尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

藤木久志、シラク、安部讓二等ー2019年9月の訃報

2019年10月05日 22時53分13秒 | 追悼
 9月28日に藤木久志氏が亡くなった。85歳。日本中世史研究者で、立教大学名誉教授。僕は大学で直接聴いているが、非常に魅力的でスリリングな講義だった。今では批判もあるらしい「豊臣平和令」の提唱など専門研究の他、小学館「日本の歴史」の「織田・豊臣政権」(1975)も刺激的だった。僕は近現代史専攻だから、卒論などで直接師事したわけではない。でも研究室が僕の先生(粟屋憲太郎氏)と共同だったし、藤木ゼミの知人もいたから、卒業後もずっと注目していた。

 21世紀になっても新しい中世史像を示し続け、岩波新書の「刀狩り」(2005)を発表した。「飢餓と戦争の戦国を行く」(2001)、「土一揆と城の戦国を行く」(2006)など、多くの一般書が朝日選書から出ている。1995年の「雑兵たちの戦場:中世の傭兵と奴隷狩り」も朝日選書に入っている。これらの一連の研究で、それ以前の「七人の侍」的な素朴な民衆像は一新されたと言えるだろう。僕はそれらの本をそのうち全部まとめて読もうと思って、積んでいたまま訃報を聞くことになった。訃報も写真もなく小さなものだった。いろいろ探して、きちんと書きたいと思っている。

 現役ではない外国首脳の訃報が多かった。一番有名で報道も大きかったのは、フランス大統領を1995年から2007年まで12年間務めたジャック・シラクだろう。9月26日没、86歳。1974年にジスカールデスタン大統領の下で首相を務め、1981年に出馬したが本選に残れず、1988年の大統領選では2期目を目指すミッテランに敗れた。1995年に社会党のジョスパンを破って大統領に当選し、2002年には決選投票に残ったのが国民戦線のマリーヌ・ルペンだったので大勝した。アメリカがイラク戦争を始めたときは最後まで強硬に反対した。「親日家」で日本でも大相撲を観戦したりしたことが大きく報道されたが、それより記憶に残っているのは当選直後に核実験を強行したことだ。南太平洋のムルロア環礁で大気圏内核実験をするなんて時代錯誤も甚だしい。日本でも大反対運動が起こった。
(ジャック・シラク)
 シラクは名声を維持して亡くなったが、そういう政治家ばかりでもない。ジンバブエ独立の父、ロバート・ムガベが9月6日、95歳でシンガポールで亡くなった。2017年に事実上のクーデタで失脚したが、独立の英雄としての栄誉は持ち続けた。ジンバブエの経済は未だ回復しない。2011年のチュニジア・ジャスミン革命で国を追われたジン・アビディン・ベンアリ元大統領が9月19日、83歳でサウジアラビアで亡くなった。1983年以来23年間にわたり強健的な支配を行った。インドネシアの第3代大統領ユスフ・ハビビが9月11日に死去、83歳。元々航空機エンジニアで、ドイツのメッサーシュミットの副社長まで務めた。故国に戻って政治家になり、1998年3月にスハルトが7選されたときに副大統領に就任した。しかし、直後の5月に反対運動が高まりスハルトが退陣、憲法の規定でハビビが昇格した。
  (順にムガベ、ベンアリ、ハビビ)
 スポーツ界では、元阪神タイガースの投手として活躍したジーン・バッキーが9月14日、82歳。いやあ、バッキーか。バッキーの名前を知ってるかは世代の指標かも。1962年から1969年の選手生活だから、還暦以上じゃないと判らない。阪神の投手と言えば村山だが、64年の優勝時には29勝9敗で、外国人初の沢村賞受賞。65年に巨人戦でノーヒットノーランを達成している。通算成績100勝80敗。1972年札幌冬季五輪70メートル級ジャンプの銀メダリスト金野昭次(こんの・しょうじ)が9月5日死去、75歳。金が笠谷、銅が青地で日本がメダルを独占した。大相撲の元関脇・逆鉾(さかほこ)、井筒親方が9月16日死去、58歳。殊勲賞5回、技能賞4回の相撲巧者で、兄の鶴嶺山、弟の寺尾とともに三兄弟で活躍した。しかし、80年代は相撲を見てないので、バッキーを知ってる僕としては逆鉾の父親である鶴ヶ嶺(つるがみね)の方が思い出にある。
  (順にバッキー、金野、井筒親方)
 若い頃からソプラノ歌手として人気があった佐藤しのぶが9月29日に死去、61歳。80年代には紅白歌合戦に連続出場するなど一般的にも知られていた。世界的ソプラノ歌手のジェシー・ノーマンが9月30日死去、74歳。レーガン。クリントンの就任式、アトランタ五輪開会式で歌った国民的歌手だという。どちらもオペラ界に止まらない人気を得た歌手だった。
 
 作家安部讓二(あべ・じょうじ)が9月2日に死去、82歳。86年の「塀の中の懲りない面々」がベストセラーになった。自身の服役体験を書いたものだが、市立麻布中時代に暴力団に加わって、組員の傍ら23歳で日本航空の客室乗務員になった。三島由紀夫「複雑な彼」のモデルだが、破天荒な生き方ができる時代だったということか。そう言えば最近は活躍していなかった。

ラドミル・エリシュカ、1日死去、88歳。チェコの指揮者で、N響、読響などでドボルザークやスメタナを指揮した。
長谷川慶太郎、3日死去、91歳。経済評論家。
ロバート・フランク、9日死去、94歳。写真家 
史明、20日死去、100歳。台湾独立運動家。
茂山千作(しげやま・せんさく)、21日死去、74歳。大蔵流狂言師。
パウル・バドゥラスコダ、25日死去、91歳。ピアニスト。
アレクセイ・キリチェンコ、25日死去、82歳。ロシアの歴史家で日本を研究。日本人のシベリア抑留を調査し、死亡者名簿の引き渡しなどに尽力した。
室井光広(むろい・みつひろ)、27日死去、64歳。作家、評論家。94年に「おどるでく」で芥川賞。
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