新作映画がたまってしまったので、ここしばらく一生懸命見ている。今日は国会で強行採決、そっちの話に戻りたいんだけど、是枝裕和監督の「海街diary」があまりに素晴らしかったので、書いておきたい。猛暑の中、国会よりもまず教科書図書館(江東区千石)に行かないといけない。そこからバスで10分ほどで錦糸町に出られるから、夕方に見たわけである。教科書の方は少し後に書く予定。

吉田秋生の人気漫画を、是枝裕和が脚色、監督。綾瀬はるかや長澤まさみが出ていて、今年のカンヌ映画祭コンペティションに選ばれた…。ということは映画ファンには周知のことだから、放っておいてもみんな見ると思うし、現にヒットしている。是枝監督作品は今までほとんど見ているが、観客を居心地悪くさせるような作品の方が出来がいい傾向がある。今回は人気女優が4姉妹を演じて、鎌倉で美しく撮影した映画だということだから、書かなくてもいいんじゃないかと予想して見始めた。しかし、予想以上の素晴らしい出来映えにビックリした。何よりも監督の手腕である。脚本と編集も監督が手掛けていて、全体のリズムが心地よい。アップして欲しいところでカメラは俳優を大写しする。ロングで全体を見たいと思う時に、画面はさっとロングショットに変わる。この絶妙なさじ加減には感嘆するしかない。
話は何となく知っている人が多いのではないかと思う。鎌倉に住む三姉妹が、かつて母を捨てた父が死んで残された異母妹を引き取る。この4人姉妹の物語。と言えば、「若草物語」であり「細雪」を思い出すが、この映画及び原作の眼目は「異母妹」という「他者」を抱え込んだことにより見えてくる、そして変容していく、「居場所を求める物語」である。異母妹すず(広瀬すず)は「とてもいい子」で、葬儀に来た異母姉を迎える冒頭の場面(山形県の温泉という設定)から非常に礼儀正しい。実母(三姉妹から「父を奪った不倫相手」)はすでに亡くなり、父の三人目の妻と連れ子と暮らしてきた。父の看病もすずがやってきたらしい。だから、「血のつながらない」義母や義弟と暮らすより、鎌倉に来て一緒に住まないと姉たちが誘うのも違和感がない。転校してもいじめられず、サッカーで活躍してなじんでいく。ありえないような展開に見えてしまうが…。
世の中には「悪い人」もいるけれど、多くは「良い人だけど、いろいろ抱えている人」だろう。だから、上の三姉妹が異母妹を受け入れ、異母妹が頑張るのも、まあありえないと言うほどでもない。大体、遺伝子が半分共通しているんだから、上の三姉妹と容貌も性格もかけ離れている方がおかしい。そうなんだけど、多少出来過ぎ感のある物語を支えているのは、鎌倉の家の素晴らしさである。江ノ電や七里ヶ浜は事前に判るけど、実際に建てられている2階建ての古びた大きな家がなかったら、この映画は成立しなかった。いまどき部屋の鍵もない家、かつて父母が住み、父が他の女性のもとに去り、その後母も再婚して去った家。長女幸(綾瀬はるか)、次女佳乃(長澤まさみ)、三女千佳(夏帆)が住んでいる家。そこに妹すずが加わるわけである。広瀬すずは、役名と名前が同じ。運命的と言うべき名演で、いつもの是枝作品の子役のように台本を事前に見ずに当日に口伝てで伝えられたという。
思えば、是枝作品は「見捨てられた子どもたち」を多く描いてきた。今回も豪華女優共演に隠れているが、異母妹すずだけでなく、上の三姉妹も実は「見捨てられた子どもたち」だった。だから、父親にも、母親にも言いたいことがいっぱいある。すずは自分の母が「姉たちの家庭」を崩してしまった元凶であって、その間に生まれた自分は「罪の子」であるかのような意識を、姉たちに表立っては言わないが、実はずっと持っていることがだんだん判ってくる。だけど、「不倫した母は悪い」と言ってしまうと、実は長女も妻のある男と恋愛している。それを思うと、男と酒にだらしない感じの次女の方がすっきりしているのか。そこら辺をうまく「末っ子」として自在につないできた三女が自然な様子で共同生活を支えている。そんな「思いやり」の底にあるものが判ってくると、四季の移り変わりの中に大きなドラマを描いた物語が見えてくる。その意味で、小津や成瀬の映画に連なる日本映画の達成と言える。
桜のトンネルを自転車で通るすずとクラスメイトの男子。庭の梅を取って皆で梅酒を作るシーン。夏の花火大会をそれぞれが見るシーン。最後の庭で浴衣姿で花火をするシーン。季節感あふれる名シーンの数々に酔いしれながら、4人姉妹は成長し、居場所を見つけていく。華やかな外見の裏に、生まれてきた生への讃歌を描く名作である。では「きみはいい子」とどっちがいいのか。これは難しい。もっと大変な重い現実を見つめる「きみはいい子」の世界から逃げてはいけない。「海街diary」を見た人には、ぜひ「きみはいい子」も見て欲しいと思う。だけど、うまい役者と名場面で作り上げた「海街…」の魅力こそ、映画を見る醍醐味なんだと思う。若い映画ファンには、俳優で見るだけでなく、編集のリズムの素晴らしさをよく見て欲しいと思う。助演も素晴らしく、大叔母の樹木希林(最近出過ぎではないですか、大丈夫かなあ」、母親の大竹しのぶ、長女の相手の堤真一、次女の上司加瀬亮、近所の食堂の風吹ジュン、カフェの主人リリー・フランキーなど超豪華助演陣を楽しめる。皆うまい。
鎌倉の名場面のあちこちはいうまでもない。検索すればすぐ判るし、行きたくなってしまう。鎌倉が出てくる映画は非常に多く、2回作られた「千羽鶴」、成瀬の「山の音」、小津の「晩春」や「麦秋」、立原正秋原作の「情炎」(吉田喜重)や「辻が花」(中村登)などなど思いつくが、今までは何と言っても鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」が最高だったと思う。だけど、今後はまずこの映画になるのかもしれない。冒頭の山形県河鹿沢温泉と言う温泉は実在せず、鉄道はわたらせ渓谷鉄道、駅は足尾駅だという。温泉旅館は岩手県の鉛温泉藤三旅館だとある。ここは名湯で、泉質がとてもいい。田宮虎彦の「銀温泉」の舞台で、新藤兼人監督の映画に往時の様子が留められている。


吉田秋生の人気漫画を、是枝裕和が脚色、監督。綾瀬はるかや長澤まさみが出ていて、今年のカンヌ映画祭コンペティションに選ばれた…。ということは映画ファンには周知のことだから、放っておいてもみんな見ると思うし、現にヒットしている。是枝監督作品は今までほとんど見ているが、観客を居心地悪くさせるような作品の方が出来がいい傾向がある。今回は人気女優が4姉妹を演じて、鎌倉で美しく撮影した映画だということだから、書かなくてもいいんじゃないかと予想して見始めた。しかし、予想以上の素晴らしい出来映えにビックリした。何よりも監督の手腕である。脚本と編集も監督が手掛けていて、全体のリズムが心地よい。アップして欲しいところでカメラは俳優を大写しする。ロングで全体を見たいと思う時に、画面はさっとロングショットに変わる。この絶妙なさじ加減には感嘆するしかない。
話は何となく知っている人が多いのではないかと思う。鎌倉に住む三姉妹が、かつて母を捨てた父が死んで残された異母妹を引き取る。この4人姉妹の物語。と言えば、「若草物語」であり「細雪」を思い出すが、この映画及び原作の眼目は「異母妹」という「他者」を抱え込んだことにより見えてくる、そして変容していく、「居場所を求める物語」である。異母妹すず(広瀬すず)は「とてもいい子」で、葬儀に来た異母姉を迎える冒頭の場面(山形県の温泉という設定)から非常に礼儀正しい。実母(三姉妹から「父を奪った不倫相手」)はすでに亡くなり、父の三人目の妻と連れ子と暮らしてきた。父の看病もすずがやってきたらしい。だから、「血のつながらない」義母や義弟と暮らすより、鎌倉に来て一緒に住まないと姉たちが誘うのも違和感がない。転校してもいじめられず、サッカーで活躍してなじんでいく。ありえないような展開に見えてしまうが…。
世の中には「悪い人」もいるけれど、多くは「良い人だけど、いろいろ抱えている人」だろう。だから、上の三姉妹が異母妹を受け入れ、異母妹が頑張るのも、まあありえないと言うほどでもない。大体、遺伝子が半分共通しているんだから、上の三姉妹と容貌も性格もかけ離れている方がおかしい。そうなんだけど、多少出来過ぎ感のある物語を支えているのは、鎌倉の家の素晴らしさである。江ノ電や七里ヶ浜は事前に判るけど、実際に建てられている2階建ての古びた大きな家がなかったら、この映画は成立しなかった。いまどき部屋の鍵もない家、かつて父母が住み、父が他の女性のもとに去り、その後母も再婚して去った家。長女幸(綾瀬はるか)、次女佳乃(長澤まさみ)、三女千佳(夏帆)が住んでいる家。そこに妹すずが加わるわけである。広瀬すずは、役名と名前が同じ。運命的と言うべき名演で、いつもの是枝作品の子役のように台本を事前に見ずに当日に口伝てで伝えられたという。
思えば、是枝作品は「見捨てられた子どもたち」を多く描いてきた。今回も豪華女優共演に隠れているが、異母妹すずだけでなく、上の三姉妹も実は「見捨てられた子どもたち」だった。だから、父親にも、母親にも言いたいことがいっぱいある。すずは自分の母が「姉たちの家庭」を崩してしまった元凶であって、その間に生まれた自分は「罪の子」であるかのような意識を、姉たちに表立っては言わないが、実はずっと持っていることがだんだん判ってくる。だけど、「不倫した母は悪い」と言ってしまうと、実は長女も妻のある男と恋愛している。それを思うと、男と酒にだらしない感じの次女の方がすっきりしているのか。そこら辺をうまく「末っ子」として自在につないできた三女が自然な様子で共同生活を支えている。そんな「思いやり」の底にあるものが判ってくると、四季の移り変わりの中に大きなドラマを描いた物語が見えてくる。その意味で、小津や成瀬の映画に連なる日本映画の達成と言える。
桜のトンネルを自転車で通るすずとクラスメイトの男子。庭の梅を取って皆で梅酒を作るシーン。夏の花火大会をそれぞれが見るシーン。最後の庭で浴衣姿で花火をするシーン。季節感あふれる名シーンの数々に酔いしれながら、4人姉妹は成長し、居場所を見つけていく。華やかな外見の裏に、生まれてきた生への讃歌を描く名作である。では「きみはいい子」とどっちがいいのか。これは難しい。もっと大変な重い現実を見つめる「きみはいい子」の世界から逃げてはいけない。「海街diary」を見た人には、ぜひ「きみはいい子」も見て欲しいと思う。だけど、うまい役者と名場面で作り上げた「海街…」の魅力こそ、映画を見る醍醐味なんだと思う。若い映画ファンには、俳優で見るだけでなく、編集のリズムの素晴らしさをよく見て欲しいと思う。助演も素晴らしく、大叔母の樹木希林(最近出過ぎではないですか、大丈夫かなあ」、母親の大竹しのぶ、長女の相手の堤真一、次女の上司加瀬亮、近所の食堂の風吹ジュン、カフェの主人リリー・フランキーなど超豪華助演陣を楽しめる。皆うまい。
鎌倉の名場面のあちこちはいうまでもない。検索すればすぐ判るし、行きたくなってしまう。鎌倉が出てくる映画は非常に多く、2回作られた「千羽鶴」、成瀬の「山の音」、小津の「晩春」や「麦秋」、立原正秋原作の「情炎」(吉田喜重)や「辻が花」(中村登)などなど思いつくが、今までは何と言っても鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」が最高だったと思う。だけど、今後はまずこの映画になるのかもしれない。冒頭の山形県河鹿沢温泉と言う温泉は実在せず、鉄道はわたらせ渓谷鉄道、駅は足尾駅だという。温泉旅館は岩手県の鉛温泉藤三旅館だとある。ここは名湯で、泉質がとてもいい。田宮虎彦の「銀温泉」の舞台で、新藤兼人監督の映画に往時の様子が留められている。