軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(27) よくある誤解

2012-03-08 00:31:17 | 軌道エレベーター豆知識
 久々の「豆知識」です。軌道エレベーターが多くの人に知られるようになってきたのは喜ばしい(だけど「宇宙」が主流なのは複雑)ですが、その分、誤解されたまま広まっている情報も多いようです。今回はそうした中から、基礎知識にかかわる誤解について説明します。
 以下の記事で、カギカッコの赤い文章は間違った知識ですのでご注意ください。


「長さは静止軌道まで/静止軌道が終点」
 静止軌道部は軌道エレベーターの最重要部ですので、地上から伸びているのがここまでだと思われることがあるようです。しかし、軌道エレベーターは静止軌道を挟んで重さのバランスをとっているので、さらに上(外側)に伸びています。十分な質量を持つカウンター質量(おもり)を静止軌道のすぐ外側に設ければ、静止軌道"あたり"までの長さにすることも可能ですが、そのようなモデルを構築する意味はあまりないでしょう。


「地球の自転の遠心力で飛び出さないよう頂点をおもりで押さえる」
 先日の大林組の構想がニュースになった時、この記述がネット上を飛び交っているので驚きました。これは正反対で、おもりがないと、そこから下の構造物がすべて地上に落下してしまいます。力学的なバランスから言えば、おもりはむしろピラーを引っ張り上げて全体の構造を維持する役割を果たしていると言えます。静止軌道を挟んで下の部分は地上に落ちようとし、上の部分は外側に飛び出そうとする力が働いています。ですから上の項目でも述べましたが、両者の重さを等価に保つのが静止軌道エレベーターの基本原理です(質量バランスをあえて偏らせた応用モデルはあるけれども、その差はわずかです)。つまりは静止軌道を支点にした、やじろべえのようなものだと思ってください。


「たくさんロケットを打ち上げ、膨大な資材を運んで造る」
 軌道エレベーターを造るのに、どれだけロケットを打ち上げなきゃいけないと思っているのか? というのはよく言われる批判なのですが、完成までエレベーターが使えないという先入観ゆえの誤解でしょう。結論から言えば、近年の理論ではロケットの打ち上げは4回か5回くらいで済みます。軌道エレベーターの建造は、極めて細い、自重プラスほんのわずかな荷重に耐えるギリギリの太さのケーブルから始まります。このケーブルと、それを展開する機器をロケットで運び、最初の1本を引き、ロケットの使用はこれで終わり。あとは、このプライマリーケーブルを伝って少しずつケーブルを太く補強しながら、付帯施設などの資材を運んで完成させるのです。仮に計算通りいかず、打ち上げ回数が倍になっても10回以下ですね。軌道エレベーターの実現には、大量のロケットを打ち上げる必要はないと考えられます。


「ラグランジュ点につながっている」
 この場合のラグランジュ点とは、地球─月系のラグランジュ1(L1)のことを指しているのでしょう。これは地球と月の共通重心から32万km以上離れており、静止軌道エレベーターを、おもりを設けずにピラーの延長だけで形成しても全長は約14万km超で、とても届かない上、公転速度が異なるため常に「つながる」のは無理です。ただしこのL1に、地球とはつながらない独立した軌道エレベーターを設けるアイデアはあります。なお余談ですが、この地球─月系のL1を「地球と月の引力がちょうど釣り合っている中和点」と思っている方も多いでしょう。実際問題としてその解釈で支障はないのですが、厳密に言うと完全な中和点から、ほんの少し地球寄りになります。


「日本に造れる」
 福島第一原発に軌道エレベーターの地上基部を造って核のゴミを宇宙に棄ててしまえという動画か何かを観たことがあるのですが、日本の領内か排他的経済水域、あるいは近海に造れると思っている方がおられるようです。ですが静止軌道エレベーターの地上基部は、原則として赤道近辺に設けます。エドワーズモデルは南北緯35度まで可能としていますが、安定性が悪いので私はあまり好みません。もちろん絶対に不可能とは言いません。赤道を挟んで、南半球における日本と同じくらいの緯度の場所(パプアニューギニアあたりか?)との間でピラーをシンメトリーの構造にすれば、東京に造ることだって不可能ではないでしょうし、個人的にはその方が安定するとさえ思います。とはいえ、それは軌道エレベーターが実現し、その技術がさらに発展した後に開ける可能性であり、少なくとも第1号が日本近辺にできることはないでしょう。


「1周90分で地球の周りを回っている」
 これは小説に書いてあったことで、小説はそれ自体がフィクションだから、ほかの誤解とはちょっと事情が異なりますが、読んだ方が誤った知識を持たないために一応。静止軌道エレベーターは地球の自転と同期していますので、このようなことはありえません。なお90分というのは、国際宇宙ステーションのおおよその周期です。


 以上、揚げ足取りのようですが、こんな間違いは瑣末なことで、むしろこれをきっかけに軌道エレベーターについて理解を深めてもらえたらと思い列挙しました。どんな分野でも、学べば多かれ少なかれ間違えます。私も軌道エレベーターの原理についてたくさん間違った解釈をしていて、追求していく中で色んなことを知りました。皆さんももっと知っていただければ嬉しいです。
 間違えることがあるのは、あなたが前進し、未知の領域に足を踏み込んでいるからです。だからそれはは恥でも何でもない。恥ずかしいのは間違えた自分と向き合う勇気のない人の方ですから、萎縮せずにどんどんトライ&エラーしましょう。
 知ることは生きること、知ることは楽しい。

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OEV豆知識番外編 再確認:なぜ軌道エレベーターが必要なのか

2011-04-22 21:48:38 | 軌道エレベーター豆知識
 2周年ということで、なぜ軌道エレベーターが必要なのか? どうしてこんなサイトをやってまでアピールしているのか? 2周年を機に、この点をいま一度、まとめておきたいと思います。項目別に大きく分けると、理由は次のような点でしょうか。

(1) 宇宙開発・進出が安全で安価になり、より多くの人が宇宙へ行ける
(2) 人類社会の多くの問題を解決する
(3) 抱える問題と個人的動機

 この3つの理由の説明について、関連している点は豆知識などのコーナーにリンクを張ります。詳しく知りたい方はジャンプしてご覧ください。

(1) 宇宙開発・進出が安全で安価になり、より多くの人が宇宙へ行ける
 ご存じの通り、私たちが宇宙へ行く手段は今のところロケットしかありません。このロケット、重量の大半を推進剤(以下燃料に統一)が占めています。スペースシャトルの場合は8割超が燃料で、低軌道までしか飛べない。燃料で燃料を持ち上げているようなもので、重力のくびきから抜け出すには、それほどのエネルギーが必要ということです。多くの人や物資を運ぼうとするほど必要な燃料が増え、その燃料の分さらに重くなるというジレンマを抱えています。しかも一定速度以上の軌道速度に達していないと落ちてきてしまう。ついでに言うと環境破壊も馬鹿にならない。
 これに対し、軌道エレベーターは電気の供給を受けながら上昇することを念頭においているので、自分でエネルギーを運ばなくていい。また、ピラーにしがみついているので(静止軌道に達するまで)軌道速度を得なくても落下しない。だから、より大量の人員や物資を輸送でき、少なくともロケットほど特殊な訓練は必要ない。
 そもそも、ロケット依存(仕方ないけど)の宇宙開発がデブリをどんどん増やしていて、すでにケスラーシンドローム(デブリが増えすぎて衝突と拡散が連鎖的に続いてしまう状態)寸前なわけです。軌道エレベーターがあれば、デブリを頭打ちにしてケスラーシンドロームを回避できるどころか、デブリ問題を根本から解決する可能性がある。
 さらに、位置エネルギーを利用して発電できるので、輸送コストを一部回収できるほか、高度約4万7000km以上から上では、物体を地球の重力圏外に飛ばす機能があるので、大型の探査機や宇宙船を、月や外宇宙などへ(最初の射出は)ゼロコストで送ることができる。
 

 「なんで軌道(宇宙)エレベーターなんか必要なの?」と問われるのはいつものことで、もう慣れっこになってしまいましたが、現在行なっている宇宙開発がもっと簡単にできるようになる。たったこの一点だけでも、軌道エレベーターには取り組む価値があるのではないでしょうか。宇宙へ進出する私たちにとって、これ以上コストパフォーマンスの良いツールはない、と私は考えています。

(2) 人類社会の多くの問題を解決する
 私たち人類は、消費するエネルギーを増大させ続けてきました。エネルギー転換や生産力の奇跡的なブレイクスルーでもない限り、このままでは遠からず地球上の資源の多くを食いつぶします。文明は周囲の環境や資源を食いつぶしながら存続します。反省すべき時ではありますが、「持続可能な成長」だのエコだの言っても、完全な還元は熱力学の基礎から言ってもまず不可能です。私たちは、新たな資源や代替エネルギーを求めて未踏の場所を開拓しなければならず、そこには当然宇宙も含まれる。その時、地球の外への出口として、軌道エレベーターが不可欠となるでしょう。
 月には大量のヘリウム3や希少鉱物、水などが発見されていますし、軌道エレベーター自体が巨大な太陽光発電とその送電装置として機能するはずです。「帰ってこれないよ」といって人員を募集している火星のテラフォーミングなども、軌道エレベーターがあれば大規模に進むし、そうなれば火星にも軌道エレベーターが造られるでしょう。
 一方、前節で説明した質量投射能力は、地球上で処分できない有害な廃棄物を投棄することにも使えます。特に、しつこいようですが放射性廃棄物の投機を強調したい。東日本大震災により原発事故の被害が深刻化しました。今も毎日放水していて、循環式の冷却システムを確立しない限り、放射性廃棄物としての汚染水がどんどん生じてくるわけで、きりがありません。その水やガレキ、原子炉構造体の部材などは、ある程度の除染処理はできても(高レベルのものは除染自体無理)、どうしても残ってしまう最終廃棄物は地下に埋める以外に方法はなく、負の遺産として永い間、地球で同居していくことになります。ついでに言うと、高レベル放射性廃棄物の最終処分って、埋める場所が決まらないもんだから、ほとんどの国で実施されてないんですよ。
 軌道エレベーターはこれを、地球上からなくすことができる。一番良いのは天然の核融合炉である太陽にぶち込んでしまうことで、この点について、詳しくは軌道エレベーターによる核廃棄物の処分をご覧ください。核廃棄物に限らず、この有害廃棄物の投棄というのは、軌道エレベーターに関する私の最重要テーマの一つなので、今後も追究していきたいと思っています。

 いずれにしろ、文明社会はフロンティアを必要としています。少なくとも現在の科学研究や構想の中で、これを解決に導くツールは、軌道エレベーターを超えるものはない、そう確信しています。
 
(3) 抱える問題と個人的動機
 軌道エレベーターの実現には当然諸問題があります。これをどう解決するか? デブリ問題摂動倒壊などの技術的な障害は科学の発達によって克服していくとして、最大の問題は政治的な条件でしょう。誰がどこに造るのか? それによって必ず不利益を被る者が出てくる。不利益のうち卑近な例が、ほかの人工衛星との衝突です。ほんの一部の例外を除き、あらゆる人工衛星は軌道エレベーターと衝突する。この補償を誰がするのか? 現在の国際情勢において、その刷り合わせはまず不可能とも言って良いと思われます。特定の国家の所有を禁じ、世界政府的な中立機関が軌道エレベーターを実現・管理すべきというのは、今のところは単なる言葉に過ぎません(そのような特権的存在は権益の独占を生み、逆に構想の種になる)。
 もし、現在の世界情勢の延長において軌道エレベーターが実現するとしたら、結局のところ核開発の歴史と同じような道筋をたどるのではないか? 私はそう考えています。力を持つ国家同士のみで調整が行なわれ、勢力均衡と一種の不可侵的条件の下に軌道エレベーターが建造される。これに伴い不利益を被る(たとえば人工衛星が使えなくなる)主体について、共同で補償や代替手段の提供が行なわれる。そして建造した一部の国々は既得権を得、後続的開発を禁止する国際法を制定することになるでしょう。この予想については、3年越しで書きかけているのですが、なるべく早く完成させます。
 この状況を是とするかどうかは人それぞれ意見があるでしょうが、私は存外悪くないと考えています。中央集権的なシステムは独裁や腐敗を生みやすい一方で、冷戦後の世界がその前より混乱したことを考えれば、軌道エレベーターに関する限り、勢力並存は安全保障面でも安定度が高いと考えるからです。何よりも、軌道エレベーターの保有が特別でないくらいたくさん存在する普遍的な状況こそが、より安定した安全保障をもたらすと考えるからです。いずれにせよ、誰でもいいから早く造って欲しいというのが私の本音です。

 もろもろ書いてきましたが、最後に個人的動機を。ここまで偉そうに書いてきましたが、それでも「なぜ軌道エレベーター?」と問われれば、結局は「面白いから自分のために好きでやってる」だけです。
 初めて軌道エレベーターを理解した時、その基本原理のシンプルな美しさに、衝撃と感動を受けました。以来、知りたいことを追究せずにはいられず、それを「こんなにすげーんだぜ!」と皆さんに言いふらしたくて、知ったかぶりしたくてこんなことをやっています。そんな自己満足を押し付けて申し訳ありませんが、知る喜びを一片でも共有できれば幸いです。
 
 ここまで読んで下り、まことにありがとうございました。これからも軌道エレベーター派を、よろしくお願いいたします。

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OEV豆知識(26) 課題・問題その4 倒壊(下)

2010-10-31 22:38:35 | 軌道エレベーター豆知識
 「倒壊」というテーマについて扱った前2回の豆知識では、(上)で原因を扱い、前回の(中)では(1)昇降機=乗物 (2)本体=構造体──の二つに分けて実際に倒壊したらどうなるかについて、(1)について高度別に考察しました。今回は(2)の構造体について、本当にぶった切れたらどうなるのかという考察と、倒壊というテーマ全体の小括です。
 なお、この構造体ですが、第1世代では「ケーブル」とか「テザー」「ベルト」などと呼ばれ、これは紐状の細い、あるいは薄いもののみを指しています。一方第2~第3世代になると、柱のように太いものや、中が中空のものなどに発展することが考えられます、というより少なくとも当サイト「軌道エレベーター派」では、それを念頭に置いています。こうした太い構造体には「テザー」「ベルト」などは呼び方として不適切です。
 そこで、地上から宇宙へつながる軌道エレベーター本体の基本構造を構成する構造体のことを、太さや規模、機能にかかわらず「ピラー」と呼ぶことにします。地上の橋で言えば、橋の特定部位を、材料や規模にかかわらず「橋脚」や「橋げた」などと呼びますから、これと同じような呼び方だと思って下さい。これは前から考えていたことで、この「ピラー」を当サイトの「軌道エレベーター定義書」に追加して、とにかくは試してみたいと思います。

 さて本題に入りますが、豆知識「倒壊」の最後の回、今回はこのピラーが破壊されたらどのような事態が起きるかについての考察です。
 これについては、ピラーの発達度によってケースが変わってきますので、定義書にもとづいて世代ごとに分けて考えたいと思います(定義書つくっといて良かった)。なお、今回は前提として、海上型の地上基部を想定し、周辺の、ピラーの燃え尽きない部分が落下してくる範囲は航行規制などをしき、降ってきても大丈夫とします。
 まず、前回にも述べたように高度約2万5000kmから上の構造物は、ちょん切れても地上までは落下しません。切れた分に相当するカウンター質量を放出すれば、バランスがとれて漂流することもありません。カウンター質量は地球重力圏の影響がいへ飛んでいくことになります。ですので、乗り物はともかく、この高度より上のピラーについては落ちてくる心配はないし、漂流しても無人でさえあれば、どこへ飛んでいってもかまわないですので考慮の外とし、以下ではその限界高度以下のピラーについて、(2)-1 第1世代、(2)-2 1.5世代以降 (2)-3 プラスアルファとしてのシールド──と分けて考察したいと思います。

(2)-1 第1世代
 第1世代のモデルに関しては、どこで切れようとヒラヒラと落ちてくるだけというエドワーズプランは、倒壊という問題に対し明快な回答を出していると言えるかも知れません。これはこれでいいのでしょう。このサイトで素人が生意気なことばかり言ってしまってますが、さすがは学者先生です。
 しかし個人的には、これくらいしか第1世代の長所はないと私は考えています。ピラー自体が落ちてきても問題ないということは、すなわち大きな荷重に耐えられないことを意味しますし、所詮は単線のトロッコのようなもの。満足な軌道エレベーターとは言えません。第1世代はあくまで過渡期のモデルであって、おのずと1.5世代以降のモデルへ向かうものと考えます。

(2)-2 1.5世代、または第2世代以降は
 繰り返しますが、高度約2万5000km以上は落下の心配はありませんので、これより上は無人と仮定すれば、飛んでいっても心配ないですね。なるべく多人数を常駐させず、万が一に備えて脱出ポッドなどを備えるようにしましょう。
 で、問題は限界高度より下のピラーです。第1世代より後は大規模化していくという前提でカテゴリー分けしているため、落下物や漂流物も巨大で、空力加熱で燃え尽きずに落ちてくるものも多いでしょう。また低軌道ステーションなんかも想定に入れているので、このステーションまで落下したら、燃え尽きずに地上に被害を与えるおそれがあります。隕石が落ちてくるのと同じです。私は、第2世代以降のモデルこそ、軌道エレベーターの真価を発揮できるものだと考えているのですが、こればかりは弱点としかいいようがありません。
 対処としては、燃え尽きやすい素材を使用するとともに、大気圏突入したら燃え尽きやすいよう自壊して細かい断片になってくれる機構を備えるべきかも知れません。しかし、これは構造の弱さを生むため、二律背反になってしまいますね。あるいは、限界高度以下は第1世代、それより上を第2世代でつくるハイブリッドにするとかいう手もあると思います。いずれにしろ、あまり説得力のある回答でないことは承知しています。



(2)-3 シールド
 (2)-2が充分な回答になっているとは思っていないので、結びとして別の回答を提示したいと思います。昇降機、ピラー両方の落下や漂流などに対する、私の一つの回答が、アイデアノートで紹介した「オービタルシールド」なんですね。アイデアノートの方で説明したように、シールドは力学的にピラーに依存せず、独立していますから、強度が許す限り巨大化できます。その構造を利用し、ピラーが切断された時は、緊急措置としてシールドの方にエレベーターの全体構造を支えてもらうのです。
 また、第2世代以降であっても、あくまで応急措置として、シールド内に継ぎ足し材料をプールしておき、繋ぎなおして応急措置を図るわけです。そしてシールド内に救援体制を常駐させ、途中に弁のようなネットを設けるなどして、落下物を受け止めるなどし、昇降機の乗物の保護も可能というわけです。
 また、シールドはデブリや放射線、武力攻撃などへの対策も兼ねて考案しましたが、内部に対しては、多少の爆発であればそれを封じ込めるような構造にできれば理想的です。まあとにかく、巨大化させて色んな仕掛けを仕込んでしまえということになります。

 このシールド自体が壊れて落下などすれば、もっと大惨事になりかねませんが、そう簡単に壊れたりしないほど巨大化してしまえ、というのが回答でもあります。そして最終的には、シールドも含めてオービタルリングを形成し、地球を囲む軌道エレベーターとリング、そしてシールド全体を一つの構造物にしてしまうのが望ましい。
 もちろん、ここまで欲張ったら、遠い未来のSFに出てくる要塞のような代物になってしまうので、まずは、外側からの防護と、緊急時のピラーの補強、救援機能などが優先ですね。とはいえ、こうした理由もあるので、手前味噌で恐縮ながら、私はシールドは単なるオプションプランではなく、むしろ軌道エレベーターに必要なものとして強く勧めたいのです。
 決してこれで完璧ではなく、穴があることは自覚しています。しかし、避けて通れない倒壊という問題に対し、足りない頭をこき使って考えた、現時点でこれが私の長期的回答です。

 今回を持って、伸び伸びになっていた強化月間の締めとしたいと思います。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

今回のまとめ
 ピラーの倒壊(落下)について、
(1) 第1世代のモデルは落下しても甚大な被害はないはず
(2) 1.5世代以降は、落下してくるピラーの構造や自壊機能などによって被害を少なくするよう工夫すべき
(3) それでも対処としては足りないので、一案としてシールドを装備してはどうか

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OEV豆知識(25) 課題・問題その4 倒壊(中)

2010-09-26 20:49:18 | 軌道エレベーター豆知識
 またまた間が空いてしまい、申し訳ありません。今回の豆知識、上下の2回の予定でしたが、後半を書いていたら長くなってしまい、上中下の3回に分けることとしました。何卒ご了承ください。

 さて、軌道エレベーターの倒壊について、前回は考えられる主な原因と、それに対する備えの考察を紹介しました。しかし、トラブルというのはいつか必ず起きるもので、備えがあっても倒壊するかも知れない。そうなったらどのような事態が生じるのか、それに対しどのように対処するかについて、自分なりの一考を紹介します。
 先に覚えておいていただきたいことがあります。軌道エレベーターの高度約2万5000kmから、静止軌道を挟んだ2万kmくらいの範囲位置にあるものは、何らかの原因で切り離されても、一定以上落下も飛び出しもしません。軌道エレベーターに加わっている力は、静止軌道、つまり高度3万6000kmを境に上下の方向へ引っ張られているのですが、上述の高度約2万5000km超の部分は一定以上の軌道速度を得ています。このため、もっと上や下の構造体とつながっていれば、そちらに引っ張られていきますが、そうでない限りこの部分は地上に落ちてくることも、宇宙へ向かって飛び出していくこともないので、これを念頭に置いてお読み下さい。
 その上で、軌道エレベーターの本体が千切れた場合に、

 (1)上昇または下降中の昇降機
 (2)ちぎれた本体

 ──がそれぞれどうなるかに大別して考え、その時にどのような対処をとるべきかについてます。そして今回は、(1)の昇降機についてでです。
 本体とセットで考えなければならない点も多いのですが、ひとまずは単独で。何らかの原因で軌道エレベーターが寸断された時、昇降機(正式な業界用語ではエレベーターのシステム全体を「昇降機」というのですが、当サイトでは特に乗物を指して用います)に人が乗って上昇または下降、もしくは駐機中であったら、昇降機に何が起きるか?
 上述の高度約2万5000kmを、ここでは便宜的に「限界高度」と呼ぶことにします。昇降機が本体とくっついたままなら、この限界高度より下に位置していた場合は地球の方向へ、上なら宇宙の方へ、それぞれ本体と一緒に落ちるか飛ばされて行くことになります。
 昇降機が本体から離脱した場合は、限界高度より下は落下。限界高度から上の約2万kmくらいの範囲にあれば、地球を周回する楕円軌道に遷移して宇宙を漂流することになり、このうち静止軌道に非常に近ければ、ほぼそのまま静止軌道を周回します。で、約高度4万6000kmよりも上は、地球の重力を振り切って飛んで行ってしまい、位置関係次第では月に落下する可能性もあります。

 このような事態のために、どうすべきでしょうか? 地上に近い方から、
 (1)-1 高度約50kmくらいまで
 (1)-2 高度約50kmから200~300kmくらいまで
 (1)-3 高度約300kmから約2万5000kmくらいまで
 (1)-4 それより上
 ──に分けて考察します。

(1)-1 高度約50kmくらいまで
 まず(1)-1ですが、昇降機が高度50kmくらい、ようするに成層圏あたりまでの位置にいた場合は、生命維持部分のみを残して分離し、パラシュートで降下させるということで解決できるでしょう。実際、スペースシャトルの固体燃料ロケットブースター(SRB)が高度45~47kmくらいで分離され、パラシュートで海上に落下、回収されています。これに準じた発想で、昇降機に地上に降られる装備を付ける、と。
 SRBは無人ですから、海上に叩きつけられるように着水します。もし人間が乗っていたらただじゃ済まないであろうというのは想像つきますが、SRBはカラの状態でも約90tもあります。これに対しソユーズの帰還船は約3tですから、これを参考に考えると、昇降機の有人の生命維持部分を非常時には分離し、同様の手段で回収するのは不可能ではないでしょう。いずれにせよ、少なくとも高度50kmくらいまでは、無人とはいえ精密機械をパラシュートで降下させ、回収する技術は確立しているわけですから、あまり問題はないと思われます。

(1)-2 高度約50kmから200~300kmくらいまで
 成層圏から上ですが、これがかなり厄介です。まず前提として、地上から上がってきたら、このあたりで別装備の昇降機に乗り換える必要があると考えます。乗物の材質や耐熱性によりますが、高度数百kmくらいまでは、加速して空力加熱で燃え尽きない範囲で済む可能性がありますので、アポロやソユーズの帰還船の再突入カプセルのようなものを昇降機に装備する(あるいは昇降機全体をそのような仕様にする)ことで、地上へ帰還するということにします。かなり危険ですけどね。
 ただし、アポロやスペースシャトルは地上に対して斜めに落下してくるのですが、軌道エレベーターから落ちたら、高度にもよりますが、コリオリで若干斜めになるものの、地上に対しおおむね真っすぐに近い角度で落ちてくるはずです。大気の抵抗でブレーキをかけられる距離がとても足りないでしょう。軌道エレベーターの高度300kmあたりから落下したら、成層圏に達する頃にはシャトルなどの再突入速度と同等のスピードに達してしまうと思われ、実質的には、この手が通じるのはせいぜい高度100kmや200km、よくても300kmくらいまでが限界であろう、という風に区分した次第です。

(1)-3 高度約300kmから約2万5000kmくらいまで
 ではこれより上ですが、 一番手っ取り早いのは、単純に命綱に相当するケーブルを静止軌道ステーションからくっつけたまま上下すりゃいいんじゃない? と思っているんですね。本体にしがみつく以外に、そのような命綱を付けといて、本体が破断したらパージして、命綱をたぐって、ステーションの方にも引っ張ってもらって自力帰還すると。下から昇ってくる場合は、途中まで垂れている命綱につかまるわけです。この命綱は多いほどいいです。
 これは応急措置で良く、千切れていったん本体との接続を失った後、命綱で上昇して、千切れた本体の端っこに再びしがみつくと。もっとも、これなら通常の昇降時にも引っ張ってもらえば昇降機側の動力が不要という見方もできますが。相対的に静止軌道ステーションが引っ張られてしまいますが、まあなるべく巨大化して質量の比を大きくするとともに、静止軌道ステーションには当然姿勢制御機構があるはずですので、昇降機と引っ張り合っている間、姿勢維持しようということで。
 命綱まで一緒に切れてしまったら? 落ちて燃え尽きるしかない。。。じゃ困りますから、一応の回答はあります。これは、総合的な回答でもあるので、後ほどまとめて。

(1)-4 さらに上
 限界高度の範囲内では、昇降機はある程度落下したら微妙に長めの楕円軌道に遷移して、要するにそれ自体が独立した人工衛星になってしまいます。とりあえず落ちてきたり、外側に飛び出したりする心配はありませんが、代わりに宇宙空間を漂流することになります。静止軌道より外側では、この上下関係が逆になります。これを踏まえた上での対処をいくつか。。。
 いずれのケースも、漂流している間の生命維持は極力長く持たせることは当然ですが、(1)-3で説明したように、命綱につながっていれば、それで解決はできると思います。で、この高度の場合は、命綱が本体と一緒に切れてしまった場合に備えて、昇降機が自力の宇宙船として行動できる機能を持たせることができれば、それに越したことはないでしょう。で、いったん切り離されてしまった本体の切れはしに再び自力で取りつくと。あとは、脱出ポッドなどもあるといいですが。
 ちなみに、時間の制約さえなければ、この限界高度の範囲内であれば、軌道に乗っていずれは元にいた位置に戻ってくるんですよ。ですが、限りなく静止軌道に近い楕円軌道などに乗ったら何日かかるかわかったもんじゃありません。ですので、生命維持機能は極力長期持たせるにしても、1周するまで待つのは無理がある気がします。持久戦よりも自力帰還に機能を優先させた方がいいかも知れませんね。

 上述したように、静止軌道から上は、それより下の対処をほぼ上下逆に使うことが主な選択肢になりますが、あとは限界高度の上限よりも上の場合。これは、やはり命綱をつけておくのが望ましいと思いますが、本当に飛んで行ったらまず助からないですね。人工惑星と化すか、月の引力につかまって落下するか、どちらにしろ絶望的な末路が待っています。
 代わりに地上に落下して叩きつけられたり、燃え尽きたりする心配はないですから、上記の命綱や宇宙船としての機能に期待するほか、あとは救助体制を二重三重に組んでおくことが必要だと考えます。とはいえ実際は気休めで、いったん放り投げられたら救助は不可能じゃないかなあ。。。? この回答も含め、上記全般について、これ以外の総合的な回答を考えてはいますが、これは構造体の方とまとめて最後、つまり次回に述べます。

今回のまとめ
(1) 本当に倒壊した場合の考察は、本体と昇降機に大別される(今回は昇降機)。
(2) 倒壊した際の昇降機の挙動および対処は、パラシュート降下、カプセルでの再突入、漂流など、高度によって異なる。
(3) 高度によっては救助等は困難になる。

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OEV豆知識(24) 課題・問題その4 倒壊(上)

2010-09-09 20:25:30 | 軌道エレベーター豆知識
 ちょっとわけあって更新が滞っており、申し訳ありませんでした。伸び伸びになっていた強化月間の一応の締めくくりとして、久々の「軌道エレベーター豆知識」。誰もが気になる軌道エレベーターの倒壊について、上下2回でお送りします。

 軌道エレベーターが何らかの原因で倒壊した場合、規模によっては大惨事に至る可能性は決して低くないでしょう。初心者(?)がよく指摘する疑問でもあります。あらゆるケースをすべて想定するのは無理ですが、今回はいくつかのケースに分け、倒壊の原因や対処などについて自分の考えを述べててみたいと思います。まずは倒壊の原因について。
 はじめにお断りしておくと、経年劣化などによる一時的な損耗は、通常、あるいは応急的なメンテナンスによって修復可能と判断できますので除きます。今回の考察の対象は、「OEVの構造体が急速に、あるいは一気にぶった切れて、放っておいたら構造体が落下や漂流してしまう事態」を対象とします。
 軌道エレベーター(以下OEV)の構造体が寸断されてしまう主な原因としては、大きく分けて

 (1) 天災
 (2) 事故
 (3) 人為的破壊行為
 ──といったところでしょうか。まあどんな乗り物にも当てはまることなんですが、OEVの場合ではどうでしょう。

(1) 天災(デブリや隕石など)
 自然現象による被害については、デブリの集中や隕石の衝突などが考えられますね。デブリの起源は人工物ですが、廃棄物による宇宙の環境問題として、こちらに区分します。過去の豆知識で述べたように、OEVそのものがデブリ問題解決の切り札となりうるものですから、OEVによって減らしていくことで根本的解決を目指すべきでしょう。流星雨のようなケースは、これも過去に述べたように予測可能ですから、エレベーター自体を屈曲させるなどして回避できるかも知れません。最近は大出力レーザーでのデブリの除去という研究も進んでいるそうですから、この技術にも期待したいところです。
 次に隕石。多くの小惑星をスペースガード協会などが監視していますから、予測・回避は可能。そうでなくても、OEVをぶった切るようなほど大きな隕石なら、そのまま地上に落下して、大災害をもたらしかねません。それくらい大きな隕石は安全基準を超えていて免責事項ではないかと。普通の橋やビルだって、隕石はもちろん、航空機が落ちてきてぶつかったらひとたまりもないですが、そんな事態までは想定して造ってませんよね。

(2) 事故
 まずは人工衛星の衝突。これもOEVの登場によってロケットの打ち上げや人工衛星の運用が減少し、それでも運用が必要なものは、またまた過去で説明したように対地同期軌道を周回させるなどして刷り合わせをすることで回避は可能であろう。。。ていうかそうしてもらわないとOEVが造れませんので。
 このほかには、乗り物同士でぶつかるとか落下するとか、あるいはステーションに衝突したり、運用のヒューマンエラーとか火災などが考えられますが、まあこれは、運用管理やメンテナンスをしっかりせえよ、としか言いようがないですよね。運用マニュアルを厳守させ、部品等はこまめに点検や補修をし、危険物は持ち込ませず。。。でしょうか。
 事故に関しては原則「気をつける」しかないので、あとは本当に起こって構造体が破断した場合、どう対処するかということについて述べることを持って考察に替えたいと思います。これは次回に。

(3) 人為的破壊行為
 これは、(3)-1.攻撃は外部からか、内部からか (3)-2.誰による破壊行為か ──に分けて考えたいと思います。
 まず(3)-1ですが、外部からの攻撃に関しては、残念ながら完璧に防衛することは不可能でしょう。OEVは構造上極めて脆弱で、どこか1か所でもちょん切れれば即致命傷になりかねませんし、ミサイルでも命中すればひとたまりもありません。地上でカバーできる範囲に関しては、迎撃ミサイルや護衛艦隊の配備、スクランブル体制の整備などは当然ですが、少なくとも地上や海上から発射・発進する兵器による攻撃に関しては、最低限同じ手段があれば迎撃できますので、あとは数と迅速さ・正確さの勝負です。要塞化して最新装備の軍隊に守ってもらう必要がありますね。
 一方、成層圏の上の方になると滞空が困難になってきますから防衛も困難になるでしょう。そして、時間の制約さえなければ、衛星軌道上に爆弾でも撒いておけば、いつかかならず衝突するので、これを回避できないほど大量にバラ撒かれたら命取りかも知れません。ただしこの点については、宇宙空間では、攻撃する側も攻撃手段を軌道に乗せるなどのコストがかかって大変だし、おのずと感知されるでしょうから、少なくとも地上ほど攻撃可能性は高くないかも知れません。いささか願望に過ぎますが、これらの条件に、上述のレーザー技術などの手段が色々加わることを期待したいところです。

 しかし、もっとも憂慮すべきは、爆発物などで内部から破壊されることです。はっきり言って、こうなったらもうお手上げ。現代の航空機だって、手榴弾1個持ち込まれたら一巻の終わりです。大韓航空機爆破事件しかり、ロッカビー事件しかり。ですから、乗り降りや貨物の運び込みの際のチェックにすべてがかかっており、やるべきことは現代の空港とまったく同じです。セキュリティを何重にも徹底する。これに尽きます。

 で、(3)-2の破壊行為の主体ですが、A国家 Bテロリスト Cその他の犯罪者に大別します。これを論ずるのは、誰が攻撃してくるかということが、どのような装備を保有しているかという推定にもつながり、(3)-1で述べたうちのどのやり方で防ぐかということに対応するからです。
 さて、ABCの中で、質・量ともに最大の武力を有しているのは言うまでもなくAの国家です。ロシアなどは衛星軌道に到達するミサイルも開発していて、もし敵に回れば危険ですが、私はほとんど心配していません。そもそも建造段階で国家間の刷り合わせを行わないはずはないからです。
 「OEVは兵器として利用できるから、所有すれば世界の支配者になれる。だから国家が所有すべきでない」なんて意見がありますが、漫画かアニメの観すぎです。確かに兵器転用はできないこともないですが、割に合わなくて、とても使えたもんじゃありません。上記で述べたようにOEVはその構造上、攻撃力能力以上に防衛が困難だからです。
 核兵器と同じで、一度でもOEVを兵器として使おうものなら、「破壊やむなし」という世論が形成され、湾岸戦争の時のイラクのように世界中から袋叩きにされて壊されてしまうでしょう。攻撃すれば自滅を招く、だから撃てない。冷戦時代の核戦略を支配した「相互確証破壊」と同じです。
 ですから、OEVを建造・保有する主体は、否応なしに「軍事利用は絶対しません。だから攻撃しないでね」と自ら宣言・約束して安全保障上の保険をかけざるを得ない。少なくとも純軍事的に見た時、OEVの保有は支配者になるどころか、むしろアキレス腱を抱えることにほかならないのです。
 それに、国家といっても単独での建造はありえず、結局は力を持った複数の大国の間で条約を結び、国際コンソーシアムを立ち上げるのが一番ありうるケースだと私は考えています。この点については、別のコーナーで詳しく述べるつもりですが、そんなわけで、OEVの仮想敵として、国家の優先順位は低いと良いと考えます。ていうか、そうなったらもう戦争ですから、OEVだけ守っても意味がありません。

 次にBとCは非合法活動としてひとくくりで考えます。動機面では、OEVはテロの標的になりやすいかも知れません。反政府組織の破壊工作はもちろん、宗教的な反発も買いそうですし、どこか別の場所へ被害を与えるためにOEVを壊すなんてのもあるかも知れません。三島由紀夫の「金閣寺」じゃありませんが、当人以外には理解しがたい信念や感情に基づいて壊そうとする人もいるかも。ただいずれにしても、攻撃の手段や規模は、結局は個人や非合法組織レベルの財力や取引で成立する範囲に限られることになります。
 その上で採られうる手段を考えると、上述したように、破壊工作者の潜入が一番危険で、かつ実行する側にとっては安上がりなので、とにかくセキュリティを厳重にというほかない。一方外部からの攻撃は、個人は実行力から言って論外。非合法組織の場合は相当な資金と人手、装備が必要であり、上記(3)-1で書いたように防衛部隊を配備しておくことでかなりの対処になるでしょう。防衛力が充実していれば接近すら難しい。ミサイルを打ってくるなんて可能性もありますが、長距離ミサイルの購入や運搬などという、金がかかって目立つ取引ができるテロ組織なんてそうはないでしょうし、これは別次元の話なのでちゃんと官憲に摘発してもらわないと。
 ですので、そんな一般人や裏社会の人たちが、軌道上で攻撃をしかけてくるというのは、宇宙へ行く手段がよっぽど低価格化・一般化した時代でなければありえず、それこそOEVが発展しなきゃありえない話でしょう。もちろん運用中の人工衛星同士を衝突させてデブリを大量に発生させるなんて手もありますし、最近は一般向けの宇宙旅行プランを立てるような民間企業も出てきてますから、そうした企業などが飛ばした宇宙船を9.11テロのように乗っ取ってOEVにぶつけるなんていうのも考えられますが、それは衛星や宇宙船を管理・運用している人々の責任で防いでもらわなくてはいけません(9.11だって航空機が突っ込んで壊れたことはビル側の責任ではなかろう)。それに、衛星にしろ宇宙船にしろ、素人が1人や2人で扱えるものではありませんね。
 上述(何度もこの表現すみません)したように、OEVが実現すれば、長期運用の衛星や、地上と宇宙を往復するための宇宙船は減る方に進むと思われますので、その辺にも期待です。 

 そして何よりも、これらを考慮した上でなお、もっとも有効な手段、それは1基や2基壊しても無意味なほど、OEVを沢山造ってしまうことです。地球をOEVでハリネズミのようにして、さらにオービタルリングでつないで相互に補強もすれば、ちょっとくらい壊れても、中心構造はほかのOEVが支えてくれて温存だって可能です。

 「今さらOEVを壊したところで敵にダメージを与えられず、目的を達成しえない」そして、「沢山あるから、誰かが1基や2基保有しても特に優位にならない」という状況を現出すること、それこそがOEVが破壊行為の標的となることに対する戦略的な最終勝利であろうと私は考えます。

 長々と書いてきましたが、上記の点を考慮すれば、OEVが倒壊する心配はまったくないのかというと、断言できるわけではありません。世の中に絶対はありませんし、災害や攻撃は未然に防げても、人間が運用していればいつかは事故や過失が生じます。ですので、本当に倒壊したらどうなるか、またその時のための技術的な備えなどの考察を、次回に行うこととします。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

今回のまとめ
(1) OEVが倒壊する原因としては、天災、事故、破壊行為などが考えられる
(2) 考えられる天災や事故の多くは対処や回避が可能と思われる
(3) 破壊行為に対しては、政治的・物理的両面の対処が必要

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