尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「台湾有事」の可能性ー金門馬祖が「クリミア」化する日はあるか

2022年01月14日 22時57分30秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ危機に続いて、「台湾有事」も検討しておかなくていけない。前々から台湾問題は存在するわけだが、中国海軍の軍事力強化、東アジア一帯での活動活発化にともなって、「中国軍が台湾に侵攻する可能性」を警戒する声が高くなってきた。日本は米国だけでなく、オーストラリアやイギリスなどとの軍事的協力を強めている。政治家の発言も多くなってきた。台湾のシンクタンク主催のオンライン討論会で安倍晋三元首相が「台湾有事は日本、日米同盟の有事だ。この点の認識を習近平国家主席は断じて見誤るべきではない」と述べた(2021年12月1日)のはその代表例である。
(「台湾有事」シナリオ)
 ウクライナ危機と違って、こちらの「台湾有事」は短期的には存在しない。中国政府は当面の北京冬季五輪(及び新型コロナウイルスのオミクロン株封じ込め)、そして2022年に開催される第20回中国共産党大会が無事に終わることで精一杯だろう。さらに付け加えれば、「恒大集団」が完全に破綻して中国経済にリーマンショック級の悪影響を与える事態を防ぐという大問題がある。(現時点では恒大が破綻しても、それだけでは世界恐慌への引きがねにはならない可能性が高いと言われているようだが。)

 1949年に建国した中華人民共和国にとって、「台湾省」の「解放」は長年の課題である。しかし、建国直後の中国は、「大陸反攻」を唱える蒋介石軍を攻撃するのではなく、1950年10月に朝鮮戦争に参戦することになった。中国が「抗美援朝義勇軍」を送った経緯には、複雑な国際政治の絡みがあった。それは別にしても、当時の人民解放軍には海軍力が無く、陸続きの朝鮮には参戦できても、海を隔てた台湾は攻撃できなかったのである。以来70年を経て、現在の中国の海軍力は大幅に増強されたから、その気になれば台湾攻撃そのものはできないことはないだろう。

 これを中国政府に直接問いかけても、「内政問題」という以外の答えは返ってこない。実際、日本もアメリカも「一つの中国」を認めているのだから、まさに「内政問題」に違いない。だからといって、人権概念の発達した現代において、武力侵攻による「現状変更」を認めることもできない。しかしながら、ウクライナ危機と同じく、現在では衛星写真で監視しているわけだから、事前に侵攻可能性は察知できるだろう。台湾侵攻のような大作戦では、相当大規模な準備期間が必要で、艦隊の集結、無線放送の激増など明らかなサインがある。だから今の段階ではウクライナの方がずっと重大な危機なのであって、いますぐ「台湾有事」があるかのような言動には他の意図があるのだろう。
(「台湾有事は日本有事」と語る安倍元首相)
 ただ、ここで僕が指摘したいのは「台湾有事」のバリエーションである。先に掲げた画像にあるように、今の「台湾有事」は中国本土から台湾島に直接大規模な攻撃があるというイメージが強い。だけど、僕が思うには「台湾有事」にもいくつかの段階があり得る。ウクライナではまずクリミア半島が併合されたのと同様である。「台湾」というけれど、形の上では大陸から逃れてきた「中華民国政府」である。「中華民国」が現実に統治している地域は、台湾澎湖諸島金門諸島馬祖諸島になる。
(金門、馬祖の位置)
 澎湖(ほうこ、ペンフー)諸島は台湾島西方にあって、台湾省に所属する。昔から台湾と別個に扱われることが多く、下関条約でも台湾とともに澎湖諸島を割譲と別立てで明記されている。一方で大陸のそばにある「金門諸島」と「馬祖諸島」は台湾省ではなく、福建省に属する小諸島である。特に金門諸島では1950年代に砲撃戦が続いたものの、蒋介石軍が防衛に成功した。そのため、今に至るまで台湾側の統治する島になっている。中国にとって、台湾本島を制圧するのは政治的、軍事的、経済的にも難しいと思われるが、金門、馬祖を制圧するのは比較的容易なのではないだろうか。

 安倍元首相の言う「台湾有事は日本有事」という発言は例によってあまり考えられたものとは思えない。中国人民解放軍は「台湾解放」が目的なのであって、日本を侵攻する意図があるわけではない。(もっとも尖閣諸島は台湾省所属と主張しているから、間接的には影響はある。)それにアメリカ軍がどう対応するかは中国にとって重大だが、日本はアメリカの下請け以上の役割を軍事的.政治的に果たせるはずもない。「この点の認識を習近平国家主席は断じて見誤るべきではない」などと大見得を切っても、日本がどうしようが関係ないとしか思ってないだろう。

 台湾本島が攻撃されたときに「邦人保護」をどうするかなどと議論するなら、金門・馬祖が軍事的に封鎖されたときの対応を練っておくべきではないのか。「力による現状変更」にはG7として大々的な制裁措置を発動せざるを得ない。その結果、中国だけでなく、日本や全世界の経済も破壊的な影響を受けてしまう。だから、中国との経済関係を深めるべきではないという考えもあるだろう。でも、そんな対応を取ったら日本以外の国が中国に進出するだけに決まってる。中国と対立すると、レアメタルが入って来ないなどが起こりうる。だがその結果中国経済も打撃を受ける。中国の軍事的挑発を抑止できるほど、中国と世界の経済関係を密接にする方が影響力を行使できるのかもしれない。様々なケースを想定しながら、幾つもの戦略的判断を積み重ねることが大事だ。
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