次は軌道エレベーターの知識に関する記事を、と思いつつなかなかまとまった時間がとれず、かわりといっては何ですが、今回は天文に関することを。なぜ北極星の高さ=その場所の緯度になるのか? ということです。
少し前、台東区に行った際に、江戸時代に浅草橋にあった天文台跡に足を伸ばしてきました。現在は歩道脇の小さな緑地になっていますが、この付近に、幕府から暦を作る仕事を任じられた「天文方」の天測施設があったそうです。天文方といえば「天地明察」で改暦を成した主人公の渋川春海が、初代天文方に任じられたということで、御存じの方も多いことでしょう。
行ってみると、緑地には解説文の看板が立っていました。
当時の様子を、葛飾北斎が「富嶽百景 鳥越の不二」に描いています。ネット上に転がっていた画像を拝借してきました。仲村士「江戸の天文学」(角川学芸出版)によると、天文台は最初、神田駿河台にあり、神田佐久間町などを経て、1782年に移転したものだそうです。
建物の上に設置された、リングを組み合わせたようなものは、天体の位置を測定する渾天儀を簡略化した「簡天儀」なるものだそうです。これで星々を観測したわけですね。
「天地明察」では主人公が「北極出地」に出発し、簡天儀の機能のうち、垂直の次元の90度分のみの測量に特化した「象限儀」という器具を使って、全国を巡って北極星の地平線からの高さを観測していました。
なぜ北極星の高さを観測していたのか。それは北極星の高さが、各地の緯度に一致するためです。地平線から測ることができなくても、水平に設置すれば観測できるので、この法則は、おおむね北半球全域において通用します。どうしてかご存知でしょうか。
これは幾何学的な話になります。お話を単純化するために地球を真円と仮定した上で、下の図をご覧ください。
今、北半球上のある地点(円周上にある任意の1点)にあなたが立っています(以下、この点を立脚点と呼びます)。立脚点と円の接線(茶色の直線)が、立脚点から天空が見える範囲、すなわち地平線です。
あなたは立脚点から北極星に視線を向けています(オレンジ色の矢印)。北極星は事実上の無限遠にあるので、視線は、地球の南北両極を結ぶ地軸と平行とみなして、差し支えありません。
この北極星への視線と地平線に挟まれた角(青い弧のうちの一つ)が、北極星の高さを意味します。
ところで、立脚点から地球の中心(円の中心)に半径の直線を引くと、この半径の直線は地平線に対する垂線となるため、地平線と北極星への視線が成す角は、地球の半径の直線と赤道が成す角(もう一つの青い弧)と等しくなります。この角が緯度を意味します。
よって北極星の高さ=緯度となります。右の図はその証明です。赤道と地平線、北極星への視線を延長し、赤道に平行な緑色の補助線を加えたもので、同じ色の角が同一の角度を意味します。
つまり「天地明察」の北極出地では、象限儀で図の青い角度を測っていたわけです。これにより、日本の広さや地形、大地の曲率、ひいては地球の大きさなどを求める数値を導き出していたのですね。
南半球では、北極星のような地軸のほぼ延長線上にある星がないので、昔は不便だったでしょうね。文明の発達、ひいては現代の南北問題にも、大きく影響したのではないかと思えてなりません。
少し前、台東区に行った際に、江戸時代に浅草橋にあった天文台跡に足を伸ばしてきました。現在は歩道脇の小さな緑地になっていますが、この付近に、幕府から暦を作る仕事を任じられた「天文方」の天測施設があったそうです。天文方といえば「天地明察」で改暦を成した主人公の渋川春海が、初代天文方に任じられたということで、御存じの方も多いことでしょう。
行ってみると、緑地には解説文の看板が立っていました。
当時の様子を、葛飾北斎が「富嶽百景 鳥越の不二」に描いています。ネット上に転がっていた画像を拝借してきました。仲村士「江戸の天文学」(角川学芸出版)によると、天文台は最初、神田駿河台にあり、神田佐久間町などを経て、1782年に移転したものだそうです。
建物の上に設置された、リングを組み合わせたようなものは、天体の位置を測定する渾天儀を簡略化した「簡天儀」なるものだそうです。これで星々を観測したわけですね。
「天地明察」では主人公が「北極出地」に出発し、簡天儀の機能のうち、垂直の次元の90度分のみの測量に特化した「象限儀」という器具を使って、全国を巡って北極星の地平線からの高さを観測していました。
なぜ北極星の高さを観測していたのか。それは北極星の高さが、各地の緯度に一致するためです。地平線から測ることができなくても、水平に設置すれば観測できるので、この法則は、おおむね北半球全域において通用します。どうしてかご存知でしょうか。
これは幾何学的な話になります。お話を単純化するために地球を真円と仮定した上で、下の図をご覧ください。
今、北半球上のある地点(円周上にある任意の1点)にあなたが立っています(以下、この点を立脚点と呼びます)。立脚点と円の接線(茶色の直線)が、立脚点から天空が見える範囲、すなわち地平線です。
あなたは立脚点から北極星に視線を向けています(オレンジ色の矢印)。北極星は事実上の無限遠にあるので、視線は、地球の南北両極を結ぶ地軸と平行とみなして、差し支えありません。
この北極星への視線と地平線に挟まれた角(青い弧のうちの一つ)が、北極星の高さを意味します。
ところで、立脚点から地球の中心(円の中心)に半径の直線を引くと、この半径の直線は地平線に対する垂線となるため、地平線と北極星への視線が成す角は、地球の半径の直線と赤道が成す角(もう一つの青い弧)と等しくなります。この角が緯度を意味します。
よって北極星の高さ=緯度となります。右の図はその証明です。赤道と地平線、北極星への視線を延長し、赤道に平行な緑色の補助線を加えたもので、同じ色の角が同一の角度を意味します。
つまり「天地明察」の北極出地では、象限儀で図の青い角度を測っていたわけです。これにより、日本の広さや地形、大地の曲率、ひいては地球の大きさなどを求める数値を導き出していたのですね。
南半球では、北極星のような地軸のほぼ延長線上にある星がないので、昔は不便だったでしょうね。文明の発達、ひいては現代の南北問題にも、大きく影響したのではないかと思えてなりません。