尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

カタールに夏冬はあるのかー乾燥帯の気候を考える

2022年11月13日 22時44分28秒 |  〃 (歴史・地理)
 サッカーワールドカップのカタール大会が近づいて来た。今回は開催時期が暑い時期を避けて11月~12月に行われること、そして小国カタールだけで試合を行うために移動時間が少ないことなど、かつてなく異例な大会である。西アジアから北アフリカに広がるイスラム教国家で開催されるのも初めて。(なお、よく「中東」(Middle East)と呼ぶが、これはヨーロッパから見た時の言葉だから、日本人が使うのはおかしい。授業では「西アジア・北アフリカ」ということが多い。)

 カタールの面積は11,427km2で、世界158位(数え方は様々だが)。日本は377,974km2で世界62位。カタールの近辺ではクウェート(17,818km2)より小さく、レバノン(10,452km2)より少し大きい。日本で言えば、秋田県の面積(11,638km2)とほぼ同じぐらいで、秋田県だけでワールドカップを開くと思えば、いかに小さな地域で行う大会かが想像出来る。

 ここでは気候の問題に絞って考えてみたい。ワールドカップは今まで6月~7月に開かれてきた。これはヨーロッパのサッカーリーグの終了後になる。しかし、今回はカタールの猛暑を避けて、11月開催に変更された。そうするとヨーロッパのシーズン中になり、日本代表でもヨーロッパのクラブ所属の選手はまだ集結していない。どこの国もケガ人が多く、チームとしての完成度には問題があるだろう。だから、番狂わせが多い大会になるかもしれない。

 ところで疑問を持つ人はいないだろうか。この地域は基本的には砂漠気候である。エジプトカイロ近郊のピラミッド、あるいはサウジアラビアメッカ(イスラム教の聖地)などを思い浮かべる人も多いと思う。そうすると、何か一年中暑いイメージがあるのではないか。カタールには夏と冬の違いがあるのだろうか。猛暑を避けて日程を動かしたという以上、はっきりとした季節変化があるはずである。それは一体どんなものなのだろうか。そこでカタールの首都ドーハの雨温図を見てみたい。
(ドーハの雨温図)
 雨温図というのは、月ごとの平均気温を折れ線グラフで、平均雨量を棒グラフで一つに示すグラフである。これが世界の気候を分類するときの基本になる。グラフから読み取るのが生徒は大体苦手なんだけど、非常に大切なものである。こうしてドーハの雨温図を見てみると、気温は夏冬がはっきりする「富士山型」を示している。ドーハの平均気温は7月が最高で34.7度。平均というのは朝夜を入れての温度だから、これはたまらない。平均最高気温を見ると、6月から8月は40度を超えている。それが11月の平均気温は24.2度12月は19.2度まで下がってくる。やはり6~7月から11~12月に移したのは正しかったわけである。
(カイロの雨温図)
 ドーハの雨量を見ると、夏はほとんどないが、冬は結構降っている。といっても年間75ミリぐらいだが、多分ペルシャ湾に面している影響があるんだろう。これでは砂漠気候を教える時にドーハは不適当である。だから教科書ではよくカイロの雨温図が載っている。この図を見れば、一年を通して雨はほとんど降らないことが理解出来る。しかし、夏と冬はくっきりと分かれているのである。一年中暑い地方というのは、赤道直下に近いシンガポールなどが代表である。熱帯の熱帯雨林(ジャングル)気候になるが、下の雨温図を見れば一目瞭然だ。
(シンガポールの雨温図)
 ついでに東京を見てみると、気温は富士山型、雨量は毎月かなり多く、中でも秋が多い。年にもよるが、普通は秋に台風が来て大量に雨を降らせるのである。東京は「温帯」の中の「温暖湿潤気候」になる。南半球の温帯だと、夏冬が逆になるから気温のグラフが逆になる。テストで南半球のグラフを出すと、間違えやすくなるものである。
(東京の雨温図)
 じゃあ、どうして砂漠気候には夏と冬があるのだろうか。それは乾燥帯は中緯度地方だからだ。地球の気候は簡単に言えば太陽の影響だから、太陽に一番近い赤道直下が一番暑くなる。地球は傾いて自転しているから、赤道付近以外では「太陽に近い季節」と「太陽に遠い季節」が生じる。今年の夏は猛烈に暑かったが、それでも秋分を過ぎ冬至が近くなるにつれ、日没も早くなってきた。そうなるとやっぱり半袖が長袖になり、やがてセーター、コートが必要になってくる。

 東京の緯度は北緯35度41分。これはイランの首都テヘランとほぼ同じである。北アフリカになるが、アルジェリアの首都アルジェ(36度46分)やチュニジアの首都チュニス(36度48分)などは、むしろ東京より北になるのである。鹿児島の緯度は北緯31度35分で、カイロの緯度(30度2分)とそれほど違わない。沖縄県の那覇は26度12分、石垣島は24度20分である。ドーハは25度18分で、鹿児島より南、那覇と石垣島の中間あたりである。沖縄、特に先島諸島は暑いし、亜熱帯という言葉もあるが、それでも温帯。夏と冬ははっきりしている。カタールも沖縄あたりと同じ緯度なんだから、当然夏と冬があるわけである。

 赤道付近で熱せられた大気が乾燥して中緯度地方に降りてくるから、アフリカの中緯度地方にはサハラ砂漠など乾燥地帯が生じる。同じことがアジアで起きても良いはずだが、アジアでは季節風(モンスーン)の影響が強く、太平洋からの水蒸気をたっぷりと含んだ風が夏に吹き付けるから、夏には雨量が多くなる。それが西アジアと東アジアを分けている。アジアの西からヨーロッパが小麦の粉食、アジアの東が米の粒食になるのも、この雨量の違いによる。
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