半透明記録

もやもや日記

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金色の夢と香り

2006年10月03日 | ヒャクボルコと行く
(秋。金色の光。白いあずまや。薔薇。林檎。)


ヒャクボルコ:(目を閉じたまま、つぶやく)
        ………。
        遅いわ…。どうしたのかしら? もうずっとこうして
       待っているのに。

        ちょっと起き上がって、あちらを見渡してみようかしら。
       いいえ、だめね。じっとしていなければ…。

        そう。それに、わたしの喉には林檎のかけらがつまって
       いて苦しいの。ほんとうに苦しいわ。はやく王子さまが来
       てくれないと、たいへんだわ。

        どうしたのかしら? 遅いわね……。


(ヒャクボルコをみつめる二人の人物。)

かえる: ちょっと、この人ったら一体どうしたのかしらね?
    白い箱になんか入っちゃって、お葬式ごっこかしら? 
    あんた、なにか聞いてる? なんの遊びなの?

オネコタン: さあ?

かえる: 全然動かないけど、なんだか面白そうではあるわね。
    それに、ここ、なんだか良い香り。
    あ、あんなでっかい林檎があるわよ!
    (林檎に近寄る)
    ちょっと、見てよ! 一口かじったあとがあるわ!
    いやねえ、この人、食いかけたままで寝てるわよ。
    だらしがないわさ。

オネコタン: わけがわからんな。
       しかし、ヒャクボルコはいつもよりずいぶんと
      青ざめているな。真っ青だぞ。大丈夫だろうか。

かえる: そりゃ、心配ないでしょう。なにせこの人は……。
     それにしても良い香り。
     林檎と、それに薔薇の香りだわね。

オネコタン: ああ、ふたつは親戚だからな。
       黄金の花と果実だ。

かえる: なんの夢を見てるのかしらね。暇だわ。




(ふたたびヒャクボルコ。ついに目を開ける)

ヒャクボルコ:(起き上がり、箱に片足を乗せる)
        来なかったわ…。
        ええ、わかってはいたの。あれはただの物語。
       それにわたしはお姫さまでもないし。それでも

        林檎を喉につまらせて、箱の中に寝てました。
        王子さまの口づけでよみがえるのを夢見て。

        それでわかったの。
       あのお姫さまは最初から王子が来るのを知ってて
       林檎をかじったんだわ。毒がまわらないように、
       かけらは喉のところで止めておいて……。
        すごい執念だわ。だって死にそうに苦しいもの。

        そしてわかったの。
       わたしは最初から王子を待ってはいないことが。
       わたしは、ただ、林檎が食べたかっただけ。
       わたしは、ただ、林檎の夢を見たかっただけ。
       わたしが、待っているのは、ほんとうは……。

        それに、毒のない林檎のかけらなら
        もうとっくに飲み込んでしまったわ。

       (箱から飛び出す)
        さ、残りを食べましょう!
        あら、かえるとオネコタンもいたの?
        ご一緒にいかが?

かえる・オネコタン: やあ、喜んで!


(薔薇の音楽。林檎をかつぎあげ、三人はぐるぐるまわる)


  さあ今のうち うつくしい秋
  のこりはみんな たべておこう

  ゆめをみる ゆめをみた
  もうなんだか わからない