声上げた“おかか”たち 女性のたたかい現代に
映画「大コメ騒動」 本木克英監督
もとき・かつひで 映画監督。1963年生まれ。松竹に入社し98年、「てなもんや商社」で監督デビュー。監督作「超高速!参勤交代」(ブルーリボン作品賞)、「空飛ぶタイヤ」(日本アカデミー優秀監督賞)、「釣りバカ日誌」11~13、「居眠り磐音」ほか
「米を旅にだすなー」―富山の浜のおかか(女房)たちの叫びが胸を貫きます。102年前、女性たちが声をあげた米騒動。富山出身の本木克英監督にとって、「いつかは」と念じていた題材を痛快にエンターテインメントとして描きました。その「大コメ騒動」が、1日からの富山県先行公開に続き、8日から全国で公開されます。本木監督に聞きました。(児玉由紀恵)
1918年、富山の漁師町。松浦いと(井上真央)は、夫(三浦貴大)を出稼ぎに送り出し、3人の子を抱えて日銭を稼ぎます。60キロの米俵を背負い、蔵から浜の船まで運んで日当は20銭。ところが、米の値段は一升が20銭以上で、さらにどんどん値上がりし、シベリア出兵の報とともに、次第に手の届かないものに―。困窮する、いととおかかたちは、米の積み出しを止めようと立ち上がりますが…。
映画は、実際の事件を基にオリジナルの物語で運ばれます。
8日から東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開©2021「大コメ騒動」製作委員会
先人への敬意
「明治以降、日本の近代化の過程で、ばんどり騒動(ばんどり=蓑をまとった一揆)など嘆願運動が繰り返されてきました。新聞の普及で全国に知られるようになったのが、1918年7月の米騒動でした。全国では、一部暴徒化したり、打ち壊しをしたりした例もありましたが、この富山の場合は、それとは異なります。細民(さいみん)と言われた女性たちが、生活のため必死の思いで米俵にしがみついて積み出しを止めようとした、それが『暴動』などの刺激的な伝えられ方をして、当事者たちは長らく口を閉じていたのです」
「真摯に面白く、僕なりの表現方法、娯楽映画の形で」という本作。「口をつぐんでしまったばあちゃんたちの気持ちを富山弁で」と先人への敬意がこもります。
おかかたちを引っ張っていく「清んさのおばば」(室井滋)は、その名を聞けば子どもも泣き出す異様な風体ですが、ここぞというとき叫びます。「負けんまい!」と。おかかたちは結束して「米安う売れー」と訴えたり、米屋の女将の分断策に乗せられたり。警察と権力者らとの陰での結託もあり、ドラマティックな展開で引き込みます。
本が好きな、いとの読む新聞でおかかたちは世の中の動きを知ります。
その新聞の誇張や虚偽の報道ぶりは、現代の報道をも照射するかのようです。
「これを作っているときに、トランプ大統領のフェイクニュースが話題になっていました。また、香港の民主化運動が激しさをまし、がんばる女性や若者たちのニュースも届いていた時期で、そんなこととリンクするイメージがありましたね。米騒動後、ジャーナリズムが弾圧され、やがて戦争へ。そんな歴史も考えてもらえるきっかけになれば―」
腰に重心をかけ歯をくいしばって重い米俵を運び、始終日焼け顔のおかかたち。ある時は、警察の前での座り込みも辞さない度胸です。
「おかかたちの気持ちを伝えるにはどうしたらいいか、女優さん一人ひとりに聞きました。みんな本格的に当時のおかかになろうと、本当らしさを大切にしたい、と。どこまで作り込むか、僕からこう演じてと演出の押し付けはやらなかった。俳優から率先して意見を寄せてもらえる環境を作ったことが監督としては良かったかな、と。映画は虚構ですが、その中で伝える真実が間違っていなければいいと思います」
使命感持って
今作は、松竹を退社しフリーになって3年目に実った映画化。大手の配給会社にすべて断られ、懸命に資金繰りをし16日間で撮影を終えました。20年来の技量のたまものでしょう。
「監督になってから、ある種の使命感を持って思い続けた企画です。同県人でもある岩波ホール総支配人だった高野悦子さんに勧められたのが20年前でした。いま、格差は広がり、女性の困窮化は深まっています。この映画を機に、おかかたちが声をあげた米騒動に関心を持っていただけるとうれしいですね」
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年1月6日付掲載
「超高速!参勤交代」(ブルーリボン作品賞)、「空飛ぶタイヤ」(日本アカデミー優秀監督賞)など、話題の作品を送り出して来た本木克英監督。
今回はシベリア出兵を控えた大正時代、富山県から起こった米騒動を取り上げます。
女性が中心になって起こした市民運動の原点。おかかたちを引っ張っていく「清んさのおばば(その名を聞けば子どもも泣き出す異様な風体)」(室井滋)の配役も面白い。
兵庫県では、TOHOシネマズ西宮OSで上映中です。
映画「大コメ騒動」 本木克英監督
もとき・かつひで 映画監督。1963年生まれ。松竹に入社し98年、「てなもんや商社」で監督デビュー。監督作「超高速!参勤交代」(ブルーリボン作品賞)、「空飛ぶタイヤ」(日本アカデミー優秀監督賞)、「釣りバカ日誌」11~13、「居眠り磐音」ほか
「米を旅にだすなー」―富山の浜のおかか(女房)たちの叫びが胸を貫きます。102年前、女性たちが声をあげた米騒動。富山出身の本木克英監督にとって、「いつかは」と念じていた題材を痛快にエンターテインメントとして描きました。その「大コメ騒動」が、1日からの富山県先行公開に続き、8日から全国で公開されます。本木監督に聞きました。(児玉由紀恵)
1918年、富山の漁師町。松浦いと(井上真央)は、夫(三浦貴大)を出稼ぎに送り出し、3人の子を抱えて日銭を稼ぎます。60キロの米俵を背負い、蔵から浜の船まで運んで日当は20銭。ところが、米の値段は一升が20銭以上で、さらにどんどん値上がりし、シベリア出兵の報とともに、次第に手の届かないものに―。困窮する、いととおかかたちは、米の積み出しを止めようと立ち上がりますが…。
映画は、実際の事件を基にオリジナルの物語で運ばれます。
8日から東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開©2021「大コメ騒動」製作委員会
先人への敬意
「明治以降、日本の近代化の過程で、ばんどり騒動(ばんどり=蓑をまとった一揆)など嘆願運動が繰り返されてきました。新聞の普及で全国に知られるようになったのが、1918年7月の米騒動でした。全国では、一部暴徒化したり、打ち壊しをしたりした例もありましたが、この富山の場合は、それとは異なります。細民(さいみん)と言われた女性たちが、生活のため必死の思いで米俵にしがみついて積み出しを止めようとした、それが『暴動』などの刺激的な伝えられ方をして、当事者たちは長らく口を閉じていたのです」
「真摯に面白く、僕なりの表現方法、娯楽映画の形で」という本作。「口をつぐんでしまったばあちゃんたちの気持ちを富山弁で」と先人への敬意がこもります。
おかかたちを引っ張っていく「清んさのおばば」(室井滋)は、その名を聞けば子どもも泣き出す異様な風体ですが、ここぞというとき叫びます。「負けんまい!」と。おかかたちは結束して「米安う売れー」と訴えたり、米屋の女将の分断策に乗せられたり。警察と権力者らとの陰での結託もあり、ドラマティックな展開で引き込みます。
本が好きな、いとの読む新聞でおかかたちは世の中の動きを知ります。
その新聞の誇張や虚偽の報道ぶりは、現代の報道をも照射するかのようです。
「これを作っているときに、トランプ大統領のフェイクニュースが話題になっていました。また、香港の民主化運動が激しさをまし、がんばる女性や若者たちのニュースも届いていた時期で、そんなこととリンクするイメージがありましたね。米騒動後、ジャーナリズムが弾圧され、やがて戦争へ。そんな歴史も考えてもらえるきっかけになれば―」
腰に重心をかけ歯をくいしばって重い米俵を運び、始終日焼け顔のおかかたち。ある時は、警察の前での座り込みも辞さない度胸です。
「おかかたちの気持ちを伝えるにはどうしたらいいか、女優さん一人ひとりに聞きました。みんな本格的に当時のおかかになろうと、本当らしさを大切にしたい、と。どこまで作り込むか、僕からこう演じてと演出の押し付けはやらなかった。俳優から率先して意見を寄せてもらえる環境を作ったことが監督としては良かったかな、と。映画は虚構ですが、その中で伝える真実が間違っていなければいいと思います」
使命感持って
今作は、松竹を退社しフリーになって3年目に実った映画化。大手の配給会社にすべて断られ、懸命に資金繰りをし16日間で撮影を終えました。20年来の技量のたまものでしょう。
「監督になってから、ある種の使命感を持って思い続けた企画です。同県人でもある岩波ホール総支配人だった高野悦子さんに勧められたのが20年前でした。いま、格差は広がり、女性の困窮化は深まっています。この映画を機に、おかかたちが声をあげた米騒動に関心を持っていただけるとうれしいですね」
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年1月6日付掲載
「超高速!参勤交代」(ブルーリボン作品賞)、「空飛ぶタイヤ」(日本アカデミー優秀監督賞)など、話題の作品を送り出して来た本木克英監督。
今回はシベリア出兵を控えた大正時代、富山県から起こった米騒動を取り上げます。
女性が中心になって起こした市民運動の原点。おかかたちを引っ張っていく「清んさのおばば(その名を聞けば子どもも泣き出す異様な風体)」(室井滋)の配役も面白い。
兵庫県では、TOHOシネマズ西宮OSで上映中です。