く~にゃん雑記帳

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<奈良市写真美術館> 百々俊二回顧展「よい旅を 1968―2023」

2023年09月23日 | 美術

【佐世保・ロンドン・バンコク・大阪新世界・紀伊半島…】

 「入江泰吉記念奈良市写真美術館」で、前館長百々(どど)俊二氏の55年に及ぶ写真家人生を振り返る回顧展が始まった。題して「よい旅を 1968―2023」。内外を旅し「街とそこに暮らす人々の日常」をテーマに撮り続けてきた作品の中から約300点を一堂に展示している。「入江泰吉 文楽と大和の風景」展も同時開催。11月26日まで。

 百々氏は1947年大阪府生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科を卒業し、1998年から大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校・大阪)の学校長を務めた。2015~22年、奈良市写真美術館館長。主な写真集に「楽土紀伊半島」「新世界むかしも今も」「日本海」などがある。今春「次世代の若き写真家に真摯に向き合い、常に切磋琢磨を共にしてきた」功績で日本写真協会功労賞を受賞。長男新氏、次男武氏も写真家として活躍している。

 会場入り口正面に展示されているのは1970年にロンドンの街角で撮影した写真3点。中央の写真には「THE BEATLES LET IT BE」という大きな広告も写っていた。右側と向かい側の壁面を飾るのは1968年撮影の「佐世保 原子力空母エンタープライズ寄航阻止闘争」と69年の「福岡 九州大学教養部バリケード機動隊突入」。佐世保を撮影した19歳の冬「本気で写真家になると決めた」。

 その後、沖縄や岩国を訪ね、1980年代には大阪の下町「新世界」を頻繁に訪れては路地裏や人々の素顔を撮り続けた。作家の田辺聖子が「人生の細部の輝かしさ」と題し百々氏の写真をこう評している。「町の匂いまで嗅ぎとられそうな気がする」「人間の体温にむれた下町への愛着がほんものだからだろう」。百々氏は2007~10年にも「大阪」を改めて写真に収めている。撮影スポットはここでも京橋、鶴橋、千林など庶民の街が中心。

 同時に1995年以降、度々「紀伊半島」を様々なルートで訪れて「紀伊の風土にしっかりと根を下ろして生きる人々」に焦点を当ててきた。百々氏はそれを「巡礼の旅」と呼ぶ。展示作品の多くはモノクロだが、その中にドキリとするカラー写真もあった。血を流して横たわるイノシシの死骸(和歌山県本宮町)。仕留められた直後だろうか、それとも解体が始まったところだろうか。そのすぐ下に展示されているのはスイカやキュウリを冷やした涼しげな水汲み場(奈良県十津川村)。凄惨と清涼。上下の写真の対照的な光景が強く印象に残った。

【奈良舞台の文楽演目の地を入江作品で紹介】

 入江泰吉は終戦前まで大阪で写真店を営み、近くにあった「人形浄瑠璃文学座」に足繁く通った。そこで撮った「文楽シリーズ」が入江の出世作となった。文楽の演目の中には大和路に伝わる神話や伝承を題材にしたものも少なくない。同時開催中の「入江泰吉 文楽と大和の風景」展では奈良が舞台になっている文楽の演目の地を入江の作品で紹介している。

  

 「壷坂霊験記」はお里が盲目の夫・沢市の目が見えるように、と壷阪寺に日参し願掛けするというお話。『壷阪寺山内秋色』は真っ赤に染まる紅葉が背後の堂塔に映え美しい。文楽「義経千本桜」では『吉野山義経隠塔付近の山路』、「妹背山婦女庭訓」では『吉野妹背山』などの風景写真を、文楽シリーズの作品とともに展示している。

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