本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

誰が音楽をタダにした?

2023-06-11 07:50:21 | Weblog
■本
45 危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』/ 朝日新聞社 編
46 誰が音楽をタダにした?/スティーヴン ウィット

45 宮﨑駿監督の「風の谷のナウシカ」の映画及び原作漫画について、コロナ禍の状況下も踏まえつつ、学者や作家などの著名人にインタビューした、朝日新聞デジタルの連載をまとめた本です。漫画版は20年以上読み直していませんが、各インタビューで引用される箇所は結構覚えていて、楽しく読めました。土鬼の皇弟ミラルパが「本物の慈悲深い名君」から、やがて「いつまでも愚かなままの土民」たちを憎むようになり、恐怖政治を敷くようになった箇所と、汚染された地球を浄化し人類を存続させる可能性があった「生命を操る技術」が保存されている「シュワの墓所」を、ナウシカが巨神兵に破壊させた箇所を、複数の人が引用し、権力の腐敗や人間の生の意味について考察されていた点が、特に印象に残りました。腐海の「瘴気」と新型コロナウイルスを関連付けて考えるのは、いささか短絡的な気もしますが、行動制限などによる不自由な環境になってはじめて、人生の意味について考える、人間の浅はかさと可能性を「ナウシカ」の原作は暗示していたのかもしれません。いずれにしても、漫画版の完結から30年近く経っても、多くの議論の対象となっている点が、この作品の偉大さを証明しているのだと思います。いろいろ講釈をたれなくてもシンプルに漫画として面白いんですけどね。とはいえ、この本を読んでいろいろな解釈の仕方があるということも学べたので、あらためて漫画版を読み直して味わってみたいと思います。

46 タイトル通り、音楽の違法コピーがどのように普及し、音楽業界や警察がどのようにその流れに対抗したか、について描かれたノンフィクションです。違法コピーにのめり込む側と、それから損害を受けた音楽業界の重鎮の立場だけでなく、違法コピーを支える音声データ圧縮技術(MP3)の開発者側も加えた、3つの視点から語られている構成がユニークで、このテーマを立体的にとらえることに成功しています。高度なマーケティングに支えられた音楽業界(資本主義)側の思惑を、承認欲求に支えられた違法コピーコミュニティー(ある種の原始的な交換経済)側が軽々と超えていく点が痛快ですらあります。ただ、音楽業界側もただ指を加えて負け続けているわけではなく、試行錯誤しつつ、時に最新テクノロジーを取り込みながら、したたかに生き延びていこうとしていく姿も興味深かったです。加えて、純粋な技術の向上を目的としていた研究者が、それだけでは研究に必要な資金を集められないことに気づき、標準化に向けた政治力や、いくつかの偶然に翻弄されつつもマーケティング的な視点を身に着けていく流れも、実ビジネスに役立ついろいろな知見が得られました。違法コピーされたアーチスト作品それぞれに対する、筆者の毒の効いたコメントも音楽ファンとしては楽しめました。この違法コピーが活発であった期間と、過去のアーチストの音源のサンプリングをベースとしたラップという音楽の全盛期が重なっている点も、皮肉な示唆を与えてくれている気がします。違法コピーの大きな流れのベースに、一般市民のささやかな欲望が強く絡んでいたという点も、世の中の仕組みをわかりやすく示してくれていると思います。各登場人物のキャラクターも立っていて、抜群に面白い読み物です。


■映画
38 友だちのうちはどこ?/監督 アッバス・キアロスタミ

 イランの巨匠アッバス・キアロスタミ監督による1987年の作品です。次に忘れると退学だと先生から注意を受けていた友だちの宿題ノートを、間違えて持って帰ってきた小学校低学年の少年が、それを返すために友だちの家を探し回るというお話です。少年の健気な表情と、彼に非協力的な周囲の大人との対比を、ハラハラしながら観ていました。小津安二郎監督の影響を受けているとよく言われますが、確かに固定カメラによる登場人物の表情をとらえるショットも印象的ですが、それ以上に少年が必死に(かつどこかコミカルに)駆け回る動的なシーンの方が特徴的だと思いました。大人になると些細なことでも、子ども時代はとても深刻に受け止めていたことを思い出しました。宗教や文化の違いがあっても、人間に普遍的な感情のようなものが伝わってきて、なんとも言えない豊かな気持ちになりました。個人的には唯一少年に協力的ですが、一方的に自分の職業観を話し続けるだけで、さほど少年の助けにならない老人のキャラクターが好きです。その老人からのささやかなプレゼントを、さりげなく映し出すエンディングも心憎いです。ハリウッドやヨーロッパの映画にはない、地に足の着いた生活に根差した魅力が溢れる素敵な作品です。

コメント
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