徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

ビジネス書ながら運動論/瀧本哲史「君に友だちはいらない」

2014-04-04 03:29:17 | Books


うまいタイトルだなあと思った。
そしてメインのヴィジュアルに「七人の侍」を持ってくるのもうまい。というかズルい。「チームアプローチ」をコンセプトにした本書の本文内で「七人の侍」に触れるのは(しかも語られるのは映画そのものというよりも、黒澤明、橋本忍、小国英雄の脚本チームだ)、著者によって膨大に提示されるエピソードの中で、冒頭のほんのわずかなのだけれども、「七人の侍」のイメージは本書のコンセプトにずっと流れている。

瀧本哲史は「世の中はそんなに簡単に変わらないよ」と書く。
例えばなぜ天動説から地動説へと、世界の価値観が180度変わるようなパラダイムシフトはなぜ起きたのか。地動説信奉者を天動説信奉者が“説得”し、“論破”し、“宗旨変え”をさせたのか。
その革命的変化は「世代交代」という。
一見、身も蓋もない結論なのだが、地動説を頑なに信じていた古い世代は結局死んで墓の中に入るまでそれを信じ続け、古い世代が死に絶え、天動説を信じる新しい世代(ニューカマー)が増えたことによって革命的変化は起きたという。
瀧本は古い価値観に固執する古い世代を説得し、論破し、宗旨変えさせることは「不可能」で「時間の無駄」とまで言い切る。そして新しい価値観を信じる新しい世代は、古い世代が“死に絶える”その日まで、仲間や支持者を増やし、そのためのチームを作れと言う。ここでいう「友だち」とはさして目的も持たない、馴れ合いの関係を指す(いや、それはそれで大切だったりするのだが、これはビジネス書で、“プロジェクト”の話)。「友だち」ではなく共通の目的(本書では物語、ロマンとも書く)を持った仲間を作れと言うわけだ。
オレは既にいい歳のオヤジなのでここでいう「ニューカマー=若者」には入らないのだが、年齢を抜きにして読み進める。まあニューカマーといっても、それは単に年齢を指すものではないよね。

勿論基本的には…というか、本書はエンジェル投資家が書く完全にビジネス書なので、チーム論の基調はビジネスパーソン向けである。朝日新聞の「プロメテウスの罠」取材チームやオーディオブックの「オトバンク」といった企業の実例や、テレビドラマ「王様のレストラン」、漫画「ワンピース」のチーム論など、豊富なエピソードを立て続けに紹介していく。チーム論中心の3章までは一気に読み進められる。
ここで書かれる「チーム論」は、オレにとってはずっと考え続けているサポーター論であり、3.11以降の社会運動、直接行動の中で日々実感している運動論に近い。
「ウィークタイズ(弱いつながり)」のキーワードもビジネスというよりも、道具としてのSNSの可能性やシングルイシューの社会運動を語る言葉としてしっくり来る。まずシンプルな共通の目標を掲げ、その目的のために人間関係を築いていく。反対を考えれば簡単な話だ。「ストロングタイズ(強いつながり)」は、互いに強い信頼関係を求める反面、関係を硬直化させ、目的を見誤らせ、チームを歪なものにさせやすい。人間関係(友だち)を作ることが目的ではない。目的を達成するために、それに必要な人間関係(仲間)を作るのである。もちろん目的は共通しているのだから、ウィークタイズであろうとも信頼関係は築きやすい。
これは何ともわかりやすい(ただし組織論やアメリカ論が中心の4章以降、瀧本はビジネス書らしくさらっと書いているものの、モンサントやロックフェラーの話題、期間工の切り捨ての描写などはさすがにさらっとは読めないけれども)。

本書の最後では、現在の日本の状況を20世紀初頭のワイマール共和国と重ね、『ALWAYS 三丁目の夕日』で描かれる昭和30年代を永山則夫のエピソードを引きながら批判する。また「ヘイトスピーチ」という言葉を使い、アパートの電気代を踏み倒し、老人を暴行し、博物館への脅迫を行ったネトウヨの事件を紹介しながら似非ナショナリストが跋扈する状況を分析する。ネトウヨ=経済的貧困の産物というのは分析が甘い印象もあるけれども、文章のヴォリュームとしては少ないけれども、所謂「ビジネス書」でここまでヘイトスピーチの状況を書いているのにはちょっと驚いた。
まあ、自分はビジネス書としては読んでいないわけですが(笑)。

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