本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

白い巨塔

2018-07-07 09:25:06 | Weblog
■本
54 朝日ぎらい/橘 玲
55 紀州のドン・ファン/野崎 幸助

54 タイトルは、ベストセラー「京都ぎらい」のパロディーで、あくまで読者の興味を引くためだけの意味しかなく、内容をよく表しているのはサブタイトルの「よりよい世界のためのリベラル進化論」の方だと思います。日本で議論されている「保守」と「リベラル」とグローバルスタンダードのそれらの概念との差異を、「アイデンティティ」という補助線を用いながら、橘さんお得意の遺伝学や行動経済学的視点も交えて丁寧に議論されています。日本の中高年者に多い「リベラル」支持者が、正規労働者という既得権益を守るために「保守」化する一方で、その既得権を破壊しないと希望が持てない非正規労働者の多い若年層が、「働き方改革」を推進する中でその既得権益を破壊しようとしているように見える自民党を「リベラル」として捉えている捻じれ現象がロジカルに説明されています。それに加えて、非正規労働者という弱い立場と地域コミュニティも崩壊した現代社会で、若年層が「日本人」であることだけが自身のアイデンティティのよりどころとなり、右傾化する自民党を支持するという構造も明らかにされています。橘さん自身が「リベラル」的立場であると明言しつつ、その「リベラル」が現状を変えることを否定していることや、成功したIT企業に見られるように、高い知能により富を独占し、結果として地道に努力する普通の人々から搾取している欺瞞性を指摘し、「よりより世界」を語るリベラルの本質に立ち返ることを指摘されている点に共感を覚えました。

55 先日お亡くなりになられた野崎さんの追悼の意味と、以前に「アメトーク」で紹介されていて興味を持っていたので読みました。「きれいな女性とエッチするためにお金を稼ぐ」という明確なモチベーションに基づき、成功を収めた野崎さんの一代記です。コンドームの訪問販売(時には購入者の奥様に対して実演もされたようです)や、美人女子大生をネットワーク化してティッシュ配りをさせた金融業のエピソードを読むと、結局人は自分の好きなことをやるのが一番だということに改めて気づかされます。その一方で、他社と差別化するために、金融業は霞が関一帯の顧客をターゲットにする(そもそも地位も高い高所得者なので、返済能力は高いし、職場に督促の電話がかかってくるのを嫌うために無担保でも回収率は高い)など、起業家としての才覚を発揮されている点も興味深いです。最近話題の野崎さんの最期も踏まえると、人生における「成功」と「幸せ」についていろいろと考えさせられますが、読みやすく、非常に面白い本です。


■映画 
52 白い巨塔/監督 山本 薩夫

 先週に引き続き山崎豊子さん原作の映画を観ました。こちらも最高に面白かったです。組織内での権力闘争をえげつないまでに生々しく描きつつ、大学病院の教授選挙や主人公が被告となる医療ミス裁判を通じて、閉鎖的な業界の腐敗と職業倫理について問いかけてきます。権力側が一瞬危機に陥りますが、結局は体制が維持され続ける虚しさを感じるのは「沈まぬ太陽」と同じ構造ですが、それでも、組織ではなく個人の信念や美学に基づき行動する人を丁寧に描くことで、人の人生は結果だけでなく、その過程でも評価されるべきという視点が提起されている気がします。高度経済成長期の大阪で、富裕層がどのような夜遊びをしていたかも生々しく描かれていて、大阪出身の私としては興味深かったです。テーマ設定だけでなく、ストーリー展開やキャラクターの造形だけでもシンプルに面白く、エンターテイメント作品としても一級の作品です。
コメント
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