ブルーベルだけど

君にはどうでもいいことばかりだね

遠い町を想う音

2021-01-23 01:46:48 | 日記
僕は海岸沿いの田舎町で育った。
就寝時には、遠くから響く船の汽笛を当たり前のように耳にしていた。



母の在所は有名な地方都市。 小学校低学年までの夏休みは毎年そこへ。
夜間や早朝には蒸気機関車の汽笛が轟いていた。

夏の日の夜、眩く煌めく大きな電光塔を背に皆で歩き、一際目立つ洋館建ての本宅へ。
掛け時計の振り子、雨戸の小さな節穴から差し込む朝日。 本当に懐かしい。



〝夜汽車〟という曲。
深夜を思わせる旋律、遠い街を想う歌詞、輪唱の声数が減り、増していく静けさ。

遠くに走る一列に並んだ客車の灯りを思い浮かべ、特別な気持ちで歌っていた。



中学入学と同時に父に買ってもらった AM/FM ラジオで 深夜放送にハマった。
オールナイトニッポンで流れる日本食堂 CM のバックには電車の警笛。

「旅のレストラン日本食堂」というコピーに、遙かな土地へ思いを馳せていた。



大学進学と同時に故郷を離れた。
今なお鮮明に蘇る、受験で親戚に前泊するため夜間に乗車した新幹線車内。

この情景は日本食堂の CM と一体化して、心から離れなくなった ・・・・・・



先日、NHK BS で久々に〝鉄道員(ぽっぽや)〟を観た。
何回か書いたけど僕は、過去と現在や未来が時空を超えて繋がった瞬間に弱い。

あの曲、あの人形、あの女の子、我が子と気付くシーン、雪のホームに倒れた姿 …

なぜか琴線に触れるのは、あの台詞以降のエンドロール。
「聞いて泣かされるうちは、ぽっぽやもまだまだ …」

オーケストラに続くエンディングのテーマ曲、 時折響く警笛。
ときに楽曲に対し7度の陰鬱な音を響かせる。

それは正に「聞いて泣かされる」音、涙が止まらなくなる音。



・・・・・・ 第一志望に合格すると母は、東京で病院を経営する伯父の言葉を借りて「人生で一時、中央(東京)に出ることは良いことだって言ってたよ」と笑顔で何度も何度も話してくれた。

そしていつからか、それは我が子が遠い町へ移り住み離れていく寂しさを振り払うため、自分自身に言い聞かせていた言葉だということが分かるようになった。

それでも母は一度も寂しそうな表情を見せなかったし、口にもしなかった。
恐らく「いずれ戻ってくる」と信じて。


若き日に講師として東京で暮らした母に寄せる祖母の思いも同じだったに違いない。
僕は東京で就職して、その後様々な街へ移り住むも、故郷へ戻り住むことはなかった。

長男が一人暮らしを始めた頃、モノレールに乗車していた僕に、母は「みんなそお」と、当時の気持ちを覚えたてのメールで、母自身の言葉で打ち明けてくれた。


父も同じ気持ちだったのかな?
いずれ天国で確認したい。




前しか見ていない若き日に耳にした汽笛、警笛は〝新世界への期待と希望〟。
後ろが見えるようになると、それは〝郷愁〟へと変わっていった。







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