みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

福島第1原発事故 工程表ステップ2へ 安定へ予断許さず/避難住民に道筋示せ/ステップ2、課題山積

2011-07-20 20:13:29 | 地震・原発・災害
朝から台風6号からの雨。

胃(食道~十二指腸)の内視鏡と腹部エコーの検査の予約日なので、
雨のなか、岐阜赤十字病院に行ってきました。
早めについたのですが、腹部エコーもすいすい、スタッフも親切。

胆のうポリープは、今年も女性の技師では見つけられなくて、
ベテランの男性に交代して無事発見。
「見つからないほど小さいものだから大丈夫ですよ」。

胃カメラの検査をしてくださるのは、放射線科の部長。
今年度から鼻からの内視鏡が導入されたとかかりつけ医に聞いたので、
こちらを希望する旨、紹介状に書いていただきました。
鼻から器具を入れる前に、のどの奥にゼリー状の麻酔薬を含み、
胃の働きを抑える筋肉注射。

ここまでは口からと同じで、鼻からの場合は、鼻の奥にも麻酔をします。
まず鼻の穴に粘膜を拡張するスプレーをして、待つこと5分。
まだ件数が少ないのか、部長みずからチューブを手にやってきました。
両方の鼻の穴に麻酔薬のついた管を入れ、鼻から垂れてる姿は、
通る看護士さんだけでなく、想像しただけで自分でも吹き出しそうです。
「写真を撮りたい」といったのですが、却下(笑)。

鼻の奥が狭い(穴が狭い)ということで、胃カメラの管を入れるとき少し痛かったのですが、
口からに変更されると困るので「だいじょうぶ」と我慢しました。
入ってしまえば口からよりは苦しくないし、画像を見ながら話しも出来ます。
20分ほどで無事終わり、丁寧な画像の説明。

ワイパーをマックスにしても前が見えないほどの土砂降りの雨の中、
お腹を減らせて帰ってきました。

帰って朝刊各紙を読むと、福島第1原発事故で「ステップ1の目標は達成」して、
「ステップ2」への改訂版の工程表が発表された記事。

ちょうど区切りだし、毎日新聞が事故からの経過や今後の課題など詳しく書いているので、
備忘録がてら、アップします。
ちょっと長いのですが、関心のある方はお読みになってください。

  福島第1原発、プール燃料回収着手へ 政府、工程表改定  

 福島第1原発の事故で、政府と東京電力は19日、事故収束に向けた道筋を示す工程表の改定版を発表した。この3カ月間で実現するとした、原子炉の安定的冷却などステップ1の目標は「達成」と総括。来年1月までのステップ2では、1~4号機のプールから使用済み核燃料の取り出し準備を進め、今後3年程度の間に取り出しを始めることを新たに盛り込んだ。
 ステップ2では、原子炉の温度を100度未満に維持する「冷温停止」も大きな目標。
 大量の高濃度汚染水を浄化し原子炉の冷却水に再利用する「循環式冷却」を安定させ、冷温停止を早期に実現し、今後3~6カ月程度で警戒区域や計画的避難区域などの解除の検討や実施を始める。
 2、3号機の使用済み核燃料プールは安定的に冷却中で、1、4号機でも8月上旬には冷却装置が稼働する予定だが、未使用と使用済みを合わせて3108体もの核燃料が入っている。

 これらを事故現場からなくすことも収束に向けた柱。1号機では建屋カバーの建設が進み、2号機では建屋が健全なことから、まずは水素爆発で原子炉建屋の上部が吹き飛んだ3、4号機のプール周辺のがれき撤去を優先して進める。
 政府内では、溶融した核燃料取り出しにも「10年後から開始」という目標を検討しているが今回の工程表には盛り込まれなかった。
 建屋地下からの汚染水漏えい防止も重要な部分で、政府と東電は地下30メートルに達する遮水壁の建設を検討してきたが、具体的な設計と建設着手をステップ2の期間中に前倒しで進めるとしている。
 菅直人首相は原子力災害対策本部の会合で「ステップ1」の評価に「かなりの部分で進捗(しんちょく)が見られ、一部では予定を超えた進捗が見られた」と述べた。
(2011年7月20日 中日新聞)


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社説:原発工程表 避難住民に道筋示せ 

東京電力福島第1原発の事故収束に向けた工程表が公表されて3カ月。政府と東電は「ステップ1」の目標がほぼ達成できたとの見解を公表した。
 たしかに、汚染水を浄化して炉心に戻す「循環注水冷却システム」は動き始めた。以前のように炉心を冷やす水がそのまま汚染水となって漏れ続ける状況にはない。使用済み核燃料プールの冷却もある程度めどがついた。
 しかし、現時点の循環冷却システムは急ごしらえの「仮設」である。原子炉建屋やタービン建屋など、本来なら炉心に触れた水があってはならない場所までシステムの一部とする苦肉の策だ。たびたび水漏れなどのトラブルを起こし、処理能力も当初の見込みを下回っている。
 現時点ではやむをえないとしても、将来もこのままでいいとは思えない。持続可能な中長期冷却システムの構築を今からよく検討することが重要だ。
 そのためには破損している原子炉格納容器などの補修も考慮する必要があるだろう。作業は容易ではないが、ある程度めどを示す必要があるはずだ。
 原発施設に損傷がある以上、漏えいによる地下水や海水汚染の恐れも残されている。ステップ2には地下水遮蔽(しゃへい)壁の設計・着手が盛り込まれたが、迅速に進めるべきだ。
 溶融した燃料や汚染水浄化の結果生じる汚泥の処理にも多くの課題がある。技術開発から始めなくてはならず、国の規定の再検討も必要となるだろう。
 工程表の進展は、周辺住民の生活とも密接にかかわる。事故発生から4カ月もたつのに、住民に今後の暮らしの指針が与えられていない現状は容認できない。
 汚染度の高い地域について見通しを示すとともに、緊急時避難準備区域など汚染度の低い地域の指定解除に向けて早く手を打つべきだ。
 東電は今回、現時点で原発から放出されていると考えられる放射性物質の推定値を示したが、これだけでは指定解除には不十分だ。
 今後、水素爆発が起きる危険性は無視できるほど低いのか。余震などで施設が壊れ新たに放射性物質が飛散する危険性はどうか。信頼できるリスク評価を早く示してほしい。
 緊急時避難準備区域の指定を解除するにあたっては、地域のきめ細かい放射線測定と汚染度に応じた除染、住民の健康管理もセットで進める必要がある。
 汚染は原発から同心円状に広がっているわけではない。将来の避難地域の解除にあたっても、汚染度に応じた対応が欠かせない。
毎日新聞 2011年7月20日 



東日本大震災:福島第1原発事故 工程表ステップ2へ 安定へ予断許さず 

 福島第1原発事故収束に向けた東京電力の工程表は19日の改定で、来年1月を期限とする「ステップ2」に移行した。ステップ1(4月中旬~7月中旬)で始めた「循環注水冷却システム」の安定的な稼働が、避難区域解除検討のカギとなる。一方で、原子炉の状態は依然として予断を許さず、事故収束後数十年に及ぶ廃炉への手続きなど、東電や政府には引き続き、重い課題がのしかかっている。【中西拓司、足立旬子、奥山智己、笈田直樹】

 ◇溶融核燃料、回収開始は10年後
 東京電力福島第1原発事故は、3基の原子炉で同時に炉心溶融(メルトダウン)が起き、溶けた燃料の一部が圧力容器から漏れ出しているという、世界にも例のない深刻な事故だ。政府は19日、原子炉を安定的に冷やすことを目標にしたステップ1は「ほぼ達成した」と発表したが、その後には、数十年にわたる困難な廃炉作業が待ち構えている。
 東電や内閣府原子力委員会などは今月初め、廃炉に向けた中長期の工程表案をまとめた。それによると、使用済み核燃料プールから燃料の取り出しを始めるのは早くて3年後。炉内から溶融した核燃料の回収を始めるのは10年後。さらに、原子炉を解体して廃炉完了までは数十年と想定した。
 工程表案は79年の米スリーマイル島(TMI)原発事故を参考にした。同事故では、1基の原子炉でさえ、核燃料を取り出し終わるまで10年を要した。
 これに対し、福島第1原発は3基の原子炉で事故が起き、原子炉建屋も壊れている。原子炉の損傷や放射性物質による汚染はかなり深刻だ。
 1~3号機の原子炉内の核燃料は合計1496体。工程表案はTMIと同様、溶けた燃料は水中で冷やしながら取り出す。そのためには圧力容器に水を張ることが不可欠で、損傷部を突き止めてふさがなければならない。
 核燃料プール内の燃料は3108体(1~4号機。うち使用済みは2724体)。損傷は少ないとみられ、十分に冷やして別の共用プールに移すことを検討する。
 通常、原発から出る使用済み核燃料は、青森県六ケ所村の日本原燃再処理工場に運ばれるが、損傷した核燃料は通常の機器では取り出せない。溶けた核燃料を遠隔操作で切断する装置や搬出のための専用容器の開発が必要だ。
 取り出した核燃料をどこに保管するかも課題だ。細野豪志原発事故担当相は「福島県を最終処分場にしない方法を模索しなければならない」と述べている。
 工程表案については、近く原子力委に設置される専門部会で検討が本格化する。国内の技術だけでは対応は難しく、海外の協力も不可欠とみられている。

 ◇汚染水浄化も難航
 東京電力は福島第1原発事故収束までのスケジュールを示した工程表を4月に作成。達成状況に応じてこれまで計3回改定した。この間、「来年1月まで」とした冷温停止の目標時期は変えないものの、対策の中身を大幅に見直してきた。
 4月17日に発表した最初の工程表は▽ステップ1(7月17日まで)▽ステップ2(来年1月中旬まで)▽中期的課題(それ以降)の3段階に分け、目標を盛り込んだ。
 ステップ1では「放射線量が着実に減少傾向」、ステップ2では「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」状態を目指し、原子炉圧力容器底部の温度がおおむね100度以下になる「冷温停止」をステップ2のゴールに据えた。
 冷温停止に向けた最重要課題の原子炉冷却について東電は当初、1、3号機については格納容器全体を水で満たす「冠水(水棺)」の実現を明記していた。水素爆発によって格納容器が損傷した2号機についても、穴を修復した上でステップ2の間に冠水状態にするとしていた。
 しかし5月に入って、1号機の格納容器には直径7センチ程度の穴が開いていることが判明。冠水の実現は難しくなった。このため、5月17日に改定した工程表では冠水を断念。大量の高濃度放射性汚染水を浄化して冷却に再利用する「循環注水冷却」を打ち出した。
 冠水作業などによって発生した汚染水の量は計約12万立方メートル(6月末現在)。「格納容器は健全」としてきた当初の甘い見通しが災いした。6月27日に浄化システムが本格稼働したものの、トラブルで断続的にシステムが止まるなど、処理は難航している。すべての汚染水の浄化を終えるのは、早くても秋以降になる見通しだ。
 一方、4月の発表時には考慮されていなかった「復旧作業員の環境改善」は5月の改定で盛り込まれ、被ばく管理や医療体制の整備が進んでいる。しかし、作業に関わった協力企業作業員の中に連絡が取れない人たちがいるなど、被ばくの実態把握は難航している。

 ◇循環冷却、稼働率カギ
 避難地域解除の根拠となる「原子炉の安定的な冷却」のカギが、高濃度放射性汚染水を冷却水に再利用する「循環注水冷却システム」だ。同システムは(1)油分離装置(東芝)(2)セシウム吸着装置(米キュリオン社)(3)除染装置(仏アレバ社)(4)塩分除去装置(日立など)--の四つの部分からなり、汚染水をこのシステムで浄化し、処理水を1~3号機の原子炉の冷却水に利用する。
 6月27日に本格運転を始めたものの、弁の開閉表示ミスやコンピューターのプログラムミスなどトラブルが続発。7月以降もアレバの施設で水漏れが相次ぎ、稼働率は70%程度にとどまる。東電は7月中に80%、8月に90%に引き上げることを目指していたが、達成は難しそうだ。

 ◇計画区域 飯舘村97%、川俣町99%避難
 政府は4月22日、原発から半径20キロ圏内の地域を、立ち入り禁止や退去を命令できる「警戒区域」に指定した。警戒区域の外側でも、放射線の累積線量が年間20ミリシーベルトに達する可能性のある地域を、約1カ月以内に避難する「計画的避難区域」に指定。さらに、原発から半径20~30キロ圏内で、計画的避難区域に指定されなかった地域は「緊急時避難準備区域」とされた。
 警戒区域内への立ち入りには10万円以下の罰金が科せられるなどの強制力があり、設定には、一時帰宅した人を再び圏外へ避難させる法的根拠を整える目的もある。
 計画的避難区域では、全村民の避難を求められた飯舘村で対象村民約6200人中の約97%が避難。川俣町も対象人口1252人中99%がすでに避難したか、避難日を決め、政府は「おおむね予定通り進んでいる」と評価した。
 緊急時避難準備区域では、新たな事故発生などの緊急時にはすぐ屋内退避や区域外避難をすることが求められる。自力での避難が難しい子供や妊産婦、高齢者、入院患者らにあらかじめ避難するよう促す一方、仕事や生活物資輸送のための出入りは認められる。

 ◆東電「ステップ2」目標要旨
 東電が19日公表した、福島第1原発事故収束に向けた工程表「ステップ2」(7月中旬から3~6カ月間)の主な目標は次の通り。
 【全体目標】放射性物質が管理され、放射線量が大幅に抑えられる。達成時期は今後3~6カ月
 ◇原子炉=より安定的な冷却
 循環注水冷却を継続し、圧力容器の温度を監視して「冷温停止状態」に持ち込む。格納容器からの放射性物質の放出を管理し、追加的放出による被ばく線量を大幅に抑制する
 ◇使用済み核燃料プール=より安定的な冷却
 既に2、3号機は熱交換器を設置し、より安定的に冷却できている。1、4号機も同様に循環冷却システムの早期設置を目指す
 ◇たまり水=全体量を減少
 高レベル汚染水処理施設の拡充と安定稼働。本格的水処理施設の検討着手。処理で発生する高線量の汚泥を保管
 ◇地下水=海洋への汚染拡大防止
 ボーリングで地下水位や水質を調査。地下水遮蔽の工法を確定し、設計に着手
 ◇大気・土壌=放射性物質の飛散抑制
 がれき撤去、原子炉建屋カバーの設置(1号機)
 ◇モニタリング=放射線量を十分に低減
 自治体によるモニタリングの実施。本格的除染の開始
 ◇生活・職場環境=作業員の環境改善充実
 仮設寮、現場休憩施設の増設。食事、入浴、洗濯などの環境改善
 ◇放射線量管理・医療=健康管理の充実
 内部被ばくの測定機器「ホールボディーカウンター」の増設。作業員は月1回、内部被ばくを測定。個人線量の自動記録化。データベース構築など長期的な健康管理に向けた検討
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 ◇東京電力の工程表に関わる主な経過◇
4月17日 「冷温停止まで6~9カ月」などとする工程表を発表。63項目の対策を盛り込む
4月19日 2号機タービン建屋地下の高濃度放射性汚染水の移送開始
5月 6日 1号機の格納容器を水で満たす「冠水」作業始まる
5月12日 1号機の核燃料の大半が溶融し圧力容器の底にたまっている可能性を公表。冠水計画困難に
5月14日 復旧作業中の男性作業員が体調不良を訴え、搬送先の病院で死亡。事故処理で初の死者
5月15日 細野豪志首相補佐官(当時)が1号機冠水断念を表明。汚染水を一時保管するための人工浮き島「メガフロート」が横浜港を出発
5月17日 1回目の工程表見直し。冠水断念と、「循環注水冷却システム」の構築など13項目を追加。政府も被災者支援の工程表を発表
5月24日 2、3号機の核燃料も大半が溶融していたとの解析結果を東電が公表
5月31日 2号機の使用済み核燃料プールを継続的に冷却する仮設装置が稼働
6月10日 復旧作業の社員2人が、被ばく限度(250ミリシーベルト)の倍近い被ばくをしていたことが判明
6月17日 2回目の工程表見直し。循環注水冷却システムの1カ月以内の安定稼働や、浄化の過程で生じる汚泥の保管、地下水汚染を防ぐ遮蔽(しゃへい)壁設置の検討、作業員の作業環境改善など5項目を追加
6月27日 循環注水冷却システムの本格稼働。トラブルによる中断相次ぐ
6月28日 2号機の格納容器内に水素爆発防止のための窒素注入開始
7月 2日 処理水のみで原子炉を冷却する完全循環注水に移行
7月 7日 新たに3作業員の被ばく上限超えを確認
7月11日 細野豪志原発事故担当相が、地下水汚染を防ぐ遮蔽壁の建設を前倒しすると発言。さらに1作業員が被ばく限度を超え、上限超えは6人に
7月14日 3号機格納容器に窒素注入開始
7月19日 ステップ1完了を発表。政府の工程表と東電の工程表を一本化した、ステップ2(来年1月ごろまで)の工程表を公表

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 ◇第1原発事故による避難指示、区域設定の流れ◇
3月11日 半径3キロの住民は避難。半径3~10キロ圏内の住民は屋内退避
  12日 半径10キロ圏内の住民に避難を指示。さらに同日中に20キロ圏内に拡大
  15日 半径20~30キロ圏内の住民は屋内退避
4月22日 避難区域(20キロ圏内)を災害対策基本法に基づく警戒区域に設定
  22日 屋内退避(20~30キロ圏内)を解除し大半を緊急時避難準備区域に。計画的避難区域(福島県飯舘村など)を新設
6月30日 福島県伊達市の113世帯を特定避難勧奨地点に指定
7月19日 工程表のステップ1達成
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 ◇緊急時避難準備区域の対象自治体、人数
自治体名(人口規模)  対象地域・人数(区域に戻った人)
南相馬市(7万人)   原町区など一部・約4万7000人(不明)
田村市 (4万人)   都路地区など一部・4100人(約2200人)
広野町 (5400人) 全域・約5400人(約300人)
川内村 (3000人) 20キロ圏内を除く全域・約2700人(約180人)
楢葉町 (7700人) 同上・約10人(0人)
 (各市町村災害対策本部調べ、19日時点)
毎日新聞 2011年7月20日 



クローズアップ2011:原発工程表見直し(その1) ステップ2、課題山積 

 東京電力福島第1原発事故の収束に向けた工程表で、政府と東電関係者は19日、この3カ月の「ステップ1」の目標をほぼ達成したと口々に語り、今後3~6カ月程度の「ステップ2」の目標を掲げた。しかし、放射性汚染水を浄化して原子炉の冷却に使う循環注水冷却システムは依然不安定だ。避難区域の解除に向けた放射線量の低減や土壌の除染作業など、他にも課題は山積している。

 ◇循環冷却、寿命1年 次期システム、安定不可欠
 「循環注水冷却システムこそ、原子炉の冷温停止につながる道。ステップ2でも最優先で取り組む」。東京電力の西沢俊夫社長は19日の会見で、格納容器の修復を断念する代わりに放射性汚染水を浄化して原子炉冷却に再利用する「循環注水冷却」で冷温停止に持ち込む考えを強調した。だが、日米仏3カ国の原子力企業が建設した現在の汚染水浄化システムは窮余の策で、しかも耐用年数はわずか1年しかない。
 原発は本来、炉心(核燃料)を冷やす水を内部で循環させ、放射性物質を外に出さない機能を備える。福島第1原発では、水素爆発などにより格納容器や配管などの重要機器が壊れて「冷やす」「閉じ込める」の機能を失った。
 冷却機能回復のため、緊急的に海水や近隣のダムの水を注入したが、それが格納容器の破損部分から漏れ、高濃度の放射性汚染水となって流出した。
 根本的な解決には格納容器の修復が不可欠だが、東電は今回、工程表から削除した。「目の前であふれそうになっている汚染水処理対策を優先せざるを得ない」(東電担当者)からだ。汚染水低減と炉心冷却を同時に図れる循環注水冷却は、たとえ不十分でも「命綱」となっている。
 政府と東電は19日改定の工程表に、現在のシステムに代わる「本格的水処理施設の検討」を前倒ししてステップ2に盛り込んだ。だが、具体的な手法など構想は白紙。東電の担当者は「(配管からの水漏れなど)トラブルの種を減らすため配管を短くし、シンプルな設計にすべきだ」と話す。現システムの配管は総延長4キロに及び、大部分は国が放射性廃棄物施設に課した耐震基準に適合していない。余震とともに、今後は台風のリスクにもさらされる。
 工程表は来年1月までに原子炉を、100度以下の「冷温停止」に持ち込むと明記した。各原子炉(圧力容器底部)の温度は19日現在、1号機100度▽2号機125度▽3号機111度。現システムをいかに安定的に稼働させるかが、成否を左右する。
 東大の岡本孝司教授(原子力工学)は「循環注水冷却が順調に進めば、冷温停止の前倒しも期待できる。今後導入するシステムは現在の反省を生かし、トラブルの少ない日本の技術力を結集すべきだ」と話す。【中西拓司】

 ◇国に注文相次ぐ--地元首長
 政府と東京電力が19日、新たな工程表を発表したことについて、福島県内の首長からは「循環注水冷却ができたことは評価したい」(山田基星・広野町長)など一定の評価を示す意見の一方、国に速やかな復旧施策の実施を求める声が相次いだ。
 佐藤雄平知事は19日夜、文書でコメントを発表した。「放射能の着実な減少というステップ1の目標が計画通り達成できたことは、事故収束に向けて進んでいるものと受け止めている」と評価。その一方、「がれきや汚泥の最終処分方法が示されず、十分な損害賠償が確保されていないことなど、多くの県民が将来への不安を払拭(ふっしょく)できない状況。避難生活を強いられている県民が速やかに帰還できるよう国が前面に立ち、全力で取り組んでいただきたい」と指摘した。
 緊急時避難準備区域などの解除については、地元の意向を尊重するよう求める声も。
 南相馬市の桜井勝延市長は「一刻も早く、市民が安心して元の暮らしを取り戻すことができるよう、事故の収束を求める」とコメント。解除については「あらかじめ市や関連機関と協議し、モニタリングや除染の徹底など、住民が帰還できる準備を国が責任を持って行ってほしい」とした。
 村全域が警戒区域と緊急時避難準備区域に指定されている川内村の遠藤雄幸村長は「避難区域の解除に向けた検討が始まるというのは期待したいと思う。しかし、失った雇用への対応など、指定が解除されても課題は山積している。村内の警戒区域は放射線量が低い箇所もあるので、同心円で定めている区切りを(実態に合わせて)早期に見直してもらいたい」と話した。

 ◇避難解除にハードル 雇用、がれき・汚泥処理…
 避難区域の解除は、放射線量を低く抑えることや土壌などの除染作業が前提だが、多くの難題を抱える。
 まずは雇用問題だ。原発から半径20キロ圏内の警戒区域や、その外側の緊急時避難準備区域などを抱える福島県南相馬市。震災で主要産業の農・漁業が大きな打撃を受けたほか、製造業の事業所も軒並み操業停止・縮小となった。市内で小売店を経営する男性(50)は「職がなければ人は定住しない。解除だけでなく、人が戻るあらゆる手だてを取ってほしい」と訴える。
 同区域が設定されている他の4市町村も、放射性物質の除去や、長期間離れた住宅の復旧などに不安を募らせている。全域が原発から30キロ圏内に入る川内村の担当者は「地域を形成するには一緒に戻るのが望ましいが、原発関連の職を失った人もいる。既に転校した子どもたちなど、バラバラになった住民を呼び戻せるだろうか」と打ち明けた。
 「がれき・汚泥処理の実施」も課題だ。工程表はステップ2から「回収」「一時保管」「処理」を行うとしたが、最終的な受け入れ先選びは難航し、自治体からは「早く処分先を示して」との声が上がっている。
 南相馬市の場合、がれきの総量は約60万トン。行方不明者の捜索で回収した約15万トンは、工場建設予定地(約18・5ヘクタール)に仮置きしているが、2カ月以上も放置されたまま。残りも津波の被害地で山積みの状態だ。市災害対策本部は「最終処分先に手を挙げる地域はないだろう」と頭を抱える。
 各地の下水処理場で発生する放射能を帯びた汚泥も深刻だ。同市原町区の下水処理場では汚泥が80トンを超え、保管の限界が近づく。市下水道課は「人口が戻ってくれば汚泥も増える」と危機感を募らせるが、仮置き場は見つからない。
 政府は、埋め立て可能な放射線量の基準を示したが、住民の理解を得られず、行き先が決まらないケースもある。県は「1キロ当たり8000ベクレル以下は埋め立て可能」との基準に沿い、同県国見町の下水道処理施設にたまった汚泥(1キロ当たり約1100ベクレル)を、県内の柳津町の最終処分場に搬入する方針を決めた。基準以下だったものの、町や住民は「数年後の健康被害が不安」などとして反発し受け入れを拒否。処分は宙に浮いたままだ。
 県下水道課の担当者は「政府がステップ2に処理実施を盛り込んだからといって、簡単に住民の同意は得られない。悩ましい問題だ」と嘆く。【神保圭作、種市房子、小畑英介】

 ◇森林多く除染困難--福島
 日本原子力学会によると、福島の場合は放射性物質の汚染範囲の75%を森林が占めている。森林は降ってくる放射性物質が付着してたまりやすく、除染が難しい。一方、市街地で建物などに付着した放射性物質を水で洗い流すと、それらが他の場所に集まって高い放射線量になる可能性もある。
 除染を担当する同学会分科会で主査を務める井上正・電力中央研究所研究顧問は「それぞれの地域の生活形態により、優先順位を決めて除染する必要がある。国は効果やコストを明示した除染技術のメニューを作って自治体に提示し、どの方法を選択するかは地元に任せるのがよい」と話している。【西川拓】
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 ■ことば
 ◇循環注水冷却
 原子炉建屋地下やタービン建屋にたまった高濃度放射性汚染水から放射性物質を除去し、その処理水を原子炉の冷却水として再利用する仕組み。東電は当初、格納容器全体を水で満たして冷却する「冠水(水棺)」によって事故収束を目指す方針だったが、データ解析などから格納容器の損傷が判明。注水するほど汚染水が増えることから、冠水を断念し、循環注水冷却によって「冷温停止」に持ち込む方針に転換した。
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クローズアップ2011:原発工程表見直し(その2止) 「達成ありき」疑念も
 ◇放射性物質封印できず
 「警戒区域と計画的避難区域に関しては、ステップ2が達成された時点で見直しができるよう取り組んでいきたい」。細野豪志原発事故担当相は19日の記者会見で、両区域に対する避難指示の解除はステップ2達成を目指す来年1月以降になるとの見通しを示した。
 ただ、避難住民の待ち望む帰宅時期のめどは今回の改定でも明示されず、ステップ2でも放射性物質を完全には封じ込められそうにない深刻な現実が被災地に重くのしかかる。そのため工程表では放射性物質の放出が微量で続いていても「冷温停止状態」とみなし、被ばく線量が「年間1ミリシーベルト以下」に抑えられている地域で避難解除へ向けたインフラ整備や除染などの準備作業を前倒しで進められるようにした。
 細野氏は「インフラが相当傷んでいるところがある。ステップ1が終わった時点で調査に入りたい」と解除準備を急ぐ考えを強調。それでも政府内からは「除染、土壌と空気の放射線量調査、インフラ整備やがれき処理などが手付かずになっている。片付けるのに何年かかるか」との悲観的な声が漏れる。
 その中で避難区域に入っていない20~30キロ圏の緊急時避難準備区域は上下水道などのインフラも維持され、解除を進めやすい。同区域の解除にも工程表は触れなかったが、細野氏はあえて会見で8月以降に自治体との協議に入る方針を示した。
 4月に発表した最初の工程表について政府高官は「2週間で作ったが、ステップ1と2を分けるのに東電は消極的だった。よくステップ1が達成できた」と「突貫工事」で策定したことを認める。頼みの綱の循環注水冷却システムでトラブルが続く中、ステップ2の目標期間を変えなかった今回の改定には「ステップ1の達成ありき」の疑念もぬぐえない。
 菅直人首相は19日の衆院予算委員会で「大変な危機状態から一定の収束の方向が見えてきた。100点とはもちろん申しません。しかし、やるべきことは内閣としてしっかりと取り組み、前進してきた」と自賛した。枝野幸男官房長官も記者会見で「収束に向けた一つ目の壁を越えることができたのではないか」と述べ、首相退陣を前に実績をあげたい政治的思惑をにじませた。【平田崇浩】 
毎日新聞 2011年7月20日


「小出裕章非公式まとめ」

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