尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ジンネマン監督の「結婚式のメンバー」(1952年)を見る

2022年01月03日 22時14分42秒 |  〃  (旧作外国映画)
 シネマヴェーラ渋谷で「Strangers in Hollywood 1」という特集をやっていて、ヨーロッパ生まれでアメリカに渡った3人の監督、ダグラス・サークロバート・シオドマクフレッド・ジンネマンの初期作品を上映している。全部見るわけにもいかないけど、僕は40年代、50年代ハリウッドのB級犯罪映画やメロドラマが大好きなので、いろいろと楽しんで見ている。今日はフレッド・ジンネマン監督「結婚式のメンバー」(The Member of the Wedding)を見に行った。これは日本未公開なので貴重である。

 名前で判る人もいると思うが、これはカーソン・マッカラーズ原作の映画化である。近年村上春樹の新訳が新潮文庫から刊行されている。そのことは「村上柴田翻訳堂①-村上春樹の本をちょっと①」(2016.11.17)で書いた。原作は1946年に刊行され、その後舞台化されて評判になったらしく、それが1952年に映画化された。フレッド・ジンネマン監督としては「真昼の決闘」(1952)と「地上(ここ)より永遠(とわ)に」(1953)の間に作られた作品。「真昼の決闘」と「地上より永遠に」は映画ファンなら皆が知る作品だが、その間にこんな文芸名作の佳品を作っていたとは知らなかった。
(村上春樹訳「結婚式のメンバー」)
 この小説はアメリカ南部(原作者の生まれたジョージア州あたり?)の蒸し暑いひと夏、ある小さな町に住む12歳のフランキージュリー・ハリス)を描いている。かなりエキセントリックなフランキーは、母はすでに亡く父も忙しくて相手にしてくれない。故郷に居場所がないフランキーは、もうすぐある兄の結婚式後の一緒に家出しようとしている。近くの基地で従軍している兄ジャービスは、優しいジャニスと結ばれた。まさか新婚旅行に妹が付いていくなんてあるわけないと周囲は頭から思っているが、まだ子どものフランキーはひたすら脱出の機会を待ち望んでいる。兄夫婦に憧れて、名前も「ジャスミン」と変えたいぐらい。
(フランキー役のジュリー・ハリス)
 フランキーの日常は優しい家政婦のベレニス(エセル・ウォーターズ)と幼い従兄弟のジョン・ヘンリー(ブランドン・デ・ワイルド)と遊ぶだけ。黒人のベレニスは自分の家に問題がある。フランキーの相手をしてくれるけど、本気で家出をするつもりの思春期の悩みは判らない。そして兄の結婚式が終わって、フランキーはハネムーンの車に乗り込んで待っているが、皆が力ずくで追い出してしまう。夜になって一人家出したフランキーだったが、酔った男にからまれる。やむなく自宅へ戻るとジョン・ヘンリーが突然危篤になっていた。こうしてひと夏の冒険が不発に終わったフランキーは大人に近づいて行くのだった。

 加島祥造訳では「夏の黄昏」と題されていた。そのような南部の夏の黄昏に、少女期の心の揺らぎ印象的に描いている。フランキー役のジュリー・ハリスは舞台でも演じて評判になったという。この映画ではすでに25歳を越えていたが少女の雰囲気を出している。この映画でなんとアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。舞台女優としてトニー賞を5回の受賞しているが、映画「エデンの東」で兄の恋人でありながら弟のジェームス・ディーンに惹かれていくアブラを演じた人だった。小さなジョン・ヘンリーを演じたブランドン・デ・ワイルドも劇で同役をやって評判になり映画に出演した。ゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞している。この人は「シェーン」のジョーイ少年、「シェーン、カムバック」と叫んだ少年である。でも「エデンの東」も「シェーン」も判らずに見た。

 ベレニス役のエセル・ウォーターズはまず歌手として有名になった人で戦前から有名だったらしい。やはり舞台版「結婚式のメンバー」からやっていて、やけに3人のアンサンブルがいいと思ったのも理由があった。カーソン・マッカラーズ原作では最近村上春樹訳が出た「心は孤独な狩人」の映画化「愛すれど心さびしく」(1968)も見てみたいものだ。フレッド・ジンネマン監督は同時代で見た「ジャッカルの日」「ジュリア」が思い出される。今回初期作品をいろいろと見てB級時代のノワール映画が面白いのに驚いた。また戦時中に作られた反ナチス映画、アンナ・ゼーガース原作の「第七の十字架」は以前に見て紹介したことがある。「結婚式のメンバー」は今後3連休を含めて6回の上映がある。古い映画やアメリカ文学に関心がある人向けに紹介した次第。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米澤穂信「黒牢城」、戦国大... | トップ | 集英社新書「安倍晋三と菅直... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

 〃  (旧作外国映画)」カテゴリの最新記事