ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

Another Galaxy Ⅱ ――Illumination

2013-03-10 | Weblog


   子供たちは、我々以上に、表層の生活と深層の生活とを合わせ持っているものだ。
   表層の生活はごく単純だ。なにがしかの規律で片がつく。
   だが、この世に送り出された子供の深層の生活は、
   創られたばかりの世界が奏でる不協和音の調べだ。
   子供は一日また一日と、地上の悲しさ美しさをひとつ残らず、
   その世界に納めていかねばならぬ。
   それは内なる生命が払う巨大な労苦なのだ。

         ――L=F・セリーヌ『ゼンメルヴァイスの生涯と業績』菅谷暁訳


バッターボックスから見上げた空の向こうに、
うつくしい夕焼けが広がっていた。

    空ぶりのバットのむこうにいわし雲   (小四男子)

「おい、試合に集中しろ」、コーチの怒鳴る声がした。
一瞬びくっとしたが、ピッチャーは振りかぶっていた。

ベンチに戻っても三振の恥しさが消えなかったけれど、
真っ赤に染まった空は息を呑むほどきれいだった。

プロの強打者になることを夢見る少年にとって、
野球は大切な世界の一部だがすべてではない。

コーチの命令には逆らえなくても、
からだは自然が投げるサインにも応答する。

    たかいたかいしてゆうやけがみたいから (幼児学級女子)

生命の創発に沸き立つからだの奥深くで
世界が奏でる不思議さが鳴り響いている

耳を澄まし
心を凝らし
不思議さにからだを委ねると

ここにあるものとここにないものと
すべてが交響するギャラクシーが開かれていく

    オリオンを母におしえた冬休み    (小六女子)

ギャラクシーは数えきれないシグナルに満たされ
同期と非同期のイルミネーションが明滅している

小さな予感にみちびかれ
こころにコマンドが走り抜け

ギャラクシーにまた一つ
応答の秘蹟が現象していく

    とうちゃんの大きなげたで月をみる  (小二男子)

いまここに
こうしてあることに

最初のおののきが重なり
二番目のときめきが重なり
すべてが重なり

ギャラクシーのきらめきに結ばれ
透明なシグナルが届けられる

    あいうえおかきくけこであそんでる  (小二男子)

透明なシグナルは
光と風に紛れ込み

どこへも誘わず
なにごとも告げず

夕ぐれの光景を
ただ美しく染めていく

   こどものつばめはひとりでそらへとびました (保育所男子)

一つの予感として
一つの誘いとして
海と空は溶けあい

光がこぼれ
感情がこぼれ

ここにこうしてあることに
こころが氾濫する

    かいすいよくすなやまかいがらすいかわり  (小一女子)

巨大な問いに抱かれ
少年はギャラクシーを渡っていく

巨大な問いはこの世のすべてに開かれ
創発へのreadinessと結ばれている

区切られたボーダーを破るように
透明なシグナルは結び直され
少年はみずからの声を響かせていく

    なつやすみつまらない日はありません  (小一男子)

黄昏の彼方へ
こころは唇を向かわせ

光が閉じられ
永遠に遠ざかろうとする
夕ぐれの

きよらなか喪失の光景に
新たな応答の秘蹟が現象する

    なのはなが月のでんきをつけました   (小四女子)

少女は季節に出会い
季節をめぐり
季節に色づけられ

ここにあるものは
ここにないものと交わり

郷愁に照らされ
大切な記憶がトレースされていく

    春風にやめた先生のかおりする    (小四女子)

曇った空に
はかない予感がきざし

かたちをたどれない
せつない感情が溢れ出し

こころにコマンドは駆け抜け
かなしみというfeelが現象していく

    あじさいの庭まで泣きにいきました   (小六女子)

汲みつくせない不思議さが
からだに沸き上がり

風に木々の楽譜は高鳴り
こころは季節に透きとおる

透明なシグナルが運ばれ
季節のかたちが告げられていく

    秋のかぜ本のページがかわってる   (小二女子) 

まなざしは光に洗われ
風景のスペクトルに洗われ

ことばより早く
からだはビートを刻み

新たなステップに担われ
未知のダンスが駆けだしていく

    さんびなあ北のおぐがらかぜっこふく   (小四男子)

愛と誇りを導くものも
愛と誇りを損うものも

喜ぶことも
怒ることも

どれも同じ強度を刻みながら
こころは
美しさが告げるものへと唇を向けていく

    はすのいけひらくのつぼむのちってるの   (小二女子)

にっこりすると
にっこりされる

なぜだろう
いつも不思議なパワーが満ちてくる

がっかりされると
がっかりする

    ツクシさん花びんわったのわたしなの   (小三女子)

ためらいと勇気の連鎖のなかで
いつもなにかが終わり
なにかが始まっていく

今日もなにかが誘っている
明日もなにかが拒んでいる

よびかけは応答を導き
応答は呼びかけを導いていく

    なしかじりけんかのわびを考える    (小六男子)

星空を見上げて仲間と過ごした夜は
せつなくこころが透きとおり

地上にとどく光はいつも
讃歌に伴われていた

かたちをたどれない世界の姿は
なかまたちが教えてくれた

    むしのこえおうちをぜんぶかこまれた  (保育園女子)

呼ぶ声が聴こえ
高揚は走り

星はきらめき
夜は夢に濡れ

はるかな時間を超えていくように
無音のシグナルが訪れてくる

    しかられたみたいにあさのバラがちる   (小二女子)

たくさん生きるんだよ
魔法のつぶやきがこだまし

じぶんではない
だれかを祝福することが
じぶんのよろこびであり
みんなのよろこびであり

やさしいシグナルが
こころを埋めていく

    こどものつばめはひとりでそらへとびました (保育所男子)

遠くまで行きたかった
近くまで来たかった

無数のコンテキストを横断するように
新しいことばとかたちが試されていく

語ることでなにかが加えられ
語らないことが別のなにかと結ばれる

    ぶらんこにのったらほっとするんだよ  (小二男子)

だれにも示すことができない
なにかがあることを

だれにも告げられない
小さな孤独とひきかえに

すこしだけじぶんだけで感じ
すこしだけじぶんだけで考えられる

海と空が溶け合う彼方に
またひとつ

新たなコマンドは走り抜け
ギャラクシーは拡張の契機を獲得していく
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