A&B・ストルガツキイ 深見 弾訳(群像社)
《内容》
「願望機」
タルコフスキイ監督の映画『ストーカー』の共同脚本家として
名を連ねているストルガツキイ兄弟による、映画にならなかった
”もうひとつの『ストーカー』”
「スプーン五杯の霊薬」
二流作家のスニェギリョーフは向かいの部屋に住む三流詩人の
クルジュコーフが担架で担ぎ出されるところにでくわし、研究所
へ行ってあるものを貰ってきてほしいとたのまれる。その後
つぎつぎとスニェギリョーフの身の周りに奇妙なことが起こり
はじめる。シナリオ。
《この一文》
”「それが運命なのよ。それが人生というものね。それがわたしたちだわ。人生に辛いことがなかったら、こんなにすばらしくないかもしれないわね。きっともっと悪いわよ。だから、そういう幸せもないかもしれないし、希望もないかもしれない。そういうことね。ーーーーー」
ーー「願望機」より ”
私は映画版の『ストーカー』を観ていないので何とも言えませんが、
この映画にならなかったほうの「ストーカー」にはまた、原作とは
違った味わいがありました。
「あらゆる願いを叶えてくれるものがあったら、どうするか?」という
テーマは原作と同様ですが、脚本ではこのテーマだけを中心に
取り上げているので、かなり話が分かりやすいです。
これを読んでみると、『ストーカー』を読んで私が思ったことは、
そんなに原作者の考えていたことから離れてはいないらしいことを
確認できました。珍しく。
いや、原作がそもそも兄弟の作品にしては分かりやすいのかもしれませんが。
人類が今の状態のままではたとえ誰かが人類の平和を心から望んだつもりでも、
それを本当に心の底から望んでいるとは言い切れない。
人間はその本質においては全然別のことを望んでいて、それが叶えられたところで
自分の浅ましさに絶望することだってあり得る。
そんな恐ろしくて悲しいお話です。
でも作者は結局「願望機」を壊してしまったりはしません。
そこにまだ希望を残しているのでした。
「スプーン五杯の霊薬」は、『モスクワ妄想倶楽部』の最初のほう
(私は途中まで読んでそのままです)に似ています。
人間が不死を得られるとしたら、どうするか?
色々な面白い人物が登場して、物語はなかなかユーモラスに展開します。
個人的にはパーヴェル・パーヴロヴィチがお気に入りです。
なんとなくブルガーコフの
『巨匠とマルガリータ』を思い出します。
食いしん坊なところはベゲモートっぽいし。
レストランで働いているところは、アルチバリド・アルチバリドヴィチを
思い起こさせます。
『モスクワ妄想倶楽部』ではもっと『巨匠とマルガリータ』的なところが
あるらしいので、はやく読まなくてはなりません。
その前に、もう一度『巨匠とマルガリータ』を読みたくなりました。
あー、でもあとがつかえている・・・。
急がなくては、急がなくては!