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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

チャペックの旅行記-チャペックを読む②

2018年01月16日 23時43分05秒 | 〃 (外国文学)
 年末に犬猫の本を書いてから時間が経ったけど、その後もチェコの作家カレル・チャペックを読み続けている。その幅広い作家活動、ユーモアあふれる文章にますますひかれている。そして、小国チェコと世界平和を守るために奮闘し続けた姿にも、敬愛の念が増すばかり。そのチャペックがヨーロッパ各国を訪ねた時の旅行記が残されている。ちくま文庫に5冊入っていて、そのうち「チェコスロヴァキアめぐり」は品切れのようだけど、残りの4冊は今も大きな書店には並んでいる。

 戦後まで活躍出来ていたら、多分飛行機に乗って世界各地をめぐったことだろうと思う。1920年代、30年代だから、飛行機ではなく鉄道で回るしかない。それでもヨーロッパ各地の様子をこれほど書いた人も少ないのではないだろうか。どれもそんなに長くないうえに、チャペック本人のたくさんの絵が付いている。短いのはチャペックが関わっていた新聞に連載されたからであり、チャペックのジャーナリストとしての才能を存分に味わうことができる。

 チャペックは戯曲「ロボット」を書いて、高い評判を得た。そのためイギリスで開かれた1924年の国際ペン大会に招待された。それをきっかけとして、ロンドンやイングランド各地、スコットランドなどを訪ねた記録が「イギリスだより」。旅行記の最初で、イギリス作家の有名人にも会っている。でも、それよりロンドンの公園や博物館を訪ねた話が面白い。田舎を周ると、落ち着いた古い家で人々が暮らしていてイギリスの本質をそこに見ている。そして、スコットランドの美しさ。イングランド北部の湖水地方の絵も素晴らしい。当時世界一の国はイギリスだから、チャペックも一生懸命見て回っている。

 次の「スペイン旅行記」もとても面白い。闘牛を見たり、ベラスケス、エル・グレコ、ゴヤの絵に関する話。アンダルシアやセビリアのムード。フラメンコも。だけど、僕が一番面白いと思ったのは、ハプスブルグ家が支配した証である「双頭の鷲」の紋章を見つけて感慨にふけるところ。もちろんチェコスロヴァキアも、ついちょっと前までハプスブルグ家のオーストリア帝国に支配されていた。同じ歴史を発見しているわけだ。これは「オランダ紀行」でも出てくる。オランダもハプスブルグ帝国だった。

 僕が一番面白いと思ったのは、「北欧の旅」。これは1936年に旅した記録で、遅い結婚をした妻のオリガを伴って一種の新婚旅行でもあった。チェコからドイツに入り、北上してデンマークへ。デンマークがいかに素晴らしいかがよく判るが、あっという間に通り過ぎてスウェーデンへ。ストックホルムを見た後で、ベルゲン鉄道でノルウェーへ。ここで小さな船で北上し、フィヨルドを見て回りながらどこまでも北へ行ってみるのだ。恐るべき大自然を見てみたい。北極圏に行きたいのである。だから、北欧と言いながら7割ぐらいはノルウェー紀行。でもフィヨルドを自分も見たかの感じになる。

 「オランダ絵図」は再びペン大会に参加したのをきっかけにオランダを旅した記録。これを読んでちょっと驚いたのは、今オランダと言えばゴッホフェルメール目当ての人も多いと思うけど、チャペックも同じだったこと。ただし、フェルメールは「フェルメール・ファン・デルフト」と書かれている。フェルメールにこの頃からこんなに注目していたとは、やはりチャペックならでは。田園や運河を見て回り「オランダの光」の独自な素晴らしさをたたえる。

 「オランダ絵図」には最後にペンクラブに関する文章が載っている。それを読むと、彼がいかにペンクラブ活動に尽力したかが判る。彼も一度は他の人に代わってもらいたかったらしいが、チェコで最も有名な作家として代わりはいなかった。そして祖国がナチスドイツに狙われていた時代に、国境を越えて民族の友好を進めることに大きな意義を感じている。チャペックらの活動にもかかわらず、ヨーロッパは再び戦火に見舞われた。それを考えても、いわゆる「戦間期」にヨーロッパ各国を訪れユーモラスに理解を深めたチャペックの本は素晴らしいと思う。

 今「カレル・チャペック」と打ち込むと、最初に出てくるのは「カレルチャペック紅茶店」なんだけど、その会社を主宰する絵本作家、山田詩子さんのイラストマップが載っているのも楽しい。なお「チェコスロヴァキアめぐり」は地元の図書館にあったので借りて読んだが、これは死後にまとめられたもので、まとまったチェコ旅行記ではない。そりゃ、自分の国だから当然だろう。生まれ故郷や首都プラハ、そしてスロヴァキア旅行などの文章が集められている。
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映画「ブリムストーン」、壮大な復讐の西部劇

2018年01月16日 22時38分12秒 |  〃  (新作外国映画)
 限定公開で19日までなのだが、「ブリムストーン」(BRIMSTONE)という映画が公開されている。(東京は新宿武蔵野館のみ。)19世紀アメリカの西部を舞台にした壮大な復讐劇で、2時間28分もあるけど時間を感じさせない面白さだった。記録の意味で簡単に書いておきたい。

 西部の寒村に住むリズは、年の離れた夫と二人で暮らすが、なぜか言葉を話せない。耳で聴きとることはできるようだが。そこの教会に牧師がやってきて、罪の恐ろしさを説くがリズは彼を見て恐怖にとらわれる。その後、リズは難産の女性を助けようとするが、母と子を共に救うことはできないとして母の命を優先することにした。その措置を「神に背く」とした牧師はリズを迫害する。

 この段階ではキリスト教をめぐる争いかと思うが、やがてもっと複雑で長い確執があることが判ってくる。第2章になると、砂漠を彷徨っていた少女が中国人に救われるが、鉱夫相手の娼館に売られる。やがて少女は娼婦として働かされるようになり、さまざまな苦労を重ねる。これが実はリズの前身。なぜ口が利けなくなったかが判る。さらに第3章では、オランダから来た母子が牧師と暮らす日々が描かれる。これがリズの子ども時代で、豚を飼いながら暮らしていたが、牧師と母の関係は悪く、牧師は少女こそ自分のために神が遣わした女性だと思うようになった。

 とにかく、どこまでも追ってくる牧師が恐ろしく、それにリズが多くの犠牲を払いながら立ち向かう。一応「西部劇」とも言えようが、オランダや多くの国の合作でヴェネツィア映画祭のコンペティションに出品された作品。監督はオランダのマルティンコールホーヴェンという人である。主演のリズは、ダコタ・ファニングで圧倒的に素晴らしい。最近は「ネオン・デーモン」などに出た妹のエル・ファニングの活躍が目立つが、姉も大活躍。もともと姉妹とも子役で「アイ・アム・サム」などで活躍した。役者としての度胸も十分で、今後大きく伸びそうな美女姉妹として要チェック。牧師はガイ・ピアース
 (ダコタ・ファニング)
 信仰の名のもとに、いかに支配欲が暴走していくか。男性中心社会で女性がいかに苦しめられてきたか。非常に恐ろしい物語なんだけど、アメリカ西部の自然描写が美しく、人間と自然を対比してしまう。特にラスト近くの雪中の襲撃シーンがすごい。ラストもビターな結末で、最後まで長さを感じさせずに物語に没頭してしまった。
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