒いておけば、いつかかならず衝突するので、これを回避できないほど大量にバラ撒かれたら命取りかも知れません。ただしこの点については、宇宙空間では、攻撃する側も攻撃手段を軌道に乗せるなどのコストがかかって大変だし、おのずと感知されるでしょうから、少なくとも地上ほど攻撃可能性は高くないかも知れません。いささか願望に過ぎますが、これらの条件に、上述のレーザー技術などの手段が色々加わることを期待したいところです。

 しかし、もっとも憂慮すべきは、爆発物などで内部から破壊されることです。はっきり言って、こうなったらもうお手上げ。現代の航空機だって、手榴弾1個持ち込まれたら一巻の終わりです。大韓航空機爆破事件しかり、ロッカビー事件しかり。ですから、乗り降りや貨物の運び込みの際のチェックにすべてがかかっており、やるべきことは現代の空港とまったく同じです。セキュリティを何重にも徹底する。これに尽きます。

 で、(3)-2の破壊行為の主体ですが、A国家 Bテロリスト Cその他の犯罪者に大別します。これを論ずるのは、誰が攻撃してくるかということが、どのような装備を保有しているかという推定にもつながり、(3)-1で述べたうちのどのやり方で防ぐかということに対応するからです。
 さて、ABCの中で、質・量ともに最大の武力を有しているのは言うまでもなくAの国家です。ロシアなどは衛星軌道に到達するミサイルも開発していて、もし敵に回れば危険ですが、私はほとんど心配していません。そもそも建造段階で国家間の刷り合わせを行わないはずはないからです。
 「OEVは兵器として利用できるから、所有すれば世界の支配者になれる。だから国家が所有すべきでない」なんて意見がありますが、漫画かアニメの観すぎです。確かに兵器転用はできないこともないですが、割に合わなくて、とても使えたもんじゃありません。上記で述べたようにOEVはその構造上、攻撃力能力以上に防衛が困難だからです。
 核兵器と同じで、一度でもOEVを兵器として使おうものなら、「破壊やむなし」という世論が形成され、湾岸戦争の時のイラクのように世界中から袋叩きにされて壊されてしまうでしょう。攻撃すれば自滅を招く、だから撃てない。冷戦時代の核戦略を支配した「相互確証破壊」と同じです。
 ですから、OEVを建造・保有する主体は、否応なしに「軍事利用は絶対しません。だから攻撃しないでね」と自ら宣言・約束して安全保障上の保険をかけざるを得ない。少なくとも純軍事的に見た時、OEVの保有は支配者になるどころか、むしろアキレス腱を抱えることにほかならないのです。
 それに、国家といっても単独での建造はありえず、結局は力を持った複数の大国の間で条約を結び、国際コンソーシアムを立ち上げるのが一番ありうるケースだと私は考えています。この点については、別のコーナーで詳しく述べるつもりですが、そんなわけで、OEVの仮想敵として、国家の優先順位は低いと良いと考えます。ていうか、そうなったらもう戦争ですから、OEVだけ守っても意味がありません。

 次にBとCは非合法活動としてひとくくりで考えます。動機面では、OEVはテロの標的になりやすいかも知れません。反政府組織の破壊工作はもちろん、宗教的な反発も買いそうですし、どこか別の場所へ被害を与えるためにOEVを壊すなんてのもあるかも知れません。三島由紀夫の「金閣寺」じゃありませんが、当人以外には理解しがたい信念や感情に基づいて壊そうとする人もいるかも。ただいずれにしても、攻撃の手段や規模は、結局は個人や非合法組織レベルの財力や取引で成立する範囲に限られることになります。
 その上で採られうる手段を考えると、上述したように、破壊工作者の潜入が一番危険で、かつ実行する側にとっては安上がりなので、とにかくセキュリティを厳重にというほかない。一方外部からの攻撃は、個人は実行力から言って論外。非合法組織の場合は相当な資金と人手、装備が必要であり、上記(3)-1で書いたように防衛部隊を配備しておくことでかなりの対処になるでしょう。防衛力が充実していれば接近すら難しい。ミサイルを打ってくるなんて可能性もありますが、長距離ミサイルの購入や運搬などという、金がかかって目立つ取引ができるテロ組織なんてそうはないでしょうし、これは別次元の話なのでちゃんと官憲に摘発してもらわないと。
 ですので、そんな一般人や裏社会の人たちが、軌道上で攻撃をしかけてくるというのは、宇宙へ行く手段がよっぽど低価格化・一般化した時代でなければありえず、それこそOEVが発展しなきゃありえない話でしょう。もちろん運用中の人工衛星同士を衝突させてデブリを大量に発生させるなんて手もありますし、最近は一般向けの宇宙旅行プランを立てるような民間企業も出てきてますから、そうした企業などが飛ばした宇宙船を9.11テロのように乗っ取ってOEVにぶつけるなんていうのも考えられますが、それは衛星や宇宙船を管理・運用している人々の責任で防いでもらわなくてはいけません(9.11だって航空機が突っ込んで壊れたことはビル側の責任ではなかろう)。それに、衛星にしろ宇宙船にしろ、素人が1人や2人で扱えるものではありませんね。
 上述(何度もこの表現すみません)したように、OEVが実現すれば、長期運用の衛星や、地上と宇宙を往復するための宇宙船は減る方に進むと思われますので、その辺にも期待です。 

 そして何よりも、これらを考慮した上でなお、もっとも有効な手段、それは1基や2基壊しても無意味なほど、OEVを沢山造ってしまうことです。地球をOEVでハリネズミのようにして、さらにオービタルリングでつないで相互に補強もすれば、ちょっとくらい壊れても、中心構造はほかのOEVが支えてくれて温存だって可能です。

 「今さらOEVを壊したところで敵にダメージを与えられず、目的を達成しえない」そして、「沢山あるから、誰かが1基や2基保有しても特に優位にならない」という状況を現出すること、それこそがOEVが破壊行為の標的となることに対する戦略的な最終勝利であろうと私は考えます。

 長々と書いてきましたが、上記の点を考慮すれば、OEVが倒壊する心配はまったくないのかというと、断言できるわけではありません。世の中に絶対はありませんし、災害や攻撃は未然に防げても、人間が運用していればいつかは事故や過失が生じます。ですので、本当に倒壊したらどうなるか、またその時のための技術的な備えなどの考察を、次回に行うこととします。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

今回のまとめ
(1) OEVが倒壊する原因としては、天災、事故、破壊行為などが考えられる
(2) 考えられる天災や事故の多くは対処や回避が可能と思われる
(3) 破壊行為に対しては、政治的・物理的両面の対処が必要
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