裏日記「B面」

工房しはんが日々、ふと感じたり、しみじみとふけったり、ぴんとひらめいたり、つくづくと考えたりしてること。

世界のつくり/意識編・11

2024年04月15日 07時59分23秒 | 世界のつくり

11・人類に至る系、って

進化による変異によって「なに」を実装するのか?よりも重要なのが、「なぜ」「どう」使うのか?の部分だ。
それが、彼の意識獲得への第一歩となる。
「なに」はたまたま発現するものだけど、「なぜ」「どう」は主体性の問題だからだ。
彼がそこに至るまでには、はるか遠い道のりが待ち受ける。
形質(肉体や性質や機能全般)に直接的な影響を与える塩基の置き換えは完全にランダムで、その変異にはなんの意図も介在し得ない。
彼に意識はないんだ。
彼はなにも欲しがらないし、なにを必要とも考えないが、ただなにかがたまたま与えられる。
彼は、そんな与えられた装備の意味を考えることもなく、ただ自律式の駆動力で活用しつづける。
矛や盾をたまたま手にしても、どう使おうなどとは考えない。
ゲノムが命じるのは「死なないようにしろ」というものなので、得たものを使ってなるべく死なないようにはしたい。
そうしてなにが有用かわからないで無意思に立居振る舞ううちに、形質はいよいよ枝分かれして分散し、生態系は混乱を極めるが、おかげで進化は多面的に展開する。
そんな日常で、最先端をいく彼は、ついに意識の取っ掛かりのような機能を・・・かそけき直観のようなものを、不意に得ることになった。
それは、ゲノムの最当初の命令である「死ぬな」の部分を拡張させたものだった。
彼はふと、「傷つくとなんだかいやだ」という感じを覚えたんだ。
それはある種、決定的に大切なやつだ。
この感じは、「死ぬな」という内なる声に完全に整合的だからだ。
これまでは、傷つけば終わりだった。
彼のご先祖さまたちは、傷ついた結果、命を手放すしかなかった。
なんとなく、わけもわからず、終わりだったんだ。
だけど、傷つくといやな感じになるのなら、傷つくことを恐れるようになり、なるべく傷つかないようにしようという注意が働く。
彼にはまだ感覚器がないので、それは「痛み」じゃなく、ただのダウン系の化学物質の放出だ。
さらに彼は、「自分を増やすとなんだかいい」という感じも覚えた。
分裂して子孫を増やすたびに、彼の中に報酬系の化学物質が放出され、「やったぜ!」的なやつが自分の中に満ちる。
こうして彼は、死なないように気をつけるようになり、子孫を残す行為に意味を見出すようになり、それが駆動力となって、種の存続に精を出すようになった。
この系は、意識獲得の取っ掛かりという点で、人類につながる直系になりそうだ。

つづく

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世界のつくり/意識編・10

2024年04月12日 16時14分41秒 | 世界のつくり

10・大気の循環、って

さて、二酸化炭素を取り込んで酸素を吐き出す光合成系が、すでにこの世界に出現してたんだった。
さらに、そこから特筆すべき進化が起きた。
この単細胞生物である系を別の系が・・・つまり光合成を覚えた個体を別の個体が、丸ごと飲み込んだんだ。
通常なら、飲み込まれた個体は消化され、アミノ酸にまで解体され、飲み込んだ系のエネルギーになるなり、また別のタンパク質に編み込まれるなりするはずだった。
ところが、この飲み込まれた光合成系は、飲み込んだ個体(これもまた「彼」だ)の中で生きつづけることができたんだ。
彼の系にそっくりそのままの姿で「組み込まれた」光合成系は、彼のためにせっせとエネルギーをつくる。
彼は、内部の光合成系のために日光と水と二酸化炭素を取り込んでやり、それを供給された光合成系は炭水化物をつくって彼に還元し(言葉通りだ)、余剰分の酸素を放出する。
こうして、植物の系が誕生した。
また、これらの系内系の働き・・・つまり呼吸によって酸素が大気に満ちると、今度はその新素材を利用しようという系が出現する。
酸素は爆発的な燃焼エネルギーをポテンシャルとして内蔵してるので、これを使わない手はない。
こうして、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す「ミトコンドリア系」が出現した。
しかも、またこの系を取り込む系が現れたんだ。
ミトコンドリア系をそっくり飲み込んで体内で飼い慣らし、酸素を与えて前述のATPエネルギーをつくらせては、それを頂戴して活力とするわけだ。
この酸化作用のおつりとして排出するのは、二酸化炭素だ。
二酸化炭素を吸って酸素を吐く系へのカウンターバランスを担うかのように、酸素を吸って二酸化炭素を吐く系が生じた。
後に動物に至るこの系の出現により、地球上の大気の組成は世にも美しい形で循環することになった。

つづく

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世界のつくり/意識編・9

2024年04月09日 12時51分48秒 | 世界のつくり

9・食物連鎖って

彼が最当初にゲノムから命じられたのは、ほんのわずかなことだった。
「死なないこと」と「増えること」、あとは「自分のことは自分でやること」・・・くらいのものか。
そこからはじまって、彼が無意識※1に数億年を過ごすうちに、内蔵するゲノムは大きく変容していった。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、コピーエラーによる塩基の置き換えが生じ、余分がつながって伸長し、次第に絡まり合い・・・いつからか単らせんは二重らせん構造になり、要するに例のアレになった。
気づけば※2、ゲノム本体であったはずのRNAは、次世代ゲノムとして勃興したDNAの使いっ走りとなってた。
長大なDNAの塩基配列の中には、膨大な無駄な情報が混じるようになったものの、中には有効な情報の置き換えがあり、環境変化と生存競争の中で実用性のある形質変異を遂げることになった個体は、淘汰の中で生き延びる確率を高めた。
こうした成果から、選り抜かれたゲノムは更新をつづけ、種全体の進化を高等化させつづける一方で、意味のない形質変異を強いられた個体は駆逐されていった。
新たに出現する実用性は多方面にわたり、各個体は独自に能力を多様、多角にアップデイトさせていく。
あちらが長くなれば、こちらは太くなり、そちらは硬くなって、どちらがより強い?という具合いだ。
種の進化は戦略的な多彩さを帯びて、生態系は複雑さを極めていく。
こんな軍備拡張比べの結果、必然的にゲノムは次のような命令を発することになる。
「あいつを体内に取り込んでしまえ」と。
それを受け、別の個体のゲノムは命ずる。
「飲み込まれないように防御しろ」と。
あるものは矛を実装し、対してあるものは盾を身につけた。
食うか、食われるか。
弱肉強食の食物連鎖がはじまった。
そんな淘汰圧のストレスは、さらに種に進化を促す。
リアルな実戦において、変異を有効に活用できたものだけが生き残れる、シリアスな世が到来した。

つづく

※1 彼は自律式で動くものの、意識はない。彼はまだ、機械なのだ。
※2 彼は気づけないので、気づいたのは後の世の学会だ。

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世界のつくり/意識編・8

2024年03月29日 10時46分19秒 | 世界のつくり

8・光合成、って

遺伝子の変異・・・すなわち進化は、必要いかんに関係なく、また計画も方針もなく、タイミングもお構いなく、空気を読むこともなければ、なにより突拍子もない。
あらゆる状況下で、あらゆる変異が起き得る。
その中で、当たりくじを引いたようにたまたま時代と環境にフィットした機能を獲得するものが現れる。
彼はそのアドバンテージを利用して生き抜くことができ、さらには出現した形質を後の代に継承することで、ある意味、ひとり勝ちをおさめていく。
有効な進化をしたもののみが、自分の遺伝子を後世にまで残し得、種を繁栄させることができるんだ。
個体同士での生存競争が、すでにはじまってる。
チムニーのひもじい環境で過ごした彼は、試行錯誤の末に(つまり塩基配列がいろんな並び替えをするうちに)、得体の知れない金属を取り込み、電子を取り出して心細いエネルギーに変換した上で、廃棄物をメタンの形にまとめて排出するという進化をした。※1
その金属は、地球上のあらゆる場所にあるわけじゃないので、彼はもっと別のエネルギー生成メカニズムを探る必要がある。
硫化物による化学反応を使い、鉄による酸化還元反応を使い、あれを使い、これを使い・・・彼の遺伝子はあらゆる実験を重ねていく。
そうするうちに、生態系全体の海洋への浸透は、ついに海岸線の浅瀬にまでたどり着いた。
ここには、今まで見たこともなかった陽光が降りそそぐため、熱エネルギーに光エネルギー、なんてものまで豊富にある。
そこでふと(不図)彼は、光子を取り込むことで分子を励起させ、エネルギーの高い状態をつくり出す、という発明をした・・・いやいや、たまたまそんな変異を起こした。
海中に豊富に存在する二酸化炭素を用いて体内で活発化させ、エネルギー化しては酸素を生成し排出するという「光合成システム」を可能にした彼は、ついに地球の大気の組成を変えはじめた。
これまで地上に単体で存在しなかった酸素は、実はとてつもない燃焼作用というポテンシャルを秘めた爆発物なんだ。
そこから取り出せるエネルギーは、これまでとはケタ違いだ。
なんだか生命たちの営みに、劇的な飛躍が予感されるではないか。

つづく

※1 前駆体からの進化・・・というよりは深化によって、彼は生命体となった。なので正確には、「彼はダーウィン進化を開始する生命のスタートモデルにたどり着いた」と表現すべきかもしれない。

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世界のつくり/意識編・7

2024年03月28日 09時13分41秒 | 世界のつくり

7・自然淘汰、って

外洋に出ていく際に、彼は温度変化に適応できるタイプのものをごく少数だけ生み出した。
その変異は、いろんなコピーミスを犯すうちにたまたま起きたもののひとつだ。
だけど、他のほとんどのものは温度変化には適応できないままだった(というか、関係のない別の変異をした)。
そこに、これまたたまたま冷水の環境が目の前に迫った。
冷水適応タイプと不適応タイプのどちらもそこに飛び込んだけど、おびただしい数がいたはずの後者は子孫を残せず、前者は着々と増殖することができた。
こうしてハイブリッド種※1だけが生き残って繁栄し、他者は絶滅する。
これが、適者生存による自然淘汰のメカニズムだ。
塩基配列のバグによるダーウィン進化は無作為で全方向、と書いた。
彼は、分裂して世代を下っていくごとに、あらゆる変異を自分の肉体に試す。※2
無作為全方向にわたるいわゆる「進化」をあらかじめしておいた上で、たまたま新たな環境にアジャストできたものだけが、あるいはたまたま生存に有利な機能を獲得してたものだけが、生き残っていく。
つまり、環境にアジャストしようとして、あるいは生存に有利な機能なので、という理由で進化は起きるわけじゃない。
すべての進化は、まったく意図せず発生した偶然なんであり、そこには計算も予測もデザインも介在しない。
高い木の葉っぱに届くようにキリンは首を長くしたわけじゃなく、たまたま首が長くなってしまったキリンがたまたま高い木の葉っぱを食べることができ、首の短いタイプよりもたまたま生存に有利となった、の順序だ。
生存に有利な首の長いタイプは、旧態依然のタイプよりもモテるため(異性も自分の子孫の生存を求めるのだ)、世代を経るごとにキリンの種全体の首が伸びていき、首の短いものはすたれて、長いものが後世を席巻することになる。
ダーウィン進化は、こんな残酷な淘汰をともなう。
が、結果得られた機能性のアップデイトは、種全体の生存確率を劇的に上げていく。

つづく

※1 交配がないのでこの表現は厳密ではないが、古い機能と新しい機能の交雑種、と解釈しよう。
※2 何度も書くように、変異は偶然の産物だが、ここでも進化の作用を彼の主体性と能動性に還元できるものとして表現させてもらう。なにしろ、物語なもので。

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世界のつくり/意識編・6

2024年03月26日 14時42分09秒 | 世界のつくり

6・適者生存の法則、って

さて、深海底の風景に戻る。
増殖をつづける彼の分身たちは、圧倒的な速度と量とで、ぬくぬくと熱水を噴出させる孔を覆い尽くした。
さらに、その外洋・・・と言えるかどうかはわからないけど、生まれ故郷であるチムニーの外へ外へと、生態系の前線を押しひろげていく。
まるで、生まれたての生命による、活力みなぎるエデンの園だ。
一方で、生命の浸透が及ばない遠隔地には、純粋無垢なまでの荒涼とした景色がひろがる。
この時代には酸素すらないために、鉱物はさびることを知らない。
そんなフレッシュな正真正銘のフロンティアに、彼らは勇敢にも飛び込んでいく。
ところがそこには、寒さという環境変化のワナが待ち構えてる。
かつてあっちっちのマグマ塊だった地球はすでに冷え、水面からはるか隔絶された深海底には太陽熱も届かず、地中からの放射性崩壊熱があるのみの冷たい冷たい水の底・・・
熱水に育まれた彼の身には、極めてシビアな条件だ。
こうして、ついに生命の世界進出は止まる。
・・・いや、完全に止まったわけじゃない。
なんと、そんな冷たい環境にも平気で飛び込んでいくやつらがいるではないか。
思い出してほしいんだけど、遺伝子の変異は意図的じゃなく、無作為かつ全方向なんだった。
なぜなら、ゲノムの書き換えは不意なコピーミスに過ぎないんだから。
彼は、ぬくぬくの温度帯に適応できるように塩基配列を書き換えてきた・・・かと思いきや、「ぬくぬくの温度帯に適応する塩基配列の書き換えがたまたま生じた」ために、彼は熱水噴出孔で生きる可能性を獲得したんだ。※1
彼が熱水の環境でも平気でいられたのは、ゲノムがコピーされる際のエラーによる偶然の産物でしかない。
それと同様に、一部の彼らのゲノムは、冷水に適応できるような塩基配列のコピーミスを起こした。
こうしてたまたまその一団だけが、冷水の中でも生き延びられるようになった。
これが、適者生存の法則だ。

つづく

※1 この書き換えが起きなかった個体は、全滅した。

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世界のつくり/意識編・5

2024年03月25日 09時52分57秒 | 世界のつくり

5・コピペミス、って

生きる機械である彼の駆動手順をアルゴリズム化したものが、ゲノムだ。
要は、生きていく上においてするべき作業の指示書と言える。
彼のゲノムは、彼の生命機械(肉体)に指図する。
それに従い、彼は活動する。
意識をまだ持たない彼は、ソフトに動かされるハードウェア・・・つまりロボットのようなものなんだ。
ゲノムの命令は、次のようなものだ。
「外界から物質を探し出し、獲得せよ」
すると、彼が体表面にめぐらせたイオンチャネルとエンドサイトーシスの機構が反応し、触れるものの中から求める素材を選別して体内に取り込む。
「肉体の部品を構成せよ」
すると、RNAの塩基配列の特定箇所が起動し、リボソームなどの内器官を総動員してアミノ酸からタンパク質を編み上げる。
「故障箇所を修繕せよ」
すると、新しいパーツが古いものに取って替わり、いわゆる新陳代謝が行われる。
「自分をコピーせよ」
すると、RNAの全らせんがそっくりコピペされ(核はまだないのだ)、ゲノムの原文から分身したプリントがもう一体のボディを構築した上で、別の系として独立する。
単細胞分裂、だ。
そして、ここがとてつもなく重要な点なのだが、本体のゲノムの情報は別系統へと、そのまま完璧にコピーされるわけじゃない。
ところどころにエラーが・・・つまり、原文とは別の指示書きが紛れ込む。
塩基配列・・・すなわち、彼の機能は、コピーがくり返されるごとに、ほんの少しずつ上書きされていく。
こうして、図らずもダーウィン進化が発生する。

つづく

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世界のつくり/意識編・4

2024年02月05日 09時37分42秒 | 世界のつくり

4・増殖、って

生命体としての体裁を確立した彼は、今や自分を分身させて増やすこともできる。
なんたって彼が内蔵するRNAの塩基配列には、自身の構造情報ばかりか、その材料の集め方から組み立て方までがコードされてるんだから。
パズルのピースのような塩基のジョイント部分は、対となる形状を持つ相方部分としか合体(水素結合)できない。
つまり、そのジョイントの相方は、正確に彼の求める物質ということになる。
こうして素材を選り抜いて順序に沿ってコンプリートし、RNAらせんのスタートからエンドまでジッパーのように噛み合わせれば、情報が正確にコピーできる。
コピーされた相方の情報らせんは、ジップから独立して体の材料を探し、集め、部品をつくり出し、もう一体の姿かたちを立ち上げはじめる。
細胞内に、もうひとつの細胞をつくり上げようというわけだ。
第二の細胞が完成したところで、本体から分裂。
彼は、自分と同じ構造のもうひとりをつくることに成功した。※1
新しくつくられたコピー体には、彼のRNA構造・・・つまりゲノムがそっくり再現されてるので、彼のコピーもまたコピーをつくることができる。
こうして、彼の大分裂が・・・すなわち、増殖がはじまった。
世界にたった1人きりだった彼は、2人になり、4人になり、8人になり、10世代を経る頃には計算上では1024人にもなる。
もちろんその中には、生まれたはいいけど不慮の事故に遭って失われていく命もあって、増え方は単純な幾何級数グラフを描くわけじゃない。
それでも、彼と彼のコピーは自身の命が失われるまで果てしなくコピーをつくりつづけるので、時間がたつごとに彼の数はおびただしく増え、その増加曲線はますます急角度を極めていく。
たちまちチムニーとその周辺は、彼によって・・・いや、数々の生命体によって埋め尽くされていった。
それはまるで、生命の楽園だ。
この楽園を、生態系と呼ぼう。
どこを切り取ってもほとんど一様で、彩りのまったく乏しい単純な系だけど、とにかく彼は生命の世界を膨張・拡大させていく。
そして彼は、新たな環境に飛び込んでいく。
生命の大冒険のはじまりだ!

つづく

※1 ある意味、彼はこのついに時点で・・・すなわちふたりになった時点で、はじめて生命体となったと言える。生命体の定義には「増えること」とあるわけだから。

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世界のつくり/意識編・3

2024年01月24日 10時13分58秒 | 世界のつくり

3・彼の中に生きるものたち、って

適者生存による自然淘汰を受ける上に獲得形質を遺伝させないダーウィン進化に主体性を持ち込むのは整合性に問題があるけど、これは物語なので以降も、彼の中の「装置の駆動」を「行動」とし、その振る舞いを能動体の形で描かせてもらう。
その彼に意識を持たせよう、って試みがこのお話なんだから、まったく矛盾したものだ。
ま、そこはこらえてもらうとして・・・
さて、彼は絶え間なく働きつづけてる。
外界から材料を取り込み、新しい部品を組み上げ、壊れたものを外して交換し、必要のなくなった古材は体外に排出する。
外界からは、単元素のような粗素材だけを取り込むわけじゃない。
欲しいのはぶっちゃけ、アミノ酸だ。
古い時代にそのアミノ酸をいちから組み立ててたことを、彼は遺伝子の中に記憶してる。
めんどくさいそれをすることもできるけど、都合のいいことに、外界にはそいつが・・・つまりアミノ酸がふんだんに漂ってる。
それどころか、アミノ酸を長々と連ねたタンパク質、脂質、核酸などの高分子までが、周囲には濃厚に存在する。
それらは彼のように生命体になりきることなく、実験段階で敗れ去り、崩壊していった前駆体たちの残滓だ。
おびただしい前駆体が、数億年もの間、駆動原理と素材開発競争の中でさまざまな試行錯誤を繰り返した末に、ついに生命を獲得することなく、海の底のもくずとなったんだ。
図らずもそれが今、彼の「食べもの」となってるわけだ。
彼は外界のものを飲み込むとき、物質の選別のために小さなチャネルを利用するけど、もっと大きなものを「自分の外膜ごと」丸呑みする(エンドサイトーシスという)こともできるんだ。
そうして体内に取り込んだ高分子は、組み立てとは逆に分解され、アミノ酸に選別される。
さらに、ゲノムにコードされた順序で各種アミノ酸を並べてタンパク質の形に合成し、自分のパーツとして望みの部位にはめ込む。
なんと楽ちんな新陳代謝だろう。
おびただしい前駆体は、こんな分解と再構築の化学反応を磨き上げる数億年を送り、その技術を最終的に彼という洗練形に極めたんだ。
つまり、彼の中には途方もない数の生命前駆体が生きてる、ってことになる。

つづく

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世界のつくり/意識編・2

2024年01月22日 11時35分45秒 | 世界のつくり

2・最初期生命体の営み、って

彼は、最もシンプルなつくりをした単細胞の原形質だ。
まだ、生きていく上における最小限の装備しか持ってない。
生きることのみに特化した彼の外観には、手足や目耳はおろか、口も肛門もついてない。
だけど、体・・・というよりも「彼という物質系」を覆う脂質の膜には、イオンチャネルという出入り口(弁)が設けられてて、彼の内部と外界との電荷の勾配で物質がやり取りできるようになってる。
彼はその構造を利用し、必要なものを受容することができる。
だけど周囲には、爆発的燃焼剤である酸素も、光合成に道を開く太陽光もなく、鉄や硫化水素や二酸化炭素などという味気ない素材しかない。
それでも彼は、各種イオンを内部に取り込む際に酵素を駆動させ、粗分子から元気玉を組み上げるという仕事をすでに体得してる。
そうしてできた元気玉を用い、日々、単純な代謝にいそしむ。
体内で行われてるのは、物質の酸化・還元という化学反応(電子の使い回し)だけど、これがうまい具合いにエネルギーの循環となる。
ひと仕事を終えると、おつりのようなメタンが生成されると同時に熱も発生してるので、どちらも体外に捨てる。
彼はこうして、ふさがった系の中でエントロピーの平衡状態を自律的につくり出す。
ただその作業は、彼の意を反映してるわけじゃなく、ゲノムの命ずるところのものだ。
そんなゲノムもまた、自分の目的を反映させようと意図して命じてるわけじゃない。
自然界の現象が積み重なって積み重なって、たまたま「このやり方は系の中で物質がサイクルする」というメカニズムに行き着き、たまたまその仕様を核酸が塩基配列にコードしただけだから、その先のことなんて考えも及ばない。
つまり、彼のスタイル構築にも、その内部系統にも、さらには彼の仕事っぷりにも、どこにも「意識」は働いてない。
彼は、意識を持ってないんだ。
まだ。
だとしたら、彼の意識はいったいいつ、どこで、どう芽生えたんだろう?

つづく

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