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レオ・ペルッツ 前川道介訳 (世界幻想文学大系37 国書刊行会)
《あらすじ》
新世界制覇の野望に燃えるコルテス。
この国家権力そのもののような男をたおすべく
悪魔と契約して手に入れた三発の銃弾は、
次々に意外な結果を生んでゆく。―――
世紀末ウィーン話題の長篇。
《この一文》
”「神の呪いを受けるがいい。それはお前に苛立ちと惨苦をもたらすだろう。一発目がお前の異教の国王に命中するように、二発目が地獄の女に、そして三発目が――」
(中略)
吊るされた男の喉から笛を吹くような、窒息しかかった呻き声が、
「それから、第―――三発目は―――お前―――自身に」と言ったのだった。 ”
痛い!
突き刺さるようなクライマックス。こんなに痛いのは物語が怒濤のごとく展開したためでしょう。特に後半の疾走感は異常です。あまりの動悸の激しさに、本を持つ手が震えたではないですか。
それにしても、こんなにザックリくるとは思いませんでした。まだ痛い。
さて、衝動買いしたレオ・ペルッツの『第三の魔弾』を読みました。
感想を一言で申しますならば、
たいへんに面白かった!!
そして、悪魔よりも恐ろしいのもの、それは人間かもしれぬ!
ということでしょうか(一言じゃない…)。とにかく勢いがあります。そして幻想的。さらには間が抜けているようでいて、どこまでも残虐で、恐怖に満ち、破滅的でした。この作者のことは名前さえ知りませんでしたが、まったくもって、私好みではないですか! やったー、大当たりです。
かつては《暴れ伯》と呼ばれ権勢を誇っていたグリムバッハは、母国ドイツを追われる。難破した彼は新大陸のインディオの王に助けられ、畑を耕やすのどかな生活を送っていたが―――そこへスペイン兵が新大陸制覇を掲げて乗り込んでくる。その一団を率いるのは、スペイン国王に忠誠を誓うコルテス。そして、グリムバッハの異母兄弟でもある美貌のメンドーサ公の姿もあった。
グリムバッハは、新大陸を救うため、また仲間の敵を討つために悪魔と契約を交わし三発の弾丸を手に入れる。
物語は、緊密によく練り上げられた構成を持ち、またそこへ無数の伏線が張り巡らされています。伏線はどれも、「あー、これはきっとこうなるな」と予想がつくのですが、予想できても面白いです。むしろ、その通りに展開して(その展開のしかたが圧倒的スピード感でもって)ゆくのが、気持ちがいいです。辻褄が合わされていくのですっきりします。
それでいて、もっとも肝心な予想は、当たらなかった!! というところが最高でした。おかげで非常に痛かったです。まさかそうなるとは。
というわけで、あー、面白かった。
私は特に、悪魔の登場シーンが気に入りました。
なんて間が抜けているんでしょう。最高に面白かったです。
こんな人が、今ではすっかり忘れ去られた作家となっている(戦争があったり、ユダヤ人であったり、さまざまな事情のもとで不当にしかしさっぱりと忘れられていったそうです)というのは、まったくもってやり切れない話ですね。
しかし私は、この人の他の作品も読んでみようと思います。とりあえず『最後の審判の巨匠』は、近所の図書館に置いてあるのをチェック済みですが、『悪魔(アンチ・クリスト)の誕生』とか『レオナルドのユダ』なども読んでみたいです(邦訳があるのかどうか分かりませんが)。
これ以上忘れられてしまうことがありませんように。