尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

インド、「世界最大の民主主義国」は「厄介な大国」になったのか

2024年02月27日 22時11分48秒 |  〃  (国際問題)
 国際情勢を書く時は、つい現時点で大きな動きがある地域を中心に考えることが多い。それと「超大国」で日本にとって死活的重要性があるアメリカ中国について書くこともある。だが、それでは見落としが出て来る。自分が特に関心がある東南アジアについて書きたいと思っているんだけど、数回かかりそうで時間が取れない。今回は単発でインドについて考えてみたい。

 2024年は国際的に「スーパー選挙年」と言われている。アメリカロシアの大統領選がある。人口世界4位の巨大国家インドネシアの大統領選はすでに実施された。そしてインドの国会議員選挙も4月から5月に行われる予定である。インドはイギリスや日本と同じ議院内閣制の国で、名目上の大統領がいるが政治の実権は首相が握っている。

 インドで「国民会議派」のネルー=ガンディー一族がずっと首相を務めていたのはずいぶん昔の話だ。インド独立の英雄、ジャワハルラル・ネルーは建国の1947年から死亡した1964年まで、娘のインディラ・ガンディーは1966~1977、1980~1984年に首相を務めた。インディラ暗殺後は長男のラジブ・ガンディーも1984~1989年まで首相を務めた。だが、その後の35年間で国民会議派はナラシンハ・ラオ(91~96)、マンモハン・シン(04~09)の10年間しか政権に付けていない。

 近年は「インド人民党」(それ以前はジャナタ・ダル)という右翼政党が選挙に勝つのである。この政党は「インド独立の父」であるマハトマ・ガンディーを暗殺したナトラム・ゴドセが所属していた「民族義勇団」が源流になっている。ヒンドゥー至上主義を唱え、ガンディーがインド分裂を避けるためイスラム勢力に妥協するのを嫌って暗殺した。現首相のナレンドラ・モディ(1950~)も若い頃に民族義勇団に所属していた。
(2019年に選挙に勝利したモディ首相)
 インドの下院は小選挙区制の543議席で、そのうち2019年の総選挙ではインド人民党が303議席と圧勝した。(2014年は282議席。)国民会議派はわずか52議席の小政党になってしまった。その他地方政党も多いが、与党は328議席、野党は214議席となっている。上院は与党が少数らしいが、首相指名は下院の権限である。経済発展とイデオロギー的支持があいまって、今年の総選挙も与党有利でモディ首相が再選されると想定されている。(インドの首相に任期の制限はない。)
(インドと中国の人口)
 インドの国際的影響力はここ数年で格段に上昇している。政治的、経済的、文化的にインドの話が取り上げられることが多くなっている。人口は2023年に中国を抜いて世界1位の14億2860万人になったとされる。中国は14億2570万人という。この人口爆発は今後地政学的に大きな影響を与えると思われる。ただインドの発展が良い方向にばかり進んでいるのかという声も聞こえてくる。東京新聞は2月18日に「週のはじめに考える インドは民主主義国か」という長い社説を掲載した。少し抜粋すると、

「最大の問題はモディ政権の「ヒンズー至上主義」への傾斜です。国民の8割を占めるヒンズー教徒の優遇政策が露骨で、少数派のイスラム教徒は苦境にあります。最近、インド北部のアヨドヤで、モスク(イスラム教の礼拝所)の跡地に大規模なヒンズー教寺院が建立されました。1月の落成式に出席したモディ首相は「何千年たっても人々はこの日を忘れないだろう」と熱っぽく語りました。」

「メディアや野党への弾圧姿勢も目立ちます。ジャーナリスト、パラグミ・サイナート氏は、月刊誌「中央公論」1月号の対談の中で「批判すれば家宅捜索や収監という惨憺(さんたん)たる状況だ」と証言。政権に批判的な番組を放送した英BBCも現地拠点が家宅捜索を受けました。インドは国際NGO「国境なき記者団」の世界報道自由度ランキングで02年には80位でしたが、23年は161位と、かつての見る影もありません。」

 このような人権状況への懸念が最近は聞かれるようになったのである。日本ではまだ大きく報道されることは少ないが、かつての「少数への寛容」は消え去り、民族主義的な主張が強くなっている。自国文化に反する(と考える)外国文化の受容が制限され、保守的な風潮が強まっている。これはロシアのプーチン、トルコのエルドアン、日本の安倍晋三などと共通性のある政治姿勢だ。

 インド映画も最近はよく公開されるようになったが、今も上映が続く大人気ヒット作『RRR』なども、モディ時代を象徴するかのようなヒンドゥー至上主義的な歴史観で作られていた。日本では面白いということで評判になって(確かに面白いけれど)、歴史改変的な反英運動を大々的に描いている。韓国映画や中国映画にも自国中心に歴史を書き換えたような映画はあるが、インドもそうなってきたのかもしれない。何しろ独立運動の中心だったはずの国民会議派やガンディーは全く消されているのである。
(『RRR』)
 インドは領土問題を抱えているので、中国の友好国にはなれない。その点で、米日豪と「中国包囲網」的な関係を築いている。しかし、インドが果たして「民主主義国」なのかと問う先の社説が出て来るだけの理由がある。確かに普通選挙がある点で中国よりは「民主的」かもしれないが、今後のインドがどうなっていくは要注意だ。ロシアとは友好関係を続けていて、ロシア産原油がインドを通じて世界に輸出されているらしい。ロシアを経済的に支えつつ、アメリカと協力するという「ぬえ」のような、「厄介な大国」になってきたかもしれない。日本はインドの中に少数派の声を世界に届ける役割を果たすべきだと思う。

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