ブルーベルだけど

君にはどうでもいいことばかりだね

秋から始まった物語 その25

2019-10-12 01:24:17 | 日記
今回は相当遡って (前回の作品よりは相当新しいけど) 1970年7月にリリースされた 由紀さおり の 〝手紙〟。  僕はまだ小学生でした。

因みに、僕が持っているのは CD ニューベストナウ。  フォトはアナログシングル盤のジャケットです。


透明感溢れ美しく色香を秘めたボーカル、(Am 調なら B♭ を入れることで) 回想を呼び覚ますコード進行。

憂いのあるピアノのアルペジオ、終始テンポを外すシンプルなベースと、同様にリズム怪しく妙に音量豊かで やや耳障りなチェンバロ (クラビネット? 黎明期のシンセサイザー? 12弦エレキ?) のオブリガードが印象的な曲です。

初めて聴いた瞬間から懐かしかったこの曲は、発売月が夏であるにも拘わらず、枯れ葉舞い散る秋の黄昏時のイメージとして認識されました。 


当時は他の家庭同様、ステレオ再生できるオーディオ機器などはなく、唯一あったのは LP レコードを置くと大きくはみ出す紅白ツートンカラーのモノラルポータブルプレーヤー。  しかも真空管!

そのポータブルプレーヤーが導入されるまでは 〝AM モノラル真空管ラジオの PHONO 入力にステレオレコードプレーヤーの Lch だけ接続したオーディオセット〟 が活躍。(ステレオで再生される Rch の楽音は新鮮そのもの(笑))

FM 放送も一般的ではなく、専ら AM の音楽番組を聴いていた僕は、引退しながらも捨てられずにいたそいつを、西の端に立っていた棟の2階に持ち込み、プリメインアンプとして流用していたラジオから流れる音楽を堪能していたのです。


その棟は元々、両親が新婚時代に利用していたもので、その後、若かりし日の叔父が夫婦で宿泊したこともありました。


周波数レンジや歪率に関する知識がない少年の僕は、「でかいスピーカーの方が音がいいだろう」 などと考え、内蔵スピーカーへのコードを切り、以前、有線 (通話料定額制の古式電話) に使用されていたマグネチックスピーカーに繋いだのです。


効率は良いが構造上、コーンが入力信号に対してリニアに動かないため、低音も高音もないカーカーコーコーとした音のマグネチックスピーカーも、ラジオの内蔵スピーカーよりふくよかなトーンで、小学生の僕が音楽を楽しむのには十分でした。

丁度その頃、音楽番組でよく流れていたのがこの曲。
口径に反する小さな後面解放キャビネットが共振して、ボーカルにエコーがかかったようなる現象も面白かったのでしょう。


一方、前年3月にリリースされた 〝夜明けのスキャット〟 は初夏のイメージ。
両曲は季節の違いだけではなく、こちらは 〝手紙〟 とは比べものにならないほど音もバランスも良い。

後年、由紀さおり本人が 「〝夜明けのスキャット〟 が変わった曲だったので、オーソドックスな 〝手紙〟 がヒットしてホッとした」 と話していたとか。


今では父も叔父もいなくなり、〝手紙〟 を聴いた別棟も老朽化で雨漏りが酷かったことから、2年前に傾いた土蔵と一緒に取り壊され駐車スペースに。



2階へと続く狭い階段、小さな廊下、ささやかな床の間、焦げ茶色の木製防犯柵が設けられた東面と南面の窓、そしてその窓から目にした景色 ・・・ そんな記憶も、それほど遠くないある日、建物同様 〝無〟 に帰すのだろう。

それでも僕の脳はこの曲を耳にした瞬間、全てを鮮明に蘇らせるのです。
僕が生きている限り ・・・ 。








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