25・前駆体に操縦者を乗っける、って
染色体分割という強力な起動力を持たない初期の彼(まだ前駆体)の分裂は、頼りなく、不安定で、散発的で、「ちぎっては投げ・・・」式ならぬ、「ちぎれては捨て置かれ・・・」方式だったと思われる。
それでも、チムニー内には着実に彼のコピーが増えていった。
おびただしい彼のコピーが鋳込まれるうちに、コピーミスが発生する。
それは、定められた塩基配列にはさまったささいなバグのようなものだけど、これが積み重なると、徐々に初期設定と乖離して、別ものになっていくんだ。
細胞核なしのRNAは、ほとんど環境にオープンな状態なので、ヌクレオチドの端っこに新しいパートがくっついたり、あるいはところどころが剥離したり、またつながったりして、まったく新しい書き換えが起こったりもしよう。
初歩的なダーウィン進化だ。
それが何億年間もつづくんだから、軌跡のような配列の実現も可能だ。
ある日、塩基の並びが、たまたま任意のアミノ酸を意味する「コドン」という言語単位になり、特定されたアミノ酸に結びつく。
物質は、頭脳で理解はしないが、分子の形状によって「それが何物であるか」を完全に見極める。
「このアミノ酸を集めよ」という指令は、「この形状にぴたりとフィットするようにジョイントせよ」と言い換えられる。
こうして、カオスだったゲノム配列は、ゆっくりとゆっくりと、何事かができるように整いはじめる。
その何事かとは、自分を能動的につくり上げるという、生命にとって根源的な作業だ。
チムニーから放出される物質の流れから自動的かつ偶然に与えられてきたものを、今度は自分で選り分け、あるいは素材からつくり出そうというんだ。
最後のステージを上がるために、彼史上最大の創発が開始された。
つづく
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
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