半透明記録

もやもや日記

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『冥途』

2005年04月15日 | 読書日記ー日本
内田百間 (福武文庫)



《あらすじ》

からだが牛で顔丈人間の浅間しい化物<件>。
生まれて三日にして死に、その間に人間の言
葉で、未来の凶福を予言する。その<件>に
生まれ変った私の根源的な孤独と不安を描く
「件」ほか、鮮明、不可解な夢幻的世界を稀
有の文章で描いて、漱石の『夢十夜』に勝ると
も劣らない不朽の短篇小説集!



《この一文》

” 黄色い大きな月が向うに懸かっている。色計りで光がない。夜かと思うとそうでもないらしい。後の空には蒼白い光が流れている。日がくれたのか、夜が明けるのか解らない。黄色い月の面を蜻蛉が一匹浮く様に飛んだ。黒い影が月の面から消えたら、蜻蛉はどこへ行ったのか見えなくなってしまった。私は見果てもない広い原の真中に立っている。躯がびっしょりぬれて、尻尾の先からぽたぽたと雫が垂れている。件の話は子供の折に聞いた事はあるけれども、自分がその件になろうとは思いもよらなかった。からだが牛で顔丈人間の浅間しい化物に生まれて、こんな所にぼんやり立っている。
          ーーー「件」より ”




少し落ち着きたい時には、内田百間が効きます。
私はこの人の文章の最初から最後まで、ひと文字残らずを、全て愛します。
ほとんど崇拝しているといえるほどです。
何という完璧さ。
日本語はここまで美しくなり得るものなのか、驚くべきことです。

物語はどこまでも静かで、淡々と始まって、終わります。
そして、色の描写がとても美しい。
幾本もの赤い幟(のぼり)が黒雲の流れる空に立ち並んでいたり、黒い土が濡れていたり、海の上の空が紅色に焼けたりします。
何度読んでも、しびれます。
もちろん、文章の美しさだけではなく、物語も奇妙で面白いのでした。
「件」のオチはなんだか笑えます。
追っかけられたり、首を絞められたりと、怖い展開が多いのですが、不思議とあまり怖くならないのはどうしてなのでしょう。