Wさんが逝った。
享年65歳だから、イワン・アサノヴィッチよりも少し若いところが些か辛いのです。
Wさんとは少年野球の指導者同士の関係で知り合ったのだから21年前からの付き合いになります。
Wさんは隣の町内会のチームの指導者でした。強いチームで県大会はおろか全国大会にも出場してしまうほどでした。
イワン・アサノヴィッチの率いるチームはと言えば、隠しても仕方のないことですから言っちゃいますと所謂”出ると負け”みたいなチームでした。
一度、練習試合をしたことがあります。案の定ダブルスコアーで大敗を喫しました。しかし、子ども達は二回戦目を希望しました。予定外だったのですが、その場で二回線目が開始されました。
ところがWさんは一計を案じてエースピッチャーをベンチにしてくれたのです。二回戦目もダブルスコアーで勝ったとあっては気の毒だと思ったのでしょう。二回戦目もやはり負けてしまいましたがWさんの作戦は成功して二回戦目は大接戦となりました。
試合終了後の『有難うございました。』の終礼時にWさんは『野球は打撃だけじゃないんだよ、ピッチャーの働きは勝ち負けに影響する大事な存在なんだよ』と説明しました。
両チームの子ども達は全員、Wさんの言葉を神妙に聞いていました。論より証拠、たったいま戦った試合でそのことが証明されたのですからWさんの説明にも迫力があります。
スポーツ界では体罰・虐待・パワハラなどが問題となっております。Wさんの指導はそんなこととは全く無縁でした。
身長の高い、Wさんの大きな目は小さな子ども達を一人ひとり覗き込むように、ボソボソ、ボソボソと語りかけるのです。
怒鳴ったり大声なんかも必要なく、講評しているWさん自身がまるで自分に言い聞かせているように子ども達に語りかけていました。
葬儀では、そんな子ども達も立派な大人となって参列しました。イワン・アサノヴィッチの次男も負けたチームのナインで、21年前にWさんの”ボソボソ講評”を聞いた一人でした。
東京在住で告別式には参列できなかったのですが、携帯電話の向こうで『亡くなられたのか…』と言葉少なげでした。
二試合目にエースピッチャーをベンチにしたことや試合後の終礼の”ボソボソ講評”は子どもたちならずとも、印象深くイワン・アサノヴィッチの脳裏にも刻まれています。
「人間50年 下天のことに較ぶれば 夢まぼろしの如し」と言われています。
Wさん!浄土に行ったらグラウンドを見つけておいて下さい。また、”三回戦目”をしましょう。
ご苦労さまでした。ご冥福をお祈りいたします。
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