半透明記録

もやもや日記

『短篇小説日和 英国異色傑作選』

2014年01月27日 | 読書日記ー英米

西崎憲 編訳(ちくま文庫)



《内容》
短篇小説はこんなに面白い! 十八世紀半ば~二十世紀半ばの英国短篇小説のなかから、とびきりの作品ばかりを選りすぐった一冊。ディケンズやグレアム・グリーンなど大作家の作品から、砂に埋もれた宝石のようにひっそりと輝くマイナー作家の小品までを収める。空想、幻想、恐怖、機知、皮肉、ユーモア、感傷など、英国らしさ満載の新たな世界が見えてくる。巻末に英国短篇小説論考を収録。

《収録作品》
 「後に残してきた少女」 ミュリエル・スパーク
 「ミセス・ヴォードレーの旅行」 マーティン・アームストロング
 「羊歯」 W・F・ハーヴィー
 「パール・ボタンはどんなふうにさらわれたか」 キャサリン・マンスフィールド
 「決して」 H・E・ベイツ
 「八人の見えない日本人」 グレアム・グリーン
 「豚の島の女王」 ジェラルド・カーシュ

 「看板描きと水晶の魚」 マージョリー・ボウエン
 「ピム氏と聖なるパン」 T・F・ポウイス
 「羊飼いとその恋人」 エリザベス・グージ
 「聖エウダイモンとオレンジの樹」 ヴァーノン・リー
 「小さな吹雪の国の冒険」 F・アンスティー
 「コティヨン」 L・P・ハートリー

 「告知」 ニュージェント・パーカー
 「写真」 ナイジェル・ニール
 「殺人大将」 チャールズ・ディケンズ
 「ユグナンの妻」 M・P・シール
 「花よりもはかなく」 ロバート・エイクマン
 「河の音」 ジーン・リース
 「輝く大地」 アンナ・カヴァン


《この一文》
“連れの男の言葉をすべて聞き取ることはできなかった。なぜなら一番年長らしい日本人が笑みを浮かべてお辞儀をし、テーブルの上に身を乗りだしたまま、鳥小屋のざわめきを連想させる声で喋りはじめたからだった。その人物が話すあいだ、ほかの日本人たちもみんなそちらに身を乗りだし、やはり笑みを浮かべて静かに耳を傾けていた。わたしもまたそちらに注意を惹かれずにはいられなかった。”
   グレアム・グリーン「八人の見えない日本人」より





グレアム・グリーンの「八人の見えない日本人」を読みたくて借りてきた本です。実際に読んだのは去年の12月。あまりに面白かったのでもう一度借りてきました(いずれ買います…)。この文庫は『英国短篇小説の愉しみ』という全3巻の単行本から評価の高かった17作品を抜粋・改稿したものに新訳3篇を加えて一巻にまとめたものだそうで、なるほどどのお話もとても面白かったです。

当初の目的の「八人の見えない日本人」は、面白かったのですが、「なぜ八人の日本人は見えないのか?」、また「彼らが見えないということが意味するのは何か?」ということについて説明しようとすると混乱の極みに陥ってしまいます。まあ、見えないんですよ。隣のテーブルに確かにいるんだけど、登場人物のひとりである女の子の目には見えないんです。つまり、どういうことなんですかね!? 深く考えるのは疲れるのでやめましたが、興味深い作品には違いありません。面白かった。

他には、ジェラルド・カーシュの「豚の島の女王」は何度読んでも面白い。「ピム氏と聖なるパン」は良い雰囲気。「小さな吹雪の国の冒険」も良かった。「告知」の結末はグサッと、かなりグサッときます。人生は悲しい。人間は悲しい。「写真」も悲しいお話。かわいそうな息子ものは堪える。「花よりもはかなく」は洒落ていて皮肉な物語でしたが、どことなく「わかるなー」といった内容。あるある、そういうことってあるよな。

「羊歯」と「羊飼いとその恋人」はどちらもリタイアしてからの人生についての物語でしたが、明暗はくっきりと分かれて対になっているようなお話でした。「羊歯」のほうでは万端の準備を整えていたにもかかわらずすべてが台無しに、「羊飼いとその恋人」ではあれこれ迷った末にそれまでの人生とこれからの人生を肯定できます。私はもちろん「羊飼いとその恋人」のほうを気に入りました。

エリザベス・グージの「羊飼いとその恋人」。私はおそらくこのグージという人の作品は初めて読みますが、すごく素敵なお話でした。結末が鮮やかです。
主人公のミス・エイダ・ギレスビーは55歳、男兄弟ばかりの大家族の一人娘として生まれ、両親や兄弟、そのうちには兄弟の子供たちの面倒を休みなく見続け、ようやくそれから解放された今は健康とちょっとした財産に恵まれて自由を謳歌できる身の上になった。そういうわけで彼女は思いつくままに好きなことをやってみようとするのだが、旅行も、観劇も、読書も、彼女の心を満たすものではなかった。がっかりする彼女はある時、普段なら決して入ることのない薄汚れた骨董店で「羊飼いとその恋人」の置物を見つけ、どうしてもそれが欲しくなって、つい買ってしまうのだが…というお話。
人生というのは、端から見ると不自由で束縛されているようにしかみえなくても、もしそれが自分の性に合っていて、それをわざわざ自分で選んでやるとすれば、豊かで輝かしく確かなものになりうるだろうという、もう清々しいとしか言えない物語でした。なんて爽やかなんだろう。感動しました。



どの作品も長過ぎず、ちょっとした隙間の時間に読むには最適な分量です。内容もバラエティに富んでいて楽しい。何度も言うようですが、アンソロジーっていいですね! 同じくちくま文庫から、同じく西崎さん編訳の『怪奇小説日和』というのも出ているようなので、そちらも読んでみたいところです。







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