半透明記録

もやもや日記

『ラーオ博士のサーカス』

2008年08月25日 | 読書日記ー英米

C.G.フィニー 中西秀男訳(ちくま文庫)


《内容》
世界にこれほど風変りな小説はあるだろうか。ある訳者はいう、「この小説は滑稽で、ときにわいせつで、読者をかつぐようなところもあるが、要するに、われわれは想像力不足のため人生の現実と人類の過去とを知らずに生きているという事実へのコメントなのだ………」。蛇の髪のメデューサ、火を吹くキマイラ、両性具有のスフィンクスといった怪物とともにくりひろげられる、得体の知れない人物ラーオ博士のサーカス。毒性強烈なユーモアと暴力的な詩情を秘めて、読者をひき込まずにはおかないファンタジーの名作。


《この一文》
エティーオイン――だが君は檻の中だが、ぼくは自由に歩きまわれる。
 ウミヘビ――いいや、君もやはり檻の中にいるんだ。ときどき檻の金網をためしているじゃないか、ぼくみたいに。
 エティーオイン――君のいうこと、うすうすわかる気がするな。 ”



12年くらいまえ、私がまだ田舎に住んでいた頃からずっと読みたいと思いつつも本を買わず、そうこうするうちに絶版となり、古書店でも見かけないまま、気が付けばずいぶんと月日が流れてしまいましたが、このあいだようやく古書を入手し読むことができました。

読みたがっていたわりに、私はこの作品や作者についてなにも調べたりしなかったので、本を開いてみて作者がアメリカ人と知って驚きました。なんとなくヨーロッパの人だと思っていたのですけれども……なんとなく。ついでに、タイトルにもある「ラーオ博士」という人物もヨーロッパ系(東欧あたり?)と思い込んでいましたが、中国人でした。あー、なるほど。もしかしたら「老博士」ということでしょうか。ほんと間抜けだわ、私って。

というわけで、長い年月を経てようやく誤解が解けたわけですが、読んでみるとまずまず面白かったです。上に引用した出版社による内容紹介は、いささか大げさにも感じますが、たしかに奇想天外、グロテスクなファンタジーであることには違いありません。そして、ヨーロッパ怪奇小説のようにねっとりじっとりとは全然していなくて、アメリカらしくからっとさっぱりとした味わいです。そのあたりが私にはもうひとつもの足りませんでしたが、しかし十分に面白かったとは思います。


キマイラやウミヘビ、絶世の美女メディーサ、黄金のロバ。サーカスには伝説的な奇妙な生き物が集められ、そのひとつひとつに対してラーオ博士は観客たちに説明してゆくのでした。
このそれぞれの細かいエピソードが結構面白い。私は特に、ウミヘビと新聞社の校正員エティーオインとの対話の部分が面白かったです。なんというか、はっとさせられます。ウミヘビの話しっぷりにも愛嬌があってとても可愛い。ここの部分はすごく面白かった。
人魚のエピソードも良かったです。ウミヘビの部分とうまく繋げてあって感心しました。

全体的にもうちょっと分量があればもっと良かった、と私には思えましたが、本編のあとには「カタログ」というのが付属していて、作品中に登場する人物から動物から物からすべてについて「注釈」が付けられています。これを読むだけでも面白いかもしれません。

 “ イカ=思春期のタコ ”

とかって、もう訳が分かりません。こういうのはとても好きです。これだけでも笑える。


という訳で、あー、とりあえずようやく読めてほんとうに良かった。




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