尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「母の戸籍」を探すミッションー戸籍制度考③

2023年08月21日 22時43分19秒 | 自分の話&日記
 経済評論家の森永卓郎氏に『相続地獄』(光文社新書、2021)という本がある。僕はこの人の本を読んだことはないが、これは一応読んでおけばと言われて読んでみた。今回の事態の大分前である。森永氏の父親は毎日新聞の記者で、内外各地への転勤が多かった。その父親が入院し、やがて亡くなった後の「相続手続きがいかに大変だったか」を書き記した本である。強く印象に残るのは、「貸金庫」の面倒さと戸籍取得の大変さである。これは全く僕も同感で、いま大変な思いをしている。

 特に「貸金庫」というのは、ビジネスとして果たして存在する意味があるんだろうか。僕の母親も実は使っていた。よほど大金持ちなのかというと、もちろんそんなことはない。地震や火事が心配と言い出せば、それは否定出来ない。重要な書類は預けておいた方が良いかも…と考える人はいるだろう。元気なときは自分で出掛けて契約するからいいけど、問題は病気になった時。本人が行かないと開けられないのである。森永氏も車いすの父親を連れて行って、階段しかなくて持ち上げた苦労をした挙げ句、大したものは入ってなかった。僕も銀行に問い合わせたが、生前に開けることは断念した。没後もまだ開けられていない。もちろん、そこに金の延べ棒なんかを隠している人がいて、相続人を名乗る人が勝手に持って行ったら大変なんだけど。

 ところで、その時に要求される書類に、被相続人(死んだ人)の戸籍謄本がある。それも「16歳以後のすべて」が求められる。「相続人」(普通は配偶者や子ども)の側の戸籍謄本もいるが、それは理解出来る。今はマイナンバーカードで取得出来なくなった(一時ストップ)ところが多いらしいが、それでも本籍地に行くか、郵送で依頼することが出来る。(本籍地の役所のホームページを見ると、戸籍郵送依頼書の書式があることが多い。)しかし、森永氏の父は転勤に伴って引っ越しするたびに戸籍を移していた。海外勤務もあったようで、いつでも戸籍謄本を取りやすくしておきたかったんだろう。
(普通の戸籍謄本=見本)
 今書いたように「戸籍を移せる」(転籍)ことを知らない人がいるかもしれない。実は簡単に「転籍」出来る。今の住所に移せば、戸籍謄本などを取る時に簡単になる。また移す先は現住所でなくても可能で、日本国内ならどこでも良い。だから「東京都千代田区千代田一番地」に移す人もいるらしい。皇居である。他にも富士山頂とか、北方領土の国後島なんかにも移せる。日本国の法制上は「国内」だから。だけど、そんなことをしても、謄本を取るとき面倒くさいだけだろう。また、結婚や養子縁組などがなくても、自分ひとりだけ家族の戸籍から分かれる「分籍」という制度もある。
(昔の戸籍=見本)
 ところで、「16歳以後」となると、もうこれは「どこにあるか」の探索から始めなくてはならない。もちろんマイナンバーカードでは取れない。上記見本のように、そもそも読めないような字でビッシリ書かれた大昔の戸籍なのである。これは「除籍謄本」となり、手数料は750円もする。(自分の戸籍謄本を取る際は450円。)まず、生前の戸籍を取って、そこからさかのぼるしかない。普通は結婚前の母親の戸籍のことなど、気にしたことはないだろう。日本では夫婦同姓で、事実上多くの場合は夫の姓を名乗る。だから、母の戸籍は父の戸籍に入っている。そういうことが多く、わが家の場合も同様で、まず筆頭者が父親(故人)の戸籍を取った。

 そこから少し迷走したのだが、父親の戸籍を見ると、結婚相手である母親の情報が書かれていた。そこにまず「福島県」とあった。だから僕は母の戸籍は福島県にあるのかと思ってしまった。母には結婚前の「旧姓」がある。ほとんどの人はそれを知ってるだろう。母親に連れられて、母の実家に住む(母方の)祖父母に会いに行ったことがあるはずだ。その母親の実家に戸籍があるんだろうと思ったわけである。母親からは福島県の浜通りに子どもの頃よく行ったと聞いていた。一度は福島県某市に請求を送ったのだが、そこにはないと電話があった。そこは「母の実家」ではなく、「母の母の実家」だったのである。僕の勘違いである。

 女性が子どもを産む時に、自分の実家に戻って出産することがよくある。それは一般常識として誰でも知ってるだろう。母の出生地が福島県という戸籍の記載を見て、僕はうっかり母の実家がそこにあったのかと思ったのである。しかし、よくよく考えてみれば「母の母」(祖母)が実家に戻って、子ども(僕の母親)を産んだのである。そこは(僕からすれば)祖母の実家だった。この母方の祖母は僕が生まれる前に死んでいるので、今回まで名前も知らなかった。ちょっと細かい話になってるけど、要するに僕の母方の祖父の戸籍がどこにあるかという問題だったのである。

 それは父親の戸籍をじっくり見つめていると(昔の字体で詰めて書かれているので読みにくいが)、そこの最後の方に小さく書いてあった。何でこの話を書いたかというと、これから相続がある人に、親の情報だけでなく祖父母の情報も聞いておかないと困ると伝えたいのである。なお、なんで「16歳以後」なのか。2023年4月1日に変更されるまで「女性の結婚可能年齢は16歳」だったからだろう。別の結婚があって、他に相続対象となる子どもがいないかを確認するわけである。15歳未満で出産してたらどうなる? その場合は結婚出来ないので、父親(僕からすれば祖父)の戸籍に記載されるから、除籍謄本で判明するわけだ。

 現代では離婚・再婚も多くなり、国際結婚、国外移住も増えているから、今後はどんどん相続のための書類集めが大変になるだろう。僕の母親の世代は、戦争や結核で多くの犠牲を出したが、それを乗り切った人には戦後の「解放」が待っていた。そして、高度成長と壮年期が重なり、それなりの財産を残せた人が多いのではないか。自分の家の場合、「父は終身雇用の会社員、母は専業主婦、子どもは二人」というちょっと前までの日本政府が考えていた「標準モデル世帯」そのものだった。だから、相続事務は世の中では簡単な方だと思う。それでも大変だなあと思うわけだから、「終活」は大事である。
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