尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』、スコセッシ監督の超大作

2023年12月23日 22時16分59秒 |  〃  (新作外国映画)
 マーティン・スコセッシ監督の超大作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を見て来た。もう東京のロードショー上映は終わっているが、柏のキネマ旬報シアターでやってるから見に行ったのである。レオナルド・ディカプリオロバート・デ・ニーロとスコセッシ作品おなじみの俳優が大熱演している。でも、なんと206分という長さが困る。まあ、アメリカ先住民の悲劇を描く大叙事詩だし、ゴールデングローブ賞で作品、監督、脚本、男女主演俳優、助演男優にノミネートされた。やはり見ておくべきか。

 アーネスト・バークハートレオナルド・ディカプリオ)という青年が第一次世界大戦から帰還してきた。彼はおじウィリアム・ヘイルロバート・デ・ニーロ)を頼って、オクラホマ州オーセージ郡にやってきた。(映画には「オセージ」と出るが、Wikipediaでは「オーセージ」じゃないと出てこない。)そこは先住民のオーセージ族の居留地だが、彼らは地下資源の権利を持っていたのである。1897年に初めて石油が出て、その後いろんな経緯があったらしいが、とにかく1920年代には先住民が非常に裕福となり、貧しい白人労働者が働くという全米的に見れば逆転した状況になっていたのである。
(ウィリアムとアーネスト)
 おじは自らを「キング」と呼ばせ、この地区の有力者になっていた。急速に金持ちになった先住民の中には、酒に溺れたり糖尿病など「生活習慣病」になる人が多かった。そこで白人たちが「後見人」となって、お金を管理していた。裕福な先住民の女性と結婚する白人もいて、アーネストも運転手として知り合った先住民のモーリーリリー・グラッドストーン)と親しくなっていく。リリー・グラッドストーンは先住民の血を引く女優だが、19世紀のイギリス首相グラッドストーンの遠い親戚でもあるという。ケリー・ライカート監督『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』で知られたというが、鮮烈な存在感を発揮している。
(アーネストとリリー)
 二人は結婚し子どもも生まれるが、その頃からリリーの周辺で不可解な事件が起きてくる。リリーの妹はすでに亡くなり、その次に姉が殺される。それらの事件は地元警察には手が余り解決の兆しがない。このような事件は現実に起こったもので、「オーセージ族連続怪死事件」の犠牲者は60人にもなるという。リリーの糖尿病も悪化し、世界で5人しか使えないというインスリンを取り寄せていた。だが、ちっとも効果が出ないことに、苛立ちを強めていく。疑心暗鬼が渦巻く中で爆発事件がおき、部族協議会はワシントンに使節を送ることを決める。そして後のFBIにあたる司法省捜査局がやって来たのである。
(アーネストとリリー)
 その後は法廷ミステリー的な展開になるので、書かないことにする。この事件を日本で知る人は少ないだろう。デヴィッド・クラン『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』というノンフィクション作品が原作である。日本でも早川書房から翻訳が出ている。原書は2017年に出てベストセラーになったという。邦訳は翌年に出ているが、読むどころか知っている人も珍しいと思う。自分も全く知らなかった。そもそもオクラホマ州は本来先住民のための地区だった歴史があり、オーセージ族以外にも多くの居留地がある。現在は先住民に特別に認可されているカジノが多い地域になっているようだ。「花殺し月」というのは先住民の暦で5月を指す言葉だという。4月にお花畑が咲き誇り、5月に枯れるからという。
(監督と主演者)
 この映画はスコセッシ作品の『グッド・フェローズ』や『アイリッシュマン』と構図が同じ。自分を守るために法廷で司法取引に応じるかどうかというテーマである。それは遠藤周作原作の『沈黙』を映画化したことでも判るように、「裏切りとは何か」が終生のテーマなのだろう。しかし、それにしても長すぎると思う。製作会社側は休憩を取らずに上映することを求めていて、ヨーロッパでは休憩を入れたために契約違反に問われたという。だけど、3時間半近く拘束するなら、もっとキビキビした展開が必要だ。力作ではあるが、賞レースではノミネート止まりになる気がする。ラストで後日譚がラジオドラマの公開放送で示されるのは新工夫。なお、2023年8月に亡くなった音楽担当のロビー・ロバートソンに捧げられている。

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