5・コピペミス、って
生きる機械である彼の駆動手順をアルゴリズム化したものが、ゲノムだ。
要は、生きていく上においてするべき作業の指示書と言える。
彼のゲノムは、彼の生命機械(肉体)に指図する。
それに従い、彼は活動する。
意識をまだ持たない彼は、ソフトに動かされるハードウェア・・・つまりロボットのようなものなんだ。
ゲノムの命令は、次のようなものだ。
「外界から物質を探し出し、獲得せよ」
すると、彼が体表面にめぐらせたイオンチャネルとエンドサイトーシスの機構が反応し、触れるものの中から求める素材を選別して体内に取り込む。
「肉体の部品を構成せよ」
すると、RNAの塩基配列の特定箇所が起動し、リボソームなどの内器官を総動員してアミノ酸からタンパク質を編み上げる。
「故障箇所を修繕せよ」
すると、新しいパーツが古いものに取って替わり、いわゆる新陳代謝が行われる。
「自分をコピーせよ」
すると、RNAの全らせんがそっくりコピペされ(核はまだないのだ)、ゲノムの原文から分身したプリントがもう一体のボディを構築した上で、別の系として独立する。
単細胞分裂、だ。
そして、ここがとてつもなく重要な点なのだが、本体のゲノムの情報は別系統へと、そのまま完璧にコピーされるわけじゃない。
ところどころにエラーが・・・つまり、原文とは別の指示書きが紛れ込む。
塩基配列・・・すなわち、彼の機能は、コピーがくり返されるごとに、ほんの少しずつ上書きされていく。
こうして、図らずもダーウィン進化が発生する。
つづく
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園