ちょい不良ゴーシュの豪酒録

何年やってもビギナーチェリストの日記

アリス=沙良・オット@TOSHIBA Grand Concert 2010

2010年03月02日 20時19分00秒 | 演奏会
石川県立音楽堂で昨日(3月1日)行なわれたTOSHIBA Grand Concert 2010へ行ってきました.

このGrand Concertは,毎年この時期に海外の一流オーケストラを日本に招き,日本国内で演奏Tourをするもの.
今年は,広島,福岡,名古屋,仙台,神戸,金沢,川崎,東京の8都市で演奏会が開かれた.

今回招かれた海外オケは,フィンランドのサカリ・オラモさん指揮のロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団.
このオーケストラは,北欧のスウェーデンを代表するオケで,ノーベル賞受賞式で演奏することでも有名.
ノーベル賞授賞式には縁がないので,せめてこういう機会にロイヤルなサウンドを体験しなくちゃ?

それと何と言っても,この演奏会のお目当ては,アリス=沙良・オットさんのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番.
これを生演奏で体験したかったのが足を運んだ一番の理由.
今年の始めに「情熱大陸」で彼女のドキュメントを見てから,お気に入りになった.
アリス=沙良・オットさんは,これまでに何度か金沢で演奏していたけれど,やっと本物を聴けるチャンスに恵まれた.

プログラムの1曲目は,シベリウスの「エン・サガ」.
作曲家のシベリウスも指揮者のオラモさんもフィンランド出身.
九州で豚骨ラーメン,札幌で味噌ラーメン,富山でブラック・ラーメンと同じような本場の組み合わせ?
(↑やっぱりラーメンかい!)
このGrand Concertの前日(2月28日)に,小松フィルの定期演奏会があって,そこでシベリウスの交響曲第2番を弾いた.
うねるようなシベ2の余韻が体の中に残っている状態で,同じ作曲家の曲を聴く.
最初の音が出た.
我々のシベリウスを全然違う.(←当たり前だろ!)
夜明け前の深い森の奥で北欧の妖精がヒソヒソとささやきあうように,曲は弱音で始まった.
この音を聴いた途端,圧倒される.
弱音で打ちのめされた.
うっ,うまい.
弦楽器の音が全然違う.
しっかり芯があって妖艶.
そして透明.
この曲,知らなかったけれど,かなり素朴で民族的.
北欧の神秘的な響きが心地よかった.

こんな素敵な音のオケで,プログラム2曲目のチャイ・コンが始まる.
真っ赤なドレスに身を包んだアリスさんが登場.
お人形さんみたい.
第1楽章の冒頭のオケのtuttiが豊かで,なまめかしい.
成熟した大人のオケって感じ.
アリスさんのピアノも負けていない.
力強く図太い音でガンガン鳴らしている.
こういうところは,やっぱりドイツ人っぽいかも?
第2楽章になると,ピアノの音が突然変わる.
癒しと無邪気.
包み込むような柔らかさと,コロコロと転がる宝石のような音の対比.
光と影のピアニストの本領発揮.
繊細な感覚の対比は,何かと細かいことが器用な日本人っぽいかも?
音と戯れるような感じが,かわいらしい.
第3楽章はオラモさんの冷静で理性的なコントロールが見事.
無駄に走りまわることなく,終始落ち着いて細部まで乱れることなくオケとピアノを合わせる.
じわじわとクライマックスへ近づき,最後の一撃でホールの聴衆を魅了するテクニックは,計算づくめの人工的な感じもしたけれど,でも背筋がゾクゾクしたのは事実.
ぶらぶぉぉぉ~!

鳴り止まぬ拍手に応えて,アリスさんはショパンの遺作のワルツをアンコールに弾いた.
やっぱり,「光と影のピアニスト」と言われるだけのことはある.
じ~んときました.

最後にドボルザークの新世界.
ビオラのトップ奏者と2ndのトップサイドの女性奏者のアクションが凄い.
ロマンスグレーの長髪なびかせるチェロのオジサンもかっこいい.
このチェリストの方が,よっぽど「ちょい不良」チェリストという風貌.
(もちろん,音もいい.)
ベースはみんなフレンチ・スタイルのボーイングで何となくキザ.
第2楽章の冒頭で,トランペットのおじさんがちょいとコケた.
すると,コンマスが金管セクションをジロリと鋭い目つきでにらむ.
ふぉ~,やっぱりプロのコンマスは,指揮者より怖いって本当かも?
乱れることなく整然としたフィナーレは,やっぱり理知的なオラモさんの腕の凄さ.
コンサートに行く前は,何で新世界みたいな俗っぽい曲やるの?と思っていた.
でも,こういう素敵な音のオケで新世界を聴くと,この曲もまんざら捨てたもんじゃないなと再認識.

アンコールにドボルザークのスラブ舞曲から第8番.
冷静だったオラモさん別人に変身した.
ど迫力の盛り上がり.
そして,もう1曲アンコールのサービス.
Japanese musicと言って演奏したのが,滝廉太郎作曲の「花」.
こういう曲をアンコールに演奏してくれる心使いがうれしい.

2時間半におよぶボリュームもクオリティーも高い演奏会でした.