尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ナワリヌイ氏獄死、世界にプーチン政権の恐怖を証した

2024年02月17日 20時36分59秒 |  〃  (国際問題)
 ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ(1976~2024)が北極圏の刑務所で獄中死した。47歳。16日に刑務所当局から公表され、世界に衝撃を与えている。各国のリーダーから強い非難が寄せられているが、例によって日本の首相官邸は何のメッセージも発信していない。12月に所在不明が伝えられ、結局北極圏の刑務所に移管されていたと判明したときに、プーチンはナワリヌイを殺す気なんじゃないかと直感した。しかし、3月の大統領選の前にも獄死の報が届くとは想定していなかった。
(ナワリヌイ氏の写真)
 ナワリヌイ氏は2020年に謎の毒物中毒(確実にプーチン政権によるものだろう)にかかり、その後ドイツに出国が認められ治療が行われた。2021年1月に帰国したが、そのまま拘束され、2022年に裁判で懲役9年が宣告された。2023年にはさらに過激派組織を設立したとして懲役19年が宣告されていた。それにしても死刑や無期じゃないんだから、刑務所当局には彼を生かしておく責任がある。それが「ロシアが法治国家である」と国際的に弁明する条件なんだから、通常の独裁政権だったらナワリヌイ氏を北極圏の刑務所に送ったりしない。つまり、プーチン政権は通常の独裁政権ではない
(ナワリヌイ氏の妻はプーチンを非難する)
 日本の入管で入所者が死亡すれば、入管当局に責任があると我々は批判する。同じように、ナワリヌイ氏が拘束中に死亡した以上、ナワリヌイ氏の死はロシア当局の責任である。ただ、それが「業務上過失致死」なのか「殺人」なのかは今の段階では判別できない。当局側から「血栓」という報道がなされているが、信用することはできない。遺体はそのまま国外にいる家族のもとに送られなければならない。そして信用できる外国医療機関によって死因調査が行われなくてはならない。それなくしてロシア当局の言い分を信用することは不可能だ。ロシア当局が勝手に遺体を火葬することが懸念される。
(追悼する人々)
 2023年8月には民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が乗った飛行機が墜落するという出来事が起こった。以前からプーチン政権に反対した人々が「怪死」する事件が相次いでいた。その果てに起こったのが「ウクライナ侵攻」である。今までの出来事を見てくると、たまたまプリゴジンの飛行機が墜落したとか、たまたまナワリヌイに血栓があったなどと僕は信じることはできない。普通の独裁政権ならば、今は大統領選挙を控えている以上、もちろんその「大統領選挙」なるものが反対派を排除した茶番であるとしても、その直前に「最大の政敵」が亡くなる事態は絶対に避けたいはずだ。

 僕はこの事態に「プーチンその人の恐るべき残虐さ」を感じてしまう。だからこそ、あのような残虐な戦争をチェチェンで、シリアで、ウクライナで起こせるのである。プーチン政権と交渉して戦争を止められるとか、(はたまた「北方領土」が戻って来るとか)、一切の幻想を持ってはならないと認識するべきだ。まさに「ロシア帝国主義者」として、ゆるぎなくかつてのロシア領土の「回復」を目論んでいると見るべきだ。それこそが「偉大なリーダー」に課せられた歴史的使命と確信しているに違いない。
(映画『ナワリヌイ』)
 ナワリヌイ氏自身はもともと極右的ナショナリストだった過去がある。2014年の「クリミア奪取」も当時は支持していた。2022年に始まったウクライナ戦争には反対を(獄中から)表明したし、近年は同性婚に賛成するなどリベラル化したとも言われてる。しかし、そういう問題は本質ではない。ナワリヌイ氏の政治的主張がどのようなものであれ、猛毒で殺されるいわれはない。そして、紛れもなく彼は政権に暗殺されかけた。それは映画『ナワリヌイ』を見れば判る。2022年度の米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画である。映画として面白いし、優れている。(上映は終了しているが、ホームページで予告編は見られる。アマゾンプライムビデオで配信されている。)

 「直接命令」なのか、「忖度」なのか、それとも「未必の故意」なのかは判らないけれど、ナワリヌイ氏は「プーチンに殺された政治家」として歴史に残るだろう。プーチンのもとで、ロシアがここまで恐ろしい国になってしまったことに愕然とする。

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