本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ヒットマンズ・レクイエム

2024-08-18 06:41:23 | Weblog
■本
71 春の庭/柴崎 友香
72 1分で話せ/伊藤 羊一

71 先日、岸政彦さん目当てで読んだ共著「大阪」が、柴崎友香さんパートも興味深かったので、彼女が芥川賞を取った表題作を含む、この短編集を読みました。風景や家の間取りの細かい描写や、各登場人物の独特な視点、そして、全体を貫くロスジェネ世代に特有のどこかもの悲しい雰囲気など、柴崎さんの作家としての優れた技術が端々から感じられるのですが、しみじみとした味わいを評価する私の個人的な好みもあり、ストーリー自体はそれほど面白いとは思いませんでした。思うに「春の庭」は、柴崎さんの最良の作品ではなく、これまでの作品評価の蓄積との合わせ技で受賞に至ったのではという印象を僭越ながら持ちました。むしろ大阪を舞台にした(「春の庭」は東京が舞台です)「出かける準備」という短編の方が、登場人物が生き生きと感じられ、「大阪」で感じた柴崎さんの地べたの視点が堪能できました。この本だけで、柴崎さんを評価するのはフェアではない気がしますので、他の作品も読んでみたいと思います。

72 私はあまりよく存じ上げませんでしたが、意識高いビジネスパーソンや学生に人気の方だそうです。偶然見たウェビナーでの熱量が凄かったのと、刻々更新される〇万部突破、という帯に惹かれて読みました。ロジカルシンキングやプレゼン技法のエッセンスがぎゅっと圧縮されて書かれています。確かに、これだけ知っておけば、あとは実践のみという内容で、タイパが重視される時代に合っていると思います。右脳と左脳のバランスも絶妙で、論理だけでなく、感情を刺激することの重要性が強調されている点はユニークです。事例も豊富で、具体と抽象のバランスもとれていて、わかりやすいです。なにより、プレゼンの目的は、聞いた人を「動かす」ことである、という明確なメッセージは、結果が重視されるビジネスの世界を端的に表現していると思います(そういう意味ではこの本を購入した私は、伊藤さんのプレゼンに「動かされた」一人であるとも言えます)。個人的には、この熱すぎる語り口は少し胃もたれがしますが、プレゼンに悩む若いビジネスパーソンが、まず読むべきよい本だと思います。


■映画 
68 イニシェリン島の精霊/監督 マーティン・マクドナー
69 ヒットマンズ・レクイエム/監督 マーティン・マクドナー
70 僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション/監督 長崎健司

68 個人的に21世紀に入ってからの最良の映画は、「スリー・ビルボード」だと思っています。お盆休みに時間があったので、ずっと観たかった、マーティン・マクドナー監督の「スリー・ビルボード」の次の作品を観ました。こちらは、去年のアカデミー賞で8部門で9ノミネートされながら「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」に完敗して、1つも受賞できなかった作品です。あらすじは、ある日突然親友から絶交すると言われたおっさんと、絶交すると言った方のおっさんが次第に壊れていくというもの。それだけを聞くととてつもなくつまらく思えますが、それが、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンの二人の名優が表現すると抜群に面白くなります。コリン・ファレルが、漫才コンビ「ザ・パンチ」のパンチ浜崎さんのように、実にむかつく、うざい笑顔をこれでもか、と披露してくれます。この主要登場人物2人を含む島の住民は、島を出て行く主人公の妹以外、みんななんらかのかたちで壊れているのですが、マーティン・マクドナー監督作品らしく、誰も最後の一線は超えない節度を持っている点が実に味わい深いです。何が「最後の一線」かを表現するのはなかなか難しいのですが、相手を否定しながらも、その相手の立場に立てるほんの少しの思いやり(「全否定」はしない優しさ)がそれに当たるのかと思いました。そのため、過剰で偏った人間たちが、いろいろなものを損ないまくるのですが、後味は不思議と悪くはないです。この後味の良さが「スリー・ビルボード」と比べると若干落ちる点が惜しいですが、架空の島「イニシェリン島」の美しい映像も含めて、ろくでもない人生でも生きる価値があるという、妙なポジティブさを与えてくれます。

69 そのコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンが、14年前に共演した同じくマーティン・マクドナー監督作品です。今回のブログのタイトルにもしておいてなんですが、この邦題はネタバレ要素が多い最悪のタイトルですね。原題の「In Bruges」か「ブリュージュ観光」あたりが適切だと思いました。というわけで、ボスから休暇を命じられた殺し屋2人がブリュージュを観光しつつ、いろいろな暴力に巻き込まれる(自ら暴力をふるう)作品です。14年後にこの二人で再度映画を撮りたいと思うのも納得で、絶妙の相性の良さが感じられます。無邪気なコリン・ファレルと、慈悲深いブレンダン・グリーソンの演技が素晴らしいです。このころのコリン・ファレルは、まだ、イケメン俳優として現役なので、旅先でナンパした美女(「ハリー・ポッター」シリーズに出演していたクレマンス・ポエジーがとても魅力的です)に好意を持たれるのも納得です。この作品もマーティン・マクドナー監督作品らしく、最後の一線は超えない節度をどの登場人物も持っている点に共感します。といっても殺し屋なので、全員ある意味で非道なのですが、それぞれの規範に従いつつ、葛藤している点が憎めません。さらに、その「規範」を逆手に取った皮肉なエンディングも実に見事です。対話シーンとアクションシーンの静と動のメリハリも効いていて、観ていて全く飽きません。コメディ要素とシリアス要素のバランスも絶妙で、「生きる」ということに対する達観と信頼感を同時に感じられて、この作品も後味が不思議と悪くないです。ポジティブな表現だけが、人をポジティブな気持ちにさせるわけではないということを、若干露悪的に証明する素敵な作品です。やはり、マーティン・マクドナー監督は最高です。最近、ヨルゴス・ランティモス監督作品にもはまっているので、コリン・ファレル出演作ばかり観ている気がします。この2人の巨匠に重用される彼の凄みも感じました。

70 つい最近週刊少年ジャンプでの連載が終了した(見事なエンディングでした)「僕のヒーローアカデミア」の2021年に公開された、オリジナルストーリーの劇場版作品です。「ヒロアカ」は「鬼滅の刃」や「呪術回線」と比べても遜色のない作品だと個人的には思うのですが、この作品が世間的に若干過小評価をされているような気がするのは、劇場版のクオリティにあるのかもとふと思いました。「ヒロアカ」劇場版作品を観るのは2作目ですが、単体としてはそれほど悪くないのですが、原作と比較するとどうしても軽い印象が残ります(単なるバトルアクション映画のように感じます)。ちょうど、尾田栄一郎先生がフルコミットする前の劇場版「ワンピース」と同じような印象をもちました。それなら、「鬼滅の刃」や「呪術回線」と同様に、ある程度原作に忠実に映画化した方がよいのでは?とも感じました(長編作品なので難しいとは思いますが)。映画版オリジナルキャラクターの「嘘がつけない」個性は、面白い発想だと思いました。

コメント
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