パスを送る、一歩もうごかなくていい
うごいてはならない、そう云いなおそう
はじまりの場所は、はじまりから終わりまで
つねにはじまりの場所でありつづける
きみの生、おれの生、だれかの生
生きるものすべて、ひとりだけの場所がある
だれも取って代われない生命の場所に居つづけること
おれたちはいつもうごきすぎる、毎日、毎日
うごきすぎてはじまりの場所からはぐれ、迷子になる
それだけではない、これまで頻発してきたことがある
そう、ひとりだけの固有の生はいつのまにか
だれかに、おのれならざるなにかに取って代わられる
まじりけのない悪神だけではない
しばしばやさしい天使の姿をしている
うごきすぎて起点が消え、この世で一番大切な場所を見失う
この倒錯の歴史、変態の歴史はいまもつづいている
あれかこれか、あれでもないこれでもない
まよい、ためらい、さまよい、右往左往する
それはゆらぎのなかを生きる生命の証でもある
けれども、ゆらぎ、さまよう場所をまちがえてはならない
みずからの生きる場所を忘れ、否定し、席を譲ったらおしまいだ
その帰結は一つだ──「差し押さえをくらった命」
ほんとうはどんな偉そうなカミガミも介入できない
ただひとり、生命が生命でありつづける神聖な場所がある
カミガミの誘惑を跳ね返す、不逞な、ふてぶてしい心をもって
いまここに生きている、これからも生きていくいまここをキープする
生命の姿が消えてゆく、荒廃した世界が再演されないように
つねに、一歩もうごかずにそこに居つづけること
一つだけ注意(蛇足にちがいない)
潔さのパラドクスに呑み込まれないように
覚悟を決めることと世界の姿を確定することはちがっている
世界の姿が確定され固定されると、なだれ式に
すべてがバインドされ、みずからもバインドされる
いまここに居るひとりの場所をキープして生きる
この相互性においてはじめてパスの通り道が生まれる
そうしてショートパスもロングフィードも可能になる
そうしてはじめて俺たちはほんとうに出会い
パスを交換しあって生きあうことができるだろう
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