軌道エレベーター派

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OEV豆知識(30) 軌道エレベーターが無意味になるケースとは

2014-04-26 17:19:24 | 軌道エレベーター豆知識
 このところ、更新が滞っていてすみませんでした。ようやく一仕事終えました。
 さて、軌道エレベーターは、大飯喰らい(燃料のことね)のロケットに依存せず、ゼロコストで宇宙との間を往復できるのが売りであり、その価値や意義を信じてこの軌道エレベーター派をやっているわけですが、ひょっとしたら、「これがありゃ軌道エレベーターなんか (゜⊿゜)イラネ」という代物が登場しないとも限りません。実際、ロケット以外の手段はほかにもあるので、今回は軌道エレベーターの比較優位が崩れる、あるいは完全に不要になるかも知れないケースを考察したいと思います。早速ですが、以下の2種類に大別されます。

 (1) 新しい技術の誕生
 (2) 既存の技術の発達

(1)新技術について
 普通は過去の技術から触れるでしょうが、今回は現実味の薄い新技術を先に片付けます。人類がまだ手にしていない、宇宙へ行く新技術となれば、もうSFの話です。連想されるのは重力制御、慣性制御、空間跳躍などでしょうか。理論的にありえないものではないにせよ、天文学的なエネルギーと、それを制御するハイパーテクノロジーが必要です。
 たとえば重力制御で宇宙に行くということは、重力をシャットアウトするか、1G以上の重力源を生み出して利用するか、ということになりますが、前者は重力子や重力波の制御を意味するとしても原理が説明不能だし、後者は物質を超高密度で圧縮すれば地球の軌道を変えてしまう上、ブラックホールになっちゃうかも知れません。こういう設定を使うSFはご都合主義だから参考にならない。ましてや時空の跳躍や慣性制御など、何をかいわんやです。
 これらに比べ軌道エレベーターは、総論としては古典的なニュートン力学で説明可能であり、こうしたハイパーテクノロジーが実現したら立つ瀬がなくなりますが、先を越される心配はなさそうです。

(2)-1 ロケットの効率化
 既存の技術の延長は何が考えられるか? 手っ取り早いのは、現行のロケットの性能アップです。しかし技術者の皆さん、言われなくても軽量化はギリギリまでやっているし、燃料の濃縮もこれ以上飛躍的に高められそうにありません。あとは新しい素材や推進剤の誕生ですが、近年の材料工学やナノテクの発達を考えると、熱に強い炭素系素材や、革命的に燃焼効率の良い推進剤が誕生するかも知れませんね。
 ただし今のところは、ロケット開発を塗り替えるほどのものは出てきていないようです。ほかには核パルスエンジンなどに使う核燃料ペレットが非常に安く生産できるようになるとか、反物質が扱えるとかすれば変わってくるでしょうが、これも遠い未来の話でしょう。

(2)-2 マスドライバー
 ロケットを除く既存技術で有力候補は、マスドライバーだと考えます。マスドライバーとは、外部の力で質量を加速して放り投げる、投石機の大型版のようなものです。軌道エレベーターと一緒に語られることも多く、親戚のような存在だと言えます。我が軌道エレベーター派では、マスドライバーを軌道エレベーターの一種として、定義に含めています。
 近年、リニアモーターカーの実用化やレールガンの開発が進んでいます。両者の直接の原理は異なりますが、いずれも電磁気的に物体を加速するものです。米海軍のレールガン実験では、すでに3kg超の弾体を2500m/s(!?)で発射するのに成功しているとか。衛星軌道に質量を投入できるオービタル・マスドライバーは、これらがそのまま大きくなったと考えればよろしい。
 うろ覚えですが、30年ほど前に何かの記事で、第1宇宙速度で物体を打ち出すには、北米大陸を横断する規模のリニアレールが必要だと読んだことがあります。しかし、こういう数字は技術発展とともに短くなりますし、マスドライバーと化学ロケットのハイブリッドという手がある。可能な分だけマスドライバーで加速し、射出後はロケットの自力推進に任せるわけで、もし一般的な3段ロケットの1段目を省略できれば重さが半減しますから、大幅なコストダウンを図れるでしょう。
 豆知識番外編などで強調したように、軌道エレベーターは事実上ゼロコストで宇宙との往復を可能にします。しかし建造・維持費や、運用中の人工衛星やデブリを含む他天体との衝突という課題、地政学的条件、領土・領有権の解釈の問題などなど、実現までに様々な障害を抱える軌道エレベーターよりも、人類社会がマスドライバーを選択する可能性は少なくないでしょう。

 そしてマスドライバーはそのまま弾道兵器の大砲としても使えるため、軍事目的という強力なモチベーションによって、アメリカあたりが造っちゃうかも知れません。兵器開発はえてして採算度外視の青天井になり、アポロ計画を可能にしたのは、旧ソ連との兵器開発競争の以外の何物でもありません。また、軌道エレベーターは防衛が困難なため兵器としてはあまり有用ではありませんが、マスドライバーは、自国内に造れば通常の本土防衛網の中に入る。もちろん、すでに大陸間弾道弾や巡航ミサイルなどがあるので、兵器としての優先度はそう高くもないでしょう。しかし単純な質量弾(ハイテク兵器と違っていったん発射したら電磁的攪乱ができない)を戦略的距離で発射できる大砲があるという事実は心理的な威圧効果抜群であり、実力・威嚇の両面で結構役立つかも知れません。大艦巨砲主義そのまんまな代物ですが、単純な手段ほど土壇場で役立つものです。こうした理由から、建前は宇宙開発、本音は軍事目的でマスドライバーを実現させてしまうかも知れません。

 なんだか、軌道エレベーターに自信がなくなってきたよ。。。(´・ω・`) 構造原理のシンプルさ、美しさと、それが生み出す利益において、マスドライバーは軌道エレベーターにはかなわない。そう考えるので私は軌道エレベーター派なのですが、おそらくそれより先に人類は、ハイブリッド型のオービタル・マスドライバーに手が届くでしょう。なかなか厳しいものがありますが、「なぜ軌道エレベーターなのか」を折に触れて再確認し、問い続けて思索を深めていくのにはよい鏡かも知れません。両面で関心を注いでいきたいと思います。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

今回のまとめ
(1) 軌道エレベーターが不要になるケースには、新技術の誕生と、既存の技術の発展に分けられる。
(2) 新技術はSFに出てくるようなものばかりで、今のところ現実味はない。
(3) 既存の技術はロケットの効率化とマスドライバーがあり、この二つの組み合わせがもっともありえるのではないか。
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