以前書いた記事で少額訴訟は自治体が訴訟をするには向かないのではないかということを書いたのですが、その後、瀧弁護士の「自治体私債権回収のための裁判手続マニュアル」を参照しましたので、その感想を書いておきます。
1 「少額訴訟の実情」について
平成26年度の司法統計年報から、少額訴訟終結割合についての記載があります。
少額訴訟のメリットは、1回で終結して、判決ができることですが、被告が出席して判決となったものは11%です。被告が欠席で判決となったものが21%もあります。被告が欠席した事案は少額訴訟を選択した意味は見い出せません(通常訴訟選択でも良かったはずです)。
通常訴訟に移行したものが21%あります。これは少額訴訟⇒通常訴訟というルートになって、当初から通常訴訟を提起するよりも却って時間がかかることになってしまいますから、少額訴訟提起のデメリットになります。
取下げによる終了が16%もあります。この理由については同書には掲載されていないのですが、随分と多いなあという印象です。少額訴訟には向いていなくて、申し立てられた案件の数がここに反映されているのかもしれませんが。
いずれにせよ、被告が出席して、1回で終結して判決がでるというのは、11%にすぎず、少額訴訟の最大のメリットといわれるものが発揮できている件数が少ないということは、もっと認識されてよいことだと思います。
なお、終了事由のうち和解は26%、和解に代わる決定は5%でした(合計で31%)。
2 和解に代わる決定について
瀧弁護士は、「和解に代わる決定は、裁判所の判断なので、判決と同様、議会の承認は不要です」としています。
しかし、地方自治法は、「和解に・・・関すること」と規定していること(地方自治法96条1項12号)、和解に代わる決定は、原告の意見を聴いて行われることからすると(民訴法275条の2第1項)、和解できる事案をすべて和解に代わる決定とすることにより、地方自治法の規定を潜脱することができてしまいそうです。実務上は、和解に代わる決定を専決処分により処理していることは、「和解に代わる決定 専決処分」でググると多くの自治体の例がでてくることからもわかります。