尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

これからの部活はどうなるかー部活を考える⑤

2018年01月29日 23時24分01秒 |  〃 (教育問題一般)
 先に行われた卓球の全日本選手権で、男子の張本智和選手が14歳で優勝した。これは最年少記録で、今までの記録は前年の女子、平野美宇選手の16歳だった。ところで、この二人の「所属」は「エリート・アカデミー」になっている。これは何だというと、JOCが全国から選抜した小中学生を集めてトレーニングするシステムである。東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターを拠点にして、生活を共にする。学校は北区立稲付中学校に通うが、学校の部活には参加しない。卓球だけでなく、レスリング、フェンシング、飛込、ライフル射撃でも行っている。

 義務教育段階の子どもを親元から離してトレーニングすることはどうなんだろうと思わないでもないけど、このような「世界的実績」がある以上、一応「スポーツ振興」としては「成功」なんだろう。ここまで来た生徒は、学校では全く指導できない。だから彼らは「全日本」には出るけど、中学や高校の大会には出ない。代わりに世界の大会に出る。それは他の競技、フィギュアスケートなど10代の選手が活躍している競技でも同じである。問題はこのような生徒にふさわしい高校がほとんどなく、通信制や高卒認定試験などを選択する生徒も多いことだろう。(その問題は別に書きたい。)

 話変わって、2018年春の選抜高校野球の出場校が決まった。全36校のうち、公立校は富山県立富山商(6回目)、静岡県立静岡(17回目)、滋賀県立彦根東(4回目)、京都府立乙訓(初)、福岡県立東筑(3回目)、宮崎県立富島(初)の6校と「21世紀枠」の秋田県立由利工(初)、滋賀県立膳所(4回目)、佐賀県立伊万里(初)の3校、合わせて9校である。案外多いなという気もするが、「21世枠」という特別選考を除けばほとんどが私立高。毎回おなじみの大阪桐蔭、日大三、明徳義塾、星稜、駒大苫小牧、花巻東、東海大相模…出身のプロ選手も思い浮かぶような私立高ばかりである。

 これらの私立高は有力選手を全国から集めている。もう地域対抗とは言えなくなっている。一方で、夏の予選に「合同チーム」で参加する高校が増えている。一校では選手が少ないので、そういう学校が集まって参加する。そういうやり方がいつから認められたか覚えてないけど、各地で増えているのは間違いない。結局のところ、もはや公立の中学、高校が部活動を担って行くことが無理になって来ているということではないだろうか。多くの教員が部活が大変すぎると声を挙げているのも、少子化で生徒も減る、教員数も減る、学校への要求だけは増えるという中で、部活動まで面倒が見られなくなりつつあるということだ。

 しかし、生徒の課外活動は大事だ。多くの若い世代にスポーツや芸術活動の機会を提供するのは「地域おこし」にもつながるし、ある意味産業的な意味も大きい。スポーツ用品や楽器は、それを使う人がいないければ誰も買わない。世界でも評価されている日本企業があるのも、プロだけでなく、それを使う幅広い裾野需要があるからだろう。学校で引き受けられない「高度の部活指導」は、地域で行う以外にやり方がない。私立に行ける生徒ばかりではない。通学する中学にない部活でも、地域ごとにまとまれば、他の学校や地域のスポーツセンターなどで実施できる可能性が出てくる。

 考えてみれば、野球やサッカーなどは小学校時代は大体地域で活動している。中学に入ったら突然、学校の部活動が中心になってしまう現状の方がおかしい。まあ、それも判らないではない。すぐそばにいる生徒で部活をやる方が簡単だ。世界レベルを目指す生徒じゃないなら、学校単位で参加する地区大会を突破して、都道府県大会に出るのが目標でいいわけだ。その代わり、各種目は「団体戦」になる。陸上競技の中距離走なんかでも、個人競技よりも「駅伝」が最大の目標になってしまう。もとは個人種目なのに、数人で組んで団体戦をやったりする。

 むしろ、その団体戦で養う(とされる)「団結力」、あるいは目標に向けて頑張る「努力」、仲間同士の「信頼感」や「友情」のドラマこそが、部活をやる意味のように思われているのではないか。それがまた「進路活動」で役に立つ。「部活体験」を評価する上級学校や企業が多いのは事実だろう。でも、それでいいのだろうか。そのような日本の教育の「集団主義」はもうダメで、「自ら考える力を養う」のがこれからの日本のためには大事なんだと言われているじゃないか。

 学校の部活を中心にする限り、野球、サッカー、バレーボール、バスケットボール、あるいは吹奏楽などの「団体競技」が中心になってくる。だけど、生徒も様々だろう。リオ五輪で銅メダルを取ったカヌーの羽根田卓也選手は、高校卒業後にスロバキアに渡った。強豪国で成長したいと思ったわけである。日本の学校ではあまり行われていない競技は、地域で取り組まないと外国へ行くしかない。陸上でも投てき種目など、は危険性もあって学校ではやりにくい。個人で取り組む方が好きだという生徒はいっぱいいるはずだ。文化部でも文芸、写真、囲碁、将棋などは地域で取り組んだ方がいい。

 今書いてきたことのイメージは、部活を学校から完全に切り離すということではない。指導者もいて、活動場所もある場合、地域のスポーツチームを作る。あるいは地域の楽団、合唱団、劇団などを作る。しかし、それに参加するには、一定の技量を見る選抜テスト、オーディションがあることになると思う。だから高い技量を持つ生徒は地域チームに参加し、それは非常に名誉なことだと周りも思う。参加できない生徒は、大会優勝などを目標としない、学校にある「同好会」で「楽しむ」を中心にした活動を行ってもいい。それは生徒の自主性を大切にし、教員も出来る範囲で参加し一緒に楽しむ。

 部活はそういう風になっていくしかないと思う。取り組める地域から動き始めるのがいい。必ずそうなると思う。小さな学校で部活を行い、大会では合同チームで参加するなんていうよりずっといい。地方でもスポーツや文化施設は整っている。指導者は退職教員を中心に、「元気な高齢者」が多いから、必ず見つかる。出来るところから始めて、政策的にも国家的な支援を行って欲しいと思っている。
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